きょむへのくもつ
1964「虚無への供物」★★★★★
戦後の推理小説ベスト3に数えられ、
闇の世界にひときわ孤高な光芒を放ち屹立する巨篇ついにその姿を現す!
井戸の底に潜む3人の兄弟。
薔薇と不動と犯罪の神秘な妖かしに彩られた4つの密室殺人は、
魂を震撼させる終章の悲劇の完成とともに。
漆黒の翼に読者を乗せ、めくるめく反世界へと飛翔する。
主要登場人物
光田亜利夫…………サラリーマン。性の真空地帯に迷いこんだ都会の独身青年
奈々村久生…………ラジオライター。シャンソン歌手
牟礼田俊夫…………久生のフィアンセ ムレタビンユウ(敏雄)
氷沼蒼司……………亜利夫の旧友
氷沼紅司……………その弟
氷沼藍司……………その従兄弟
氷沼橙二郎…………その叔父。漢方医
吟作…………………氷沼家の老召使い。お不動様信仰
八田皓吉……………家屋ブローカー 晧吉 広吉
嶺田…………………氷沼家の主治医
藤木田誠……………氷沼家のお目付け役
三大奇書の1つ。
昭和中期の日本社会に密接したある悲劇の話。
小説内の事件は基本事実です。
ミステリのお約束をたっぷり言及しつつ、
それを裏切ったりしてみたりして、メタとアンチ要素がふんだん。
事件を彩る妖しいメタファーもこれでもかと登場。
現実と非現実を行き来する心地よさ、
かくも耽美で秀麗な殺人は見たことないです。
華美な雰囲気に浸ってるだけで酔ってくるもの。
ま、ブランド志向な部分もあるかもしれませんけどw
京極夏彦「終わることで始まる呪縛は、今も持続している」
綾辻行人「陶酔と震撼の果てに―――読む者は皆、『虚無』の虜囚となる」
目次と共にざっくりあらすじを書く…それなりにネタバレ全開だ!
序 章
1 サロメの夜
1954年(昭和29年)12月10日。下谷・竜泉寺(台東区)。"アラビク"というバーにて。
黄薔薇をくわえて踊るおキミちゃん。
くつろぐ亜利夫(愛称:アリョーシャ)と久生(芸名:奈々緋紗緒)。
2 牧羊神のむれ
"アラビク"は男色酒場(ゲイ・バア)。黒人の少年が逆立ちしたお店のマッチ。
氷沼家の暗い噂。
洞爺丸事故で蒼司の両親と藍司(アイちゃん)の両親が亡くなった。
3 月の夜の散歩
藍ちゃんと合流。今宵は満月の夜。
氷沼家代々の当主が変死している。祟り?
4 蛇神伝説
アイヌのよう格好をした不審者を目撃したという藍ちゃん。
ホウヤ・カムイの使者?
洞爺湖の蛇神の祟り。
曾お祖父さん・誠太郎の言い伝え。
誠太郎は狂死。祖父・光太郎は函館大火(昭和9年3月21日)で焼死。
その長女・朱実は広島の原爆で爆死。
長男・紫司郎、三男・菫三郎は洞爺丸事故で水死。
5 ザ・ヒヌマ・マーダー
久生の探偵気質。「氷沼家殺人事件」計画?
目白にある氷沼家へ亜利夫が明日訪問することに。
6 鱗光の館
久生の"黒死館ふう"の期待を裏切る平凡な大邸宅。
亜利夫と蒼司の再会。
7 未来の犯人
翌日の日曜、西荻窪にある久生のアパート・壁画荘。
亜利夫ワトスン、久生ホームズへ報告。手厳しいダメだしw
氷沼邸見取図。
めいめいの部屋は自分の名前に因んだ色で統一されている。由来は誕生石から。
8 被害者のリスト
久生の先読み推理。
八田皓吉の人物像。
亜利夫を炊きつけ、久生はホワイトクリスマスを目指し旅行へ。
9 井戸の底で
氷沼宅でポウ雑談。
10時39分で止まった蒼司の腕時計。
"またとなけめ"
10 『凶鳥の黒影』前編
紅司が構想中の大長編探偵小説「凶鳥の黒影」、4つの密室で4つの異様な殺人…
精神病院の患者達のAがBに、BがCに、CがDに、DがAに殺される。
花亦妖輪廻凶鳥(はなもえうりんねのまがとり)
蒼司、紅司、黄司。3人兄弟?
そしてついに変死事件が――
第一章
11 第一の死者
1954年(昭和29年)12月22日。水曜。
内側から鎌錠がかかった密室状態の風呂場で死んでいた紅司。
事件前の模様。不可能犯罪談義。PAeμ(θA-θB)=PB
藤木田老登場、こちらも名探偵志望。一人称がミイw
12 十字架と毬
死体の背中に浮かぶ十字架型の紋様。鞭痕?
