アントニイ・バークリー (Anthony Berkeley)
1893〜1971.3.9
ハートフォードシャー州生まれ。
オックスフォード大学卒。
1925年、「?」名義で、
ロジャー・シェリンガム初登場の「レイトン・コートの謎」を発表しデビュー。
本格ミステリそのものの構造から凝った作品が多い。
本名:アントニイ・バークリー・コックス (Anthony Berkeley Cox)
別名義:フランシス・アイルズ (Fracis Iles)
The Layton Court Mystery 1925「レイトン・コートの謎」
ある夏の日の朝、レイトン・コートの主人スタンワース氏の 額を撃ち抜かれた死体が、書斎で発見された。 現場は密室状況にあり、遺書も発見されたことから、 警察の見解は自殺に傾いていたが、不可解な死体の状態や 滞在客の不審な行動を目にとめた作家のロジャー・シェリンガムは、 自殺説に疑問を感じ、素人探偵の名乗りをあげる。 友人アレックをワトスン役に指名し、 自信満々で調査に取りかかったロジャーだが…。 当初“?”名義で発表され、たちまち人気を博した 英国探偵小説黄金期の巨匠アントニイ・バークリーの輝かしい出発点。 ロジャー・シェリンガムシリーズ第1作。デビュー作。
The Poisoned Chocolates Case 1929「毒入りチョコレート事件」★★★★★
一見単純にみえる毒入りチョコレートによる殺人事件は、 スコットランド・ヤードも投げ出すほどの難事件だった。 その解決に乗り出したのは、 ロジャー・シェリンガムを会長とする犯罪研究会の面々。 六名の会員が、同一事件に対して示した六様の推理と解決策。 本格推理文学の典型的手法を縦横に駆使した、 アイルズ=バークリーの古典的名作。 ロジャー・シェリンガムシリーズ第5作。 アンブローズ・チタウィックシリーズ第1作。 シンプルに本格すぎて変格の趣きも感じられたり。 ミステリの構造、あり方への痛烈な皮肉な批判ともとれるからすごい。 まさに毒入り。 「犯罪研究会」のメンバー6人が順番に推理を披露して進行します。 喧々囂々・侃々諤々と1つの事件を6つの視点で抉るのがおもしろい。 ラストも小気味良く、いい後味を残してくれます(^^)
The Piccadilly Murder 1930「ピカデリーの殺人」
伯母と犯罪学と切手蒐集から成る人生に安住していたチタウィック氏が、 たまさか訪れた午後のホテルで毒殺の現場に遭遇する。 なんとも伯母さんというほかない被害者、 そして、同じ卓を囲み怪しい振舞を見せた、その甥っ子。 皮肉な成行きに嘆息しながらも氏は訴追側の証人として渦中の人となる。 考え抜かれた話術が生きる手練の謎解き編! アンブローズ・チタウィックシリーズ第2作。 シリーズといっても登場するだけなので気にせずに。
Trial and Error 1931「試行錯誤」★★★★★
余命数か月と宣告されたトッドハンター氏は、 残された期間に有益な殺人を犯そうとの結論に達した。 だが、生と死に関し異常な見解をもつ編集者や素人犯罪研究家、 快楽のために一家を犠牲にする作家、 犯人の告白を信じない捜査官などの前に、 事態は従来の探偵小説を皮肉るようなユーモアをまじえて 意外な方向へ発展する。唯一無二の名作! アンブローズ・チタウィックシリーズ第3作(完結) 上記のまんまですが、 トッドハンター氏は大動脈瘤で残り数ヶ月の命と宣告されます。 そこで残された時間でなにか有益な行為をするため、 知人たちに相談したところ、 社会的に害悪を流す人間を殺害することで満場一致。 それから四苦八苦しつつも、首尾よく殺人に成功。 ところが、事件とは無関係の男が冤罪で逮捕されてしまった! 無罪の男を救うべく、トッドハンター氏は自首するものの、 確固たる証拠がなく、警察に狂人扱いさえされてしまう。 そうこうしている間にも男の死刑執行が刻一刻と迫りくる。 最後の手段と自らを裁判にかけるトッドハンター氏。 果たしてトッドハンター氏は無事、死刑(有罪)になることができるのか? とまあ、なかなかに飛んでますが、これがかなりおもしろいです。 構造から皮肉るようなユーモアは今回も健在。 大動脈瘤をかかえてるから、いつ倒れてもおかしくないのも すばらしいスパイスになってます。 最後の最後まで予断を許さない構成も秀絶です。 バークリーすげぇぞバークリー。
フランシス・アイルズ (Fracis Iles)
アントニイ・バークリーの別名義。
下記の長編3本といくつかの短編を発表。
Malice Aforethought 1931「殺意」★★★★☆
イギリスの田舎町の開業医ビグリー博士は 妻のジュリアを殺そうと決意し、周到な計画のもとに犯行へと移った。 完璧を誇る殺害計画、犯行過程の克明な描写、捜査の警官との応酬、 完全犯罪を目前に展開される法廷での一喜一憂、 そして意外な結末は殺人者の心理を描いて余すところがない。 倒叙推理小説の三大名作の一つとして名高い傑作! 倒叙もの。 おそらく本書をもって完成に到ったジャンルでしょう。 英国の片田舎に住む中年の開業医ビクリー博士が、 妻殺しにいたるまでの決意や葛藤の犯行過程、 その後の捜査官との応酬、法廷での攻防など 犯罪心理とその変化(変貌というべきか、もはや別人……)を みごとに描破したおそるべき一作。 それゆえ、オーソドックスでもあるんですね。 ややインパクトに欠けるというか。 いや、作者らしい、人を食ったような仕掛けもありますが、 "完全犯罪"でもよかったかなぁと。 いや、よかったか。 そうでもないかな。 うん、よくないよ。 あれでいいんだよ。 ともいいきれまい。 わ、どっぷり作者の思う壺にはまってるっ。 舞台が田舎だけあってやぼったい人々やゴシップの伝播など、 都会では出せない味もすてきです。 アイヴィのいじらしさはガチ。 犯罪心理小説の秀峰、ぜひともおさえておきたい名作です。
A Muurder Story for Ladies 1932「レディに捧げる殺人物語」
……リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、 やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった…… ショッキングな書き出しで始まる本書は、 妻を愛し、歓心を得ようとしながら、 妻の心とはうらはらな言動をする異常性格の夫に 献身的につくす健気な女の不可解な性と、 その内心の葛藤を描いて新生面を切り開いた犯罪心理畢生の大作。▼BACK▼ ▽TOP▽
As for the Woman 1939「被告の女性に関しては」
肺の病を得て海辺の村に保養にやって来た学生アランは、 滞在先の医師の妻イヴリンと親しくなり、ついに関係を結んでしまう。 自信家の医師に反感をつのらせながら、 秘密の関係に深入りしていくアランだが、 その先には思わぬ事件が待ち受けていた…。 優柔不断な青年の揺れ動く心理と、 不可解な女の性を辛辣なユーモアをまじえて描いた本書は、 人間の「性格」の謎を追究し、 探偵小説の枠組みから一歩踏み出した アイルズ=バークリーの到達点ともいうべき傑作である。