はこのなかのしつらく
1978「匣の中の失楽」★★★★★
幻の名作・ノベルスで復活。
現実と非現実の狭間に現出する5つの<さかさまの密室>。
推理小説史に新たな頂点を画した新本格推理の原点ともいうべき、
1200枚の異色巨篇。衝撃のデビュー。
主要登場人物
曳間 了…………F*大学。心理学専攻。金沢生まれ。『黒魔術師』。ピグマリオン 人形偏愛症…
根戸真理夫………F*大学。数学専攻。マリオネット
真沼 寛…………Q*大学。国文学専攻。マヌカン
影山敏郎…………S*大学。物理学専攻。最も新しい一員。影
甲斐良惟…………N*美学。油絵専攻。曳間とは同郷。兄・良一が『黄色い部屋』を経営。傀儡
倉野貴訓…………F*大学。薬学専攻。神戸生まれ。グラン・ギニョール
久藤雛子…………グループのアイドル。十五歳。ビスク・ドール
久藤杏子…………N*美大卒。雛子の年若い叔母。アンティック・ドール
羽仁和久…………K*大学。国文学専攻。倉野とは同郷。『白い部屋』の住人。埴輪
布瀬呈二…………K*大学。仏文学専攻。『黒い部屋』の住人。ブラッティーニ
片城 成…………一卵性双生児のひとり。ナイルズ。形代
片城 蘭…………一卵性双生児のひとり。ホランド。
本格で変格なミステリ。
密室もの…と区切るのはもったいないか。
三大奇書と合わせて"4大(アンチ)ミステリ"と呼ばれたりもします。
あらゆる要素を詰め込んで現実と虚構が幾度も逆転し
混沌としつつも糸のような秩序が保たれてるのは圧巻です。
陰惨な状況でありながらどこか平和な雰囲気なんですよねぇ。
これを弱冠23歳でよく書き上げたもんですな。
最初は個性がつかみにくい人形のような若い登場人物たちも
気づいたら親しみさえ覚えるなぞのリアルさ。
青春小説なんていわれたりもしますがうなずけます。
とって付けたようなペダンチズムや過剰な思わせぶりな描写など
良くも悪くも青臭さがあったりしますが、
全身全霊、魂のこもった作品というのは共振します。
以下、目次とあらすじをざっくりと。濁していますがネタバレご注意!
序章にかわる四つの光景
1 霧の迷宮
濃霧の中を歩き続ける曳間。
幼いころからの疑問、なぜ世界は連続しているのか。
天気図の不連続線の不思議。
2 黄昏れる街の底で
喫茶店。根戸と真沼。予知能力、記憶障害、既視感?
待ち人の影山は結局姿を見せず。
3 三劫
7月1日。
賭碁に興じる倉野と雛子、観戦する甲斐。
行方不明の曳間。花言葉の本を買いたかったナイルズ。
囲碁の三劫。プロでもめったに見ない千日手。凶兆でもある。
4 いかにして密室はつくられたか
暗闇の部屋、四人委員会。"気ちがいお茶会"。
探偵小説マニアの羽仁、布瀬、ナイルズ、ホランド。
ナイルズが執筆したファミリーが実名で登場する探偵小説。
仮題は「いかにして密室はつくられたか」。
さかさまの密室、死ぬのは四人、最初に死ぬのは曳間。
影山から届いた暗号めいた謎の手紙。
そうして事件が起こる。最初の死者は――
一章
1 第一の屍体
7月14日。猛暑の午後3時すぎ。
倉野が目白のアパートに帰宅すると、
胸に短剣の刺さった曳間の死体が――
2 密室ならぬ密室
類友、ファミリーはみんな探偵小説マニア。
犯人はなぜか現場に留まっていたらしい。
3 靴と悪戯
7月16日。
警察による現場検証と事情聴取の顛末。
犯人のものと思われるグレーのデザート・ブーツの偽証。
明日、ファミリーのアリバイ調べをすることに。
4 理想的な殺人
7月17日。火曜。赤坂の黄色い部屋に集合。
みなを見つめる古今東西の人形たち。
曳間のそばにあった開かれた本、「数字の謎」の「5の頁」。
