阿刀田 高 (あとうだ たかし)

1935.1.13〜
東京都生まれ。
1954年、早稲田大学(第一文学部フランス文学専修)卒。
その後、文部省図書館職員養成所に入学。
1961年、国立国会図書館の司書をしながらエッセイを書き始める。
1964年「ころし文句」(長崎寛と共著)を刊行。
1969年「ブラックユーモア入門」で名声を得て専業作家に。
ミステリとブラックユーモアが効いた短編、ショートショートの名手。
エッセイやダイジェスト本の評価も高い。

1979年、短編「来訪者」で第32回日本推理作家協会賞受賞。
1979年、短編集「ナポレオン狂」で第81回直木賞受賞。
1995年「新トロイア物語」で第29回吉川英治文学賞受賞。
2003年、紫綬褒章受章。

文部科学省設置の文化審議会の会長、
日本推理作家協会理事長(1993〜97年〜)、
直木賞選考委員(1995年〜)、
日本ペンクラブ会長(第15代)なども務める。
1979ナポレオン狂★★★★
自らナポレオンの生まれ変りと信じ切っている男、 はたまたナポレオンの遺品を完璧にそろえたいコレクター。 その両者を引き合わせた結果とは? ダール、スレッサーに匹敵する短篇小説の名手が、 卓抜の切れ味を発揮した直木賞受賞の傑作集。 第32回日本推理作家協会賞受賞の「来訪者」も収録する。 日常の狂気にブラックユーモアをまぶした作品集。  ナポレオン狂 ナポレオングッズの筋金入りの蒐集家と、 ナポレオンの生まれ変わりと主張する男。 ふたりが顔をあわせた結果やいかに? 読めちゃうけど、言い回しの妙の勝利ですかね。  来訪者 良家のお嬢様が出産時に世話になった雑役婦が、 退院後もたびたび来訪。その目的は? んふー、ゾクゾク、キレがいいです。  サン・ジェルマン伯爵考 父が死に際に伝えた待ちあわせ場所で待つ息子。 そこにやってきたのはサン・ジェルマン伯爵。 "死を欺いた男"として知られる彼の不老不死の秘密とは? サンジェルマン伯爵ってだれぞ?って場合はwikiなどで。 なかなかロマンあふれる仕上がりです。  恋は思案の外 娘が男に騙され、会社の金を200万円使い込んだ。 それを穴埋めするため、幼児誘拐を決行する父親だが……。 誘拐は身代金の受け取り時が難関だけど、 それを奇抜な方法でクリアしています。オチもみごと(w  裏側 妻の様子がどこか艶っぽくおかしい。 不貞を疑う夫だが、思いもよらぬ真相が――! 妻の陰部をじっくり観察するくだりが笑える(w  甲虫の遁走曲 白タクの運転手が事故で入院中、 愛車のフォルクス・ワーゲンが話しかけてきた。 主の財政状況を心配し、無人で稼いでくるという。 そんなふしぎな日々が続くのだが……。 自動車が欲情する想像図がなんとも(^^;  ゴルフ事始め スコットランドとイングランドのお偉方が、 ゴルフ発祥の地は我らと主張し、ゴルフ対決に。 勝利を収めた男にはある悪魔的な秘密があり―― なるほど、これが原因で蔓延しているのか。  捩れた夜 結婚を控えた男の前に夜な夜な現われるなぞの女性。 気になりながらも男は婚約者と結婚するが、 翌朝、妻がベッドで絞殺されていた。いったいなにが? 捩れていてもどこかメビウス風。  透明魚 ショートショート。 男がぶらりと立ち寄った喫茶店の水槽に透き通った魚が。 それに見入っていると、見知らぬ女性に声をかけられ―― グラスキャット、ナマズなんだ。  蒼空 ショートショート。 平凡なサラリーマンがふと日常に嫌気が差し、 列車を乗りついで、やがて蒼空のきれいな場所へ行き着くが―― 共感してしまう危険性がありますね><  白い歯 ショートショート。 歯の健康こそ至高なりと豪語する妊婦。 その熱意が思わぬ方向に働き……。 他に代わりがいくらでもあるだろうに(´・ω・`)  狂暴なライオン 独立的な30過ぎの女性が妻子ある男に夢中に。 馬鹿げてると思いながらも頭から彼のことが離れず、 仕事も手につかない自らのありさまに業を煮やし―― お、女はおっかねえ!女は信用できねえ!  縄 ―編集者への手紙― 自殺願望を持ちながらも実行できない人間の前に"縄"が現われ、 絞殺するという話を聞き、その現場まで目撃した男。 男は原稿の締め切りに追われ、死を想うと、そこに―― 怪談してます、ちょっとこわいです。
1987恐怖同盟★★★☆☆