現場にはなぜか濡れた紅いゴム毬が転がっていた。
死因について。結論は病死(急性心臓衰弱)。
13 『凶鳥の黒影』後編
27日。喫茶店"ロバータ"に集まった亜利夫、久生、藍ちゃん、藤木田老。
20年前から決まっていた事件。
"気違いお茶会"のモチーフ。
P:パワー e:イクスポーネンシャル μ:摩擦係数 θ:角度
お風呂場の密室について討論。
14 透明人間の呟き
死体発見後に「……ヤル」という謎の声。
密室トリックを語る。
久生、藍ちゃん、藤木田老いわく、前例があるものはダメ!w
後日、推理くらべをすることに。
15 五つの棺(亜利夫の推理)
1955年(昭和30年)1月6日。雪降る"アラビク"。
白の部屋と赤き死、そして黒の部屋。
五色不動。コンガラ童子・セイタカ童子。
16 薔薇のお告げ(久生の推理)
グラジオラスの花言葉。
氷沼家の家系図、歴史をおさらい。悲劇の始まり。
紫司郎は植物愛好家。花の色へのこだわり。
17 第三の業(久生の推理・続き)
朱実の人生と息子の黄司。
鎌錠のトリック。
18 密室と供物殿(藍ちゃんの推理)
架空の与太者・鴻巣玄次と贋日記。
紅司が目論んでいた密室トリック。
19 ハムレットの死(藤木田老の推理)
現実的な消去法の推理。
衛生兵あがりの吉村という橙二郎の子分。
20 “虚無への供物”
四者四様、四人の犯人と四つのトリックの産物?
この世に緑色の花はない。
ポーカーの勝負で心理的証拠を探る「カナリヤ殺人事件」よろしく、
後日麻雀対決をすることに。
蒼司の近況。
紅司が遺した光る薔薇。名前は"オフランド・オゥ・ネアン"――"虚無への供物"
ポール・ヴァレリーの詩「失われた美酒」から(堀口大学訳)
一と日われ海を旅して
(いづこの空の下なりけん今は覚えず)
美酒少し海へ流しぬ
「虚無」にする供物の為に。
おお酒よ、誰か汝が消失を欲したる?
あるはわれ易占に従ひたるか?
あるはまた酒流しつつ血を思ふ
わが胸の秘密の為にせしなるか?
つかのまは薔薇いろの煙たちしが
たちまちに常の如すきとほり
清げにも海はのこりぬ……。
この酒を空しと云ふや? ……波は酔ひたり
われは見き潮風のうちにさかまく
いと深きものの姿を!
第二章
21 黒月の呪い
1955年(昭和30年)2月6日。日曜。
分裂症の血統の吟作爺や。降伏法、人を呪い殺すための祈祷。
氷沼邸売却の行方は。
22 死人の誕生日
亜、蒼、藍、橙、藤、皓で麻雀勝負。
そのさなか、新たな変死事件が――
23 犯人たちの合唱
ガス・ストーブからガス漏れした書斎は厳重な密室状態。
現場に残されたあるはずのないもの。
24 好ましくない容疑者(亜利夫の日記I)
2月7日。月曜。
真名子肇巡査部長ら刑事たちの捜査。消えた赤い上衣の人形。
25 皺だらけの眼
緑司の猫目のような奇病。膠腫。
橙二郎の本心。
26 算術の問題
そもそも書斎にガス・ストーブはなかった?
おトイレの臭いがするような、小つまらないトリックw
2月17日。
戸塚の老人ホーム聖母の園で火災が。兄の光太郎同様、妹の薗田綾女が焼死。
奇妙なことに焼死体の数が一人だけ多かった。
27 予言者の帰国
牟礼田登場、最初に悲劇の予言をした男だが探偵には不熱心?
