スタンダール (Stendhal)
1783.1.23〜1842.3.23
東南フランス、ドーフィネ地方首都グルノーブル生まれ。
ナポレオン遠征軍に参加していた陸軍士官時代にミラノに入城し、
以来熱烈なイタリア賛美者となる。
ミラノでの恋愛体験をもとに著した『恋愛論』、
あるいは意志と情熱に満ちた人物の若々しい行動を描きあげた
『赤と黒』や『パルムの僧院』など、
その著作はロマン主義とリアリズムにまたがる近代文学の最も偉大な先駆とされる。
本名:アンリ・ベール(Marie Henri Beyle)
愛用句。
・賢者にはわずかな言葉で通じる(Intelligenti pauca)
・(おもしろい作り話/文学作品 の中に政治を持ちこむのは)
音楽会の最中にピストルを撃つようなもの。
DE L'AMOUR 1822「恋愛論」
恋の猟人であった著者が、苦しい恋愛のさなかで書いた作品である。 自らの豊富な体験にもとづいて、すべての恋愛を「情熱的恋愛」 「趣味的恋愛」「肉体的恋愛」「虚栄恋愛」の四種類に分類し、 恋の発生、男女における発生の違い、 結晶作用、雷の一撃、羞恥心、嫉妬、闘争などの あらゆる様相をさまざまな興味ある挿話を加えて描きだし、 各国、各時代の恋愛について語っている。
Le Rouge et le Noir 1830「赤と黒」★★★★★
製材小屋のせがれとして生れ、父や兄から絶えず虐待され、 暗い日々を送るジュリヤン・ソレル。 彼は華奢な体つきとデリケートな美貌の持主だが、 不屈の強靭な意志を内に秘め、 町を支配するブルジョアに対する激しい憎悪の念に燃えていた。 僧侶になって出世しようという野心を抱いていたジュリヤンは、 たまたま町長レーナル家の家庭教師になり、 純真な夫人を誘惑してしまう……。(新潮文庫) 卑しい家柄の生まれながら、類いまれな美貌と記憶力にめぐまれ、 ナポレオンを崇拝し、情熱的な出世欲を胸に秘めるジュリヤン。 そんな19歳になる彼に転機がおとずれた。 田舎町の町長レーナル氏に子どもの家庭教師として雇われることになり、 そこで10歳年上のレーナル夫人と運命的な出会いを果たす。 箱入り育ちの純真な夫人が少しずつジュリヤンに好意を寄せ、 やがて生れて初めての恋に落ちてしまう。 偽善と不正で私服を肥やすブルジョア層を 軽蔑のまなざしでしか見えないジュリヤンも、 徐々にレーナル夫人の純愛にほぐされていく。 だが、不倫の関係が継続するはずもなく、 ある出来事からひとつの破局を迎え、 ジュリヤンはパリの神学校へと旅立つことに……。 この辺までが第1部。 第2部は傲慢な侯爵令嬢マチルド(19歳)との大恋愛が主。 心情の変化の描出がすばらしいの一言。 曖昧な逃げをせずここまで真っ向から描けるものなのか。 ドラマもそなえているので厭きずに一気に読めます。 終盤のジュリヤン22歳でのおめでた婚、姦計に陥ったレーナル夫人の手紙、 破綻と復讐、射殺未遂、投獄、裁判、そして23歳での死刑と、 この怒涛の展開には息もつけません。 祖に通じるマチルドと首には身震いします。 いくつか現実の事件や人物をモデルにしてはいるみたいですが、 よくここまでの迫力を出せるものです。 巻末の全体をていねいにあつかった書評や年譜もナイス。 副題である「1830年年代史」の意義もよくわかります。 表題の意味は諸説あるようですが(これも解説に詳しい)、 赤はナポレオン時代の栄光、 黒は聖職者の黒衣(修道会)の野望を象徴している、ってのが有望とのこと。 ジュリヤン、レーナル夫人、マチルド、 3人ともなんと厚みのあるキャラクターでしょう。 偽善を習慣にしていると自覚するジュリヤンの望蜀には むしろ厭世的偽悪趣味を感じますね。 とにかく侮辱されるのが大嫌いな彼には何度も笑わされましたよ。 マチルドの部屋に忍びこむ時の、 だまされまいとやたら警戒するくだりは最高だったな(w 最上の恋愛小説です。▼BACK▼ ▽TOP▽
La Chartreuse de Parme 1839「パルムの僧院」★★★★★
イタリアの大貴族デル・ドンゴ家のファブリスは "幸福の追求"に生命を賭ける情熱的な青年である。 ナポレオンを崇敬してウァテルローの戦場に駆けつけ、 恋のために殺人を犯して投獄され、 獄中で牢獄の長官の娘クレリア・コンチと激しい恋におちる……。 小公国の専制君主制度とその裏に展開される政治的陰謀を克明に描き、 痛烈な諷刺的批判を加えるリアリズム文学の傑作である。 イタリアの貴族デル・ドンゴ小侯爵ファブリス・ヴァルセラ(16歳)は、 オーストリアからイタリアを解放した皇帝ナポレオンにのぼせ、 麾下に参ずるため、父の意向にそむいてパリに出発。 ワーテルローでの戦いに参加することになるが、 銃のまともな扱いもしらないファブリスだった。 この出来事によって自由主義者の"汚名"を受け、 学僧として目立たぬよう生活をはじめるが、数年後、 ある女性をめぐり、なりゆきから彼は殺人を犯してしまう。 それをパルム大公が政治的(私怨?^^;)に利用し、 囚われたファブリスは20年の砦牢を言い渡される。 ファブリスは獄中で牢獄長官の娘クレリアと 生まれて初めての、真実の恋におちるのだが―― (この辺までが第1巻。第2巻は脱獄がらみの展開) イタリア、ナポレオン、恋愛、音楽、絵画、戦争など、 晩年の著者が生涯の関心事を口述筆記で仕上げた集大成。 史実と虚構のバランスが絶妙です。 第1巻は英雄主義的熱情に駆られての参戦、 ファブリスのお坊ちゃまぶりがおもしろい。 第2巻からは展開も速まり、絶対権力との政治対決に夢中。 主役を食っちゃうジーナ叔母さんがなんといっても魅力的。 ファブリスってばなんか逃げ隠ればっかりしてるし(^^; このセリフ(じっさいに言ってはいないけど)が好きだ。 「人生は不幸で織られています。 どんな目におあいになっても、あまりお嘆きにならないように。 不仕合せはこの世の定めではございませんか」