恐怖は人間の最も古くからの感情だと言われている。 真っ暗闇の中で野獣に襲われる恐ろしさを想像してみれば、容易に納得がいく。 ―頭をガンと殴られるような恐怖、気がつかないうちにじわりと効いてくる恐怖、 ノドに刺さった小骨のようにしつこい恐怖、etc… 悪夢と狂気のブラック・ワールドを描かせては当代随一の筆者が贈る連作恐怖小説集。 「顔」「血」「鳥」「疣」「妖」「老」など10篇。 他に「家」「耳」「雲」「道」。連作ではない短編集。 "世にも奇妙な物語"っぽい。 それぞれ切り口が違ってて個性がある。
1989ブラック・ユーモア傑作選★★★☆☆

ブラック・ユーモアの第一人者が、楽しみながら選んで贈るこの一冊。 座頭H 飯沢匡 五郎八航空 筒井康隆 狐憑 中島敦 ナポレオンと田虫 横光利一 吉備津の釜 日影丈吉 桜の森の満開の下 坂口安吾 おさる日記 和田誠 影なき男 遠藤周作 不可抗力 結城昌治 夢中犯 半村良 骨餓身峠死人葛 野坂昭如 階段 夏樹静子 干魚と漏電 阿刀田高 赤西蛎太 志賀直哉 夢十夜のうち"第十夜" 夏目漱石 煙草と悪魔 芥川龍之介 編者(阿刀田)自身がブラック・ユーモアに定評があるので安心と信頼の短編集。 古典と呼べるものもいくつかまじってて、それがかえって新鮮に感じられます。 名前を見ての通り文豪だらけですね。 本人の作品も1つ収録。 電気代が高いとごねる老婦人の物語。生臭いシシャモの描写が効いています。
1991旧約聖書を知っていますか★★★★
「旧約聖書」を読んだことがありますか。 天地創造を扱う創世紀あたりはともかく、 面倒なレビ記、申命記付近で挫折という方に福音です。 預言書を競馬になぞらえ、ヨブ記をミュージカルに仕立て、 全体の構成をするめにたとえ― あらゆる意味での西欧の原点「旧約聖書」の世界を、 枝葉末節は切り捨て、エッセンスのみを抽出して解説した、 阿刀田式古典ダイジェストの決定版。 ユダヤ教の聖典「旧約聖書」のダイジェスト・エッセイ。 信者からすれば"旧約"もへったくれもないでしょうけども。 作者は全体をするめ(!)に例えていて―― 頭……天地創造、アダムとエバ、カインとアベル、ノアの方舟、バベルの塔 胴……アブラハム、イサク、ヤコブ、ヨセフ、モーセ、ヨシュア、ダビデ、ソロモン 足……詩篇、箴言、雅歌、預言書 ――と、上から、神話、歴史(歴代誌)、文学・預言、 の3つに分類している感じ。あくまで本書において、ですよ。 頭と胴のエピソードはひと通り網羅しています。 足の部分はわずかにページを割いているだけ。 とにかく基礎の基礎なのでとっつきやすさは抜群。アイヤー、ヨッ! また、作者は、難易度はあがるけどと注意し、 犬養道子著の「旧約聖書物語」(新潮社刊)も推奨しています。
律法(トーラー)(モーセ五書=「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」)+預言書+諸書=旧約(全39巻)
1993新約聖書を知っていますか★★★★
新約聖書の冒頭で、 マリアの夫ヨセフの系図を長々と述べているのはなぜでしょう。 処女懐胎が本当ならば、そんなことはイエスの血筋と無関係のはずです。 ところで、聖書の中に何人のマリアが登場するか知っていますか? ではヨハネは?そして、イエスの“復活”の真相は? 永遠のベストセラー『新約聖書』の数々の謎に、 ミステリーの名手が迫ります。初級者のための新約聖書入門。 キリスト教の聖典「新約聖書」のダイジェスト・エッセイ。 福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)を通しての、 イエスの誕生から十字架刑、復活までが当然メイン。 次に"パウロなければキリスト教なし"のパウロの生涯、 次にヨハネの黙示録で閉めという構成。 "アーメン、主イエスよ、来てください。 主イエスの恵みが、すべての者と共にあるように" 作者は信仰を持たない立場なので、 奇跡の冷静な分析なんかはアレルギー保持者でも安心かと。 神の子イエスより、人の子イエスとしての捉えかたのほうが好きだなぁ。 なんといっても処刑前夜の矛盾の叫びが胸を打ちます。
福音書+使徒言行録+パウロの手紙+その他手紙+黙示録=新約(全27巻)
2000楽しい古事記★★★★
イザナギ・イザナミの国造り、アマテラスの岩戸隠れ、八俣の大蛇。 伝説の主役たちが、嫉妬に狂い、わがままを言い、ご機嫌をとる―。 神々と歴代の天皇が織りなす武勇伝や色恋の数々は、 壮大にして奇抜、そして破天荒。 古代、日本の神さまはとっても人間的だった! 「殺して」「歌って」「まぐわって」。 物語と歴史が渾然一体となっていた時代、 その痕跡をたどり旅した小説家・阿刀田高が目にしたものは!? 古事記の伝承の表と裏をやさしく読み解いた一冊。 712年に成立した「古事記」のダイジェスト本。 「日本書紀」との比較もほんのり織り交ぜ好印象。 作者がゆかりの場所におもむく紀行としての要素もあり。 日本神話だけあって断片的には聞いたことのあるエピソードが 当然、多いですが、順序だって見るとまた興味深いです。 「歌を詠んでいる場合かっ」はおもしろい(w あの余裕、ゆとり、いいですねぇ。 手軽に「古事記」を味わえる好著です。
2003コーランを知っていますか★★★★★