死によって開かれた異次元への扉、平凡な殺人であってはならない。
5 白昼夢の目撃者
…7月14日。午前11時すぎ。
囲碁勝負に倉野のアパートを訪れた布瀬の証言。
6 通り過ぎる影
…7月14日。正午。
港区白金の自宅ポストに投函された
匿名の手紙に呼び出されたホランドの証言。
その後、文京区白山の根戸のマンションへ。呪術談義。
…同日、自室の緑色の部屋で小説を執筆中のナイルズの証言。
その後、日本橋横山町の甲斐のアパートへ。不思議な感覚。
…影山と真沼のアリバイ。
7 非能率なアリバイ
…7月14日。正午。
うたた寝し、杏子と電話する根戸の証言。
…同日、月に1回の例の病気が出た羽仁の証言。
8 鍵と風鈴
…7月14日。午前9時。
下目黒の邸宅。曳間に遇ったという雛子の証言。
四方に鬼の描かれた青銅の風鈴。
9 殺人者への荊冠
2週間後に推理くらべ。
そのための十戒を設けるミステリ狂の面々。
10 さかさまの殺人
一同解散、ナイルズと倉野の帰路。空には赤い満月。
どこも不合理で事件そのものがさかさまのよう。
二章
1 死者の講義
7月24日。火曜。
と、ここまでを読んだ曳間さん。
鬼についての講義。
そうして事件が起こる。最初の死者は――
2 ブラック・ホールのなかで
目黒区緑ヶ丘の布瀬邸にファミリー全員が緊急集合。
黒い部屋の隣にある寝室兼書斎から消滅した真沼。
3 第四の扉
ブラック・ホール。トンネル効果。
消失事件全体をおさらい。
4 羽虫の正体
双子の魔術ショウ。
消失トリックの考察。
5 二者択一の問題
単純すぎる密室と単純すぎるアリバイ。
粒子と波動の二重性、不確定性原理。二重スリット実験。
6 プルキニエ現象
7月28日。土曜。
根戸のマンション。深刻になりつつある事件を再検討。
色彩学、人間の視覚について。
7 仲のよくない共犯者
羽仁の虱潰し法推理。
犯人はファミリーの12人以外の13番目のユダ?
書斎の棺桶。
根戸の逢魔ヶ刻(時折、現実の出来事がどうでもよく思える時間)
8 見えない棺桶
続・虱潰し。
犯人が示されたように見えたが瓦解。
9 犯罪の構造式
動機を探るためファミリーの人間関係と歴史を見直す。
エクゴニンの構造式とファミリーの相関図。
10 牙を剥く悪意
みんなの血液型。
甲斐を挑発する布瀬。
甲斐だけ描写がおかしいナイルズの小説。
雛子に突如訪れた不幸――
三章
1 扉の影の魔
再び反転。
小説に追いつく現実。
ファミリーは精神病患者の集まり?
帰宅し玄関の引き戸を開けた倉野が何かを目撃?
2 推理競技の夕べ
7月31日。黄色い部屋。
現実世界と架空世界、ナイルズの意図とは。
結局、予定通り推理くらべをすることに。
3 愚者の指摘
タロットカードで順番決め。
甲斐の推理。曳間事件の整理。反密室。靴の謎。
4 歩き出す仮説
続・甲斐の推理。徹底した探偵小説狂の犯人。
推理といえど告発でもあり、もやもやとしたわだかまりが。
5 扉の向こうには
倉野の推理。生前の活動。連続と不連続への興味。
理代子の存在。杏子似の曳間の姉。
6 カタストロフィーの罠
続・倉野の推理。恋慕の破局。
カタストロフィー理論。
7 殺人狂想曲
どこか投げやりで憂鬱そうな倉野。
ホランドの推理…は中止。みなの狂っていく歯車。
8 もうひとつの空席
布瀬の推理。エクゴニンの構造式の空席。
成、蘭、森。
9 五黄殺殺人事件
根戸の推理。数字の暗合。九星術。
影山の暗号を解読。
ワトソン捜しの趣向。
10 正反対の密室
停電パニック。二重の密室。
根戸の災難とホランドの惨劇――
四章
1 現実と架空の間
三度反転。
8月16日。新宿御苑の芝生で会合。
瞞し絵のような小説。読者にとって現実は?
