クリスチアナ・ブランド (Christianna Brand)

1907〜1985
イギリス(マレーシア生まれのインド育ち)出身。
家庭教師、洋裁店員、ナイトクラブの帳場、
ダンナー、モデル、秘書、室内装飾家など職業を転々。
1939年、短編「薔薇」を発表し作家デビュー。
1941年、第一長編「ハイヒールの死」で出版デビュー。
1930年代の黄金時代を正統に継承するパズラーとして知られる。
高度な叙述の技巧、どんでん返しの連続、意外な結末に定評がある。
もっともっと評価されるべき作家だと思います。
パズラーなら、ブランド(ブランド)を!

本名:メアリー・クリスチアナ・ルイス(旧姓ミルン)
    Death in High Heels
1941ハイヒールの死

新しい支店を誰が任されるか老舗ブティックは噂で持ちきりだ。 筆頭候補は仕入部主任で才色兼備のミス・ドゥーンだが、 実際に選ばれたのはオーナーの美人秘書。 店員間では冗談まじりに秘書毒殺計画が囁かれたが、 その直後、ミス・ドゥーンが毒殺された。 この事件の担当になったのは美女に滅法弱い ハンサムなチャールズワース警部。 冷酷な毒殺犯は美女揃いのブティック内にいる!? 女流本格の第一人者の記念すべきデビュー作。 チャールズワース警部シリーズ第1弾。デビュー作。
    Green for Danger
1944緑は危険★★★★
へロンズ・パーク陸軍病院には、 戦火を浴びた負傷者が次々と運び込まれる。 郵便配達人のヒギンズもその一人だった。 三人の医師のもと、彼の手術はすぐ終わると思えた。 が、患者は喘ぎだし、まもなく死んだ。 しかも彼は殺されていたのだ! なぜ、こんな奇妙な場所で、 一介の郵便配達人は死を迎えることになったのか? “ケントの恐怖”の異名をとるコックリル警部登場。 黄金期の探偵小説の伝統を正統に受け継ぐ傑作本格 コックリル警部シリーズ第2弾。 空襲がつづくケント州ヘロンズフォード。 陸軍病院には次々と負傷者が運びこまれていた。 その患者のひとり、郵便配達人のヒギンズが 手術をはじめようとした矢先、死亡してしまう。 麻酔に耐えきれなかった不幸な事故と思われた。 ゴシップや形どおりの検死など、 めんどうな手続きをきらった老外科医は 知人のコックリル警部ならうまく簡単に ことを処理してくれると思い、呼び出すことに。 しかし、ひとりの看護婦が、あれは事故死ではなく殺人で、 自分はその証拠もにぎっていると公言した。 その直後、その看護婦が刺殺されてしまい……。 無辜に思える郵便配達人は本当に殺されたのか? 3人の男性医師と3人の看護婦の愛憎劇。 容疑者はその6人だけの上級パズラーフーダニット。 空襲の爆撃なぞどこ吹く風といった平然な態度で日々をすごす 登場人物たちが世界観にいい味わいを醸しだしますな。 ペシミズムをかかえながらのタフさがかっこいいのですよ。
    Suddenly at His Residence
1947自宅にて急逝★★★★★

〈白鳥の湖〉邸と呼ばれるリチャード卿の屋敷でパーティが開かれた。 表面は和やかだが、どこか不気味な雰囲気が漂っている。 果して翌朝、卿は冷たいむくろとなって見つかった。 弱い心臓にアドレナリン・ショックが与えられたのだ。 コックリル警部シリーズ第3弾。 "白鳥の湖邸(スワンズ・ウォーター)"での殺人劇。 主人であるサー・リチャード・マーチが 元バレリーナの亡妻セラフィタのために名づけたこの屋敷で 彼女の命日に行なわれる慰霊の儀式のため集められた一族。 セラフィタの3人の孫たち―― 手をふらふらひらひらさせる可憐なピータ、 神経質で過労気味の開業医フィリップ、 皮肉屋で素直になれず冷笑的にふるまう妻のエレン、 自立的で芝居がかっておりフィリップを恋しているクレア。 リチャードの元愛人で現在の妻である良識派のベラ、 その孫で自称"精神異常者"気どりのエドワード。 この善良で罰当たりな孫たち相手に、 ことあるごとに遺言書の書き変えで脅すのが大好きなリチャード。 一方の孫たちもさるもの、金銭に執着がないので平気の平左。 しかし、事件はみなが集まった翌日に起こった。 リチャードが薬物によるショックで死亡したのだ。 現場はならされた砂でかこまれていたが、 犯人の足跡は残されていなかった……。 一族と昔から交遊があったコックリル警部は状況から 一族のなかのだれかによる犯行だと断定するが……。 やあ、もう、すごい作品だったな。 まず光るのがユーモアよね。 シリアスな場面になればなるほど 軽口をたたかずにはいられない一族の性分がすてき。 針で突くようなシニカルなブラックジョークがいいねぇ。 ミステリのほうも、足跡のない殺人(?)が2つあつかわれているし、 犯人も一族がみなお互いに当てこすり断罪をくり返して、 だれでもありえそうに見せる技巧はすさまじい。 最後の最後まで油断できないですよ。 コックリルの真相を剔抉する手段は豪腕ちからわざではあるけれど 大戦中の背景がこう活かされるのかと感心。 犯人と名指しされた人物の生への執着も燃え。 田舎屋敷ものの一族ではこの連中が一番好きかも(w
    Death of Jezebel
1948ジェゼベルの死★★★★★