「離婚しようとする者は四カ月待て」 「銀行は、利子を取ってはいけない」 「弁護士などは不要である。神がすべて清算する」 「コーランはアラビア語で読まなきゃダメ」 ―遺産相続から女性の扱い方まで、厳格かつ具体的、 ときにはこまやかにイスラム社会を規定するコーラン。 この聖典への理解なくして21世紀は語れない。 苦労人マホメットの波乱の生涯をたどりながら、 ユダヤ・キリスト教との確執をはじめ、 信仰告白、礼拝、斎戒(断食)、喜捨、巡礼など、 ムズカシイ教えの根幹をやさしくひもとく解説本。 全知全能の唯一神アラー、 その預言者マホメット(ムハンマド)が40歳(西暦610年)から 歿する(632年)までに受けた啓示をまとめた「コーラン」の入門書。 正確には「アル=クルアーン」というそうな。 本格的に成立したのは650年代。 イスラム教の聖典、アラビア語で詠唱するのが前提。 「聖書」を底本にしている、ではなく完成形というべきか。 にしては物語性がとぼしいけれど。 その辺の、コーラン成り立ちの事情や、概要、 マホメットの生涯などを手際よくまとめた一冊です。 作者は親父の説教みたいなものと例えていますが、気持ちはわかる。 とにかくアラーの賛美と叛く者への警告(脅迫)が練りこまれ、 (形式的に自画自賛ですが、なんせ全知全能ですので) 神さまがそんな細かいことまで口出しするんだっ、 なんてのも混ざっていてちょっとかわいい。 ほんのりマホメットの私情を感じちゃいます。 相互理解が深まるに越したことはないのでどんどん読まれてほしい書。 あくまで基本なので基礎知識に自信があるなら不要ですが(´・ω・`) 巻末に文庫分類目録あり。多作だねぇ。
宗教聖典のガイドもいいけどドーキンスの無神論のガイドもおすすめです。 ▼BACK▼          ▽TOP▽