火災の原因は。殖えていた死体は。
28 殺人問答
2月28日。下落合の牟礼田の洋館。牟、久、亜、藍の四人。
事件の本質。無意味な死。それを否定するための殺人犯。
29 ギニヨールふうな死
誠太郎の"第一の業"は濡れ衣。
事件の全体を眺める。
30 畸型な月
密室の書斎、亜利夫、久生、藍ちゃんの推理。
紅司の体質。凶鳥の正体。
ルナ・ロッサ、空には笑っているような赤い月が――
第三章
31 顔のない顔
1955年(昭和30年)3月1日。火曜。
本郷・動坂にある入居の条件が特別うるさい黒馬荘。
管理人の千田とよ婆さん。仕立下職の伊豆金造。人形絵師の男、名前は……
32 瞋る者の死
八田皓吉の義弟。
両親殺害容疑の指名手配犯・川野元晴。
ちぐはぐな報道、ちぐはぐな犯罪、完全な第三の密室事件。
33 閉された扉
皓吉、金造、とよ婆さんの供述。
密室から煙のように抜け出した皓吉?噛み合わない証言。
34 オイディプスの末裔
元晴の生い立ち。父松次郎との確執、母うめへの愛情。
現場にはどこか場違いな大きな赤い絵本「ガリバー旅行記」が。
35 殺人日暦
3月7日。下落合の牟礼田家。
藍ちゃんの家出。恋人の月原伸子。
完成しつつある殺人輪舞、防止するため未来の密室を先に作り出す。
1955年3月初旬に起こったあまりに異常な"殺人ブーム"。
36 第四次元の断面
黒馬荘の密室を考察。
事件の背後にうごめく泥人形のゴーレム。
37 放火日暦
3月13日。日曜。約束の現場巡り。
相次ぐ放火事件のリスト。氷沼家の事件を解く鍵に?
最初の事件時、皓吉の居場所が重要だったというが。
38 タイム・マシンに乗って(亜利夫の日記II)
続・現場検証。五色不動の暗示。
3月17日。木曜。
現実世界と非現実世界。
3月19日。土曜。
氷沼家に第四の密室・黄色の部屋が出現。
39 ゴーレムの正体
3月21日。
黄色の部屋を見分。
事件直後に黒馬荘から引っ越した浜中という男。
40 犯罪函数方程式
浜中鴎二、田中黄司。
すでに用意された密室、犯人、動機、トリック、被害者。
謎多き黒馬荘の持ち主とは。
過去・未来・現在、薔薇と不動と犯罪の関数方程式。
f(不動・薔薇・犯罪)=0
第四章
41 白い手の持主
1955年3月21日。月曜。
黒馬荘の密室トリックを暴く藍ちゃん。
42 第三の薔薇園
黄司の暗躍。
はじまりの"ARABIQ"へ。
43 死体エレベーター
黄色の部屋での対決。
結びついた五色不動縁起。
実行される第四の密室殺人事件――
44 痴れ者の死
蒼司のお見舞いに。
未完成に終わった第四の密室だが……
愚連隊のチンピラ・斉藤敬三。
で、このオチw 漢字がアレですものね。
45 密室ではない密室
3月27日。
偶然の暗合が多すぎる氷沼家にまつわる事件。
新たな符合を満たしに向島へお花見に。
46 ワンダランドへの誘い
4月5日。火曜。
黄色の部屋の密室討論。
シャンソンの伏線。
不思議の国のアリオw
47 薔薇と経文
「ドグラ・マグラ」の世界に転落しそうになる亜利夫!
黒薔薇と白薔薇。赤薔薇・青薔薇・黄薔薇。
「仏説聖不動経」にすべてが示されていた。
爺やの最期。
48 三枚のレコード
4月11日。新宿のシャンソン喫茶「モン・ルポ」。
歌詞に潜んだメッセージ。
49 童子変相図
黄色の部屋の推理、第四から第五の密室に。
叱られて弟根性が出る亜利夫君。
50 “驚くべき真相”
ミノムシと化した藍ちゃん。
事件全体を再構築。
それぞれが見たワンダランド。
終 章
51 非誕生日の贈り物
4月17日。日曜。
蒼司の誕生日前日。
牟礼田退場。
52 夜の蓑虫(久生の告発)
推理の総仕上げ。
推測を脱し、動かしがたい証拠は1つだけ。
53 仮面の人(藍ちゃんの告発)
この事件、唯一の物的証拠。
剥がれ落ちる真犯人の仮面。
54 黒と白(亜利夫の告発)
爾時大会 有一明王 是大明王 有大威力
大悲徳故 現青黒形 大定徳故 坐金剛石
大智慧故 現大火焔 執大智剣 害貪瞋癡
持三昧索 縛難伏者 無相法身 虚空同体
無其住所 但住衆生 心想之中 衆生意想
各各不同 随衆生意 而作利益 所求円満
爾時大会 聞説是経 皆大歓喜 信受奉行
55 非現実の鞭
非現実世界のワンダランド……現実逃避ができなかった者。
第一の密室の真相解明。
56 幸福な殺人者(藤木田老の告発)
第二の密室の真相解明と異様な動機。
煽りあいがこわいったらもう。
57 鉄格子の内そと(蒼司の告発)
明かされる事件の動機。
ハッとさせられますね…最重要ポイント。
58 五月は喪服の季
相次ぐ異様な事件と事故。
容赦のない鋭い天の鞭。
59 壁画の前で
もうひとりの真犯人。
無秩序で無意味な悲劇への挑戦。
60 翔び立つ凶鳥
そして最後の真犯人――
カーテンにて閉幕。
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