メタ視点だと小説のタイトルがちがいますがはてさて。
2 筋斗雲に乗って
甲斐画伯と屍体の杏子と黒魔術師曳間。
曳間の推理。小説のための事件。
スコールのような豪雨が降りはじめる。
3 おもちゃ箱の坂で
杏子とナイルズの秘密の関係。
謎の電話で呼び出され、雨の中を歩く杏子。
4 予定された不在
8月21日。19日から雨のまま。
久藤家が青森へ引っ越し?
続・曳間の推理。共謀の可能性。
5 屍体のある殺人
曳間のアパートで一同雑魚寝。
悪夢で目覚めた影山。時計は4時10分。掴みかけた真相。
朝、凶報で叩き起こされる。時計は2時20分を差し停止していた……
6 死の手触り
事件前の様子。甲斐のアパートに宿泊していた倉野。
謎の電話で呼び出され、雨の中を歩く甲斐。
明方、帰宅するとそこには――
7 不必要な密室
密室のアトリエ。鍵は内、死体は外。無意味な密室。
それぞれのアリバイと時計の謎。
8 用意されていた方法
9月2日。日曜。黄色い部屋に集合。
羽仁の指摘。時計の謎の正体。
布瀬と羽仁の推理。密室トリックについて。
9 闇の傀儡師
顔を見せなかった甲斐を襲った悲劇。
風鈴のミステリー。ミラー・ハウスの出来事。
9月9日。日曜。白い部屋に集合。
消えた影山。
10 架空に至る終結
9月13日。
根戸の推理。真沼事件について。
曳間の推理。倉野事件について。
羽仁の発作。現実から架空への逃避。
五章
1 降三世の秘法
そして反転。
8月25日。白い部屋。
ホランドの復讐を誓うナイルズ。
風鈴と降三世明王三大秘法。
2 闇のなかの対話
羽仁邸。ファミリーはてんでにコレクションを鑑賞中。
根戸の推理。曳間事件の単純なアリバイ。
3 大き過ぎた死角
雛子の推理。ホランド事件の死角。
鍵穴のトリック。
4 ユダの罪業
布瀬の推理。エッチラオッチラ歩く死体。
屋敷に響く断末魔の叫び。血まみれの倉野……
5 逆転された密室
8月26日。黄色い部屋。
布瀬の談義。さかさまの視界。
存在しえないユダ。
お粗末な殺人事件が一転、おぞましい密室事件に。
6 ラプラスの悪魔
完全な密室。もはや収拾がつきそうにない一連の事件。
些細な間違い。錯誤。錯覚。
崩壊していくファミリー。
7 撫でてゆくのは風
9月1日。根戸のマンションに集合。
どうしても動機が見つからない。
影山の暗号解読。
新たな形相を見せる曳間事件。
8 遡行する謎解き
10月5日。改装された黄色い部屋、「帰路」。
曳間の手帳。心情の吐露。
雛子の推理。倉野事件のトリック。
謎解きもまたさかさまに……
9 キングの不在
ナイルズの推理。事件の全容解明へ。
キングはもう存在せず。
10 匣のなかの失楽
真犯人とその異様な動機。
匣。ふたの付いた箱。密室。
いかにして密室はつくられたか――
終章に代わる四つの光景
1 九星と血液
さらなる九星術の暗合。
輸血の問題。
2 青い炎
11月半ば。日曜。帰路。
原頁糸冬。
カフェ・ロワイヤルの青い炎。
3 解決のない解決
最後の推理。
最初の真相。
4 不連続の闇
濃霧の中を歩き続ける少年。
さかしまの終劇。
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