帰還軍人のためのアトラクション劇がにぎやかに幕を開けようとしていた。 見守る観客の中に気づかわしげなコックリル警部の姿が見える。 出演者の一人に死の予告状が舞い込んでいたからだ。 はたして言葉どおり、警部の面前で、悪女ジェゼベルが扼殺された! 重厚な本格ミステリの妙味をすべて兼ね備えた代表作。 コックリル警部シリーズ第4弾。 チャールズワース警部シリーズ第2弾。 本格ミステリ。大衆の密室もの。 カチッ、カチッ、と音がするくらいのパズラー(w 終盤の(解説の山口雅也氏曰く)「狂気の大団円」が凄艶。 相次ぐどんでん返し。 "首"の扱いのえげつないこと、なんて悪趣味。 犯人のインフレなんてそうそうないですよ(w 独自性の高い文体なのでテンポになれるまでは読みにくいかも。
    Cat&Mouse
1950猫とねずみ

雑誌「乙女の友」で身上相談を担当しているカティンカは、 久しぶりの休暇を利用して相談の手紙をよこした少女アミスタを訪ねた。 が、目ざす家に来てみれば、 主人も召使いも口をそろえてそんな女はいないと言う。 しかし臭い……。 山深いウェールズの田舎に婦人記者が嗅ぎつけたのは、 現代版『ジェイン・エア』の悲劇か?
    London Particular(Fog of Doubt)
1952疑惑の霧

フランス人の色男ラワール撲殺事件犯人とは? ラウールの元恋人マチルダか、 彼女の夫で妹ロウジーが誘拐されたと恨むエヴァンズ医師か、 ロウジーを愛する医師の同僚テッドワードか。 事件を追うチャールズワース警部と、 ロウジーに助けを求められたコックリル警部の推理対決! 驚愕のラストに疾走する本格傑作 コックリル警部シリーズ第5弾。 チャールズワース警部シリーズ第3弾。
    Tour de Force
1955はなれわざ★★★★★

休暇をすごすため、イタリア周遊ツアーに参加した スコットランド・ヤードの名警部コックリル。 だが、事件が彼を放っておかなかった。 景勝で知られる孤島で一行のひとりが何者かに殺された。 地元警察の捜査に不安を感じたコックリルは自ら調査に乗り出すが、 容疑者であるツアーの面々は、 女性推理作家やデザイナー、隻腕の元ピアニストなど一癖ある連中ばかり… ミステリ史上に輝く大胆なトリックで名高い、著者の代表作。 コックリル警部シリーズ第6弾。 本格ミステリ。 イタリア周遊ツアーの孤島で起こる殺人事件。 容疑者は6人。しかし探偵がその6人のアリバイを証言。 大胆不敵、なんてレベルのトリックじゃないですね。すっげえ。 膨大な伏線がそこら中にあるのに見事に全然気付けなかったよ……。 「ジェゼベルの死」に引けをとらない相次ぐどんでん返し。 (解説の人は"容疑者のたらい回し"とかいってたなw) ユーモアのセンスも抜群だし、もういうことないです、完ぺき。
    The Three−Cornered Halo
1957ゆがんだ光輪

“ケントの鬼”コックリル警部の妹、カズン・ハットは海賊と密輸業者の島、 サン・ホアン・エル・ピラータ島を訪れた。 かねがね興味を感じて翻訳をすすめていた 島の聖処女ホアニータ・エル・マルガリータの自叙伝にひきつけられたのだ。 そして、島の歴史を調べていくうちに、 島にまつわる不可解ないくつかの伝説や謎にぶつかった…。 今やクリスティーの人気を凌ぐ女流探偵作家ブランドが、 英国流のユーモアとサスペンスをもりこみながら、 架空のしまエル・ピラータを背景にくりひろげる、目もあやな風俗絵巻! コックリル警部シリーズ外伝。
    Buffet for Unwelcome Guests
1983招かれざる客たちのビュッフェ★★★★★

英国ミステリ史上、ひときわ異彩を放つ重鎮ブランド。 本書には、その独特の調理法にもとづく16の逸品を収めた。 コックリル警部登場の重厚な本格物「婚姻飛翔」、 スリルに満ちた謎解きゲームの顛末を描く名作 「ジェミニー・クリケット事件」、 あまりにもブラックなクリスマス・ストーリー「この家に祝福あれ」など、 ミステリの真髄を伝える傑作短編集。   第一部 コックリル・カクテル  事件の後に (After the Event) シェークスピア劇で人気を博す一座の巡業中に 自分の名声願望しか頭にない女優が口論から殺害された。 犯人は一座の主役の花形で人望ある男だった。 共謀してちがう犯人をでっちあげ、かばおうとする一座だが。 この事件を聞いたコックリル警部の反応とは? 犯人・共犯者たちの演技力がお墨つきなのでやっかい。  血兄弟 (Blood Brothers) ひき逃げと殺人をやらかした双子の兄弟。 入れ代わりを利用し捜査をかく乱するふたりに コックリルも苦戦――してないな(w いずれにしろ最後までとんでもねえ双子だ(^^;  婚姻飛翔 (The Hornets' Nest) 富豪の暴君が婚姻(再婚)の宴の最中、毒殺された。 参加していたコックリルの目先で発生したこの事件。 容疑者は4人、暴君の新妻とふたりの子どもと主治医。 どのタイミングで毒を盛ったかが焦点で……。 あのトリック(カキの丸呑みを利用)はどっかで見たことあったよ。 題名の飛翔は女王蜂とかがモチーフになってるから。 使われた毒も蜂退治用のもの。  カップの中の毒 (Poison in the Cup) 医師の自宅にやってきた看護婦は 医師の子を宿したものの相手にされずと服毒したと大騒ぎ。 結局、狂言と判断されるが、 心底うんざりした医師の妻は本当に一服盛ることに。 はたして彼女は死亡し、コックリルが事件の担当に。 コックリル警部の倒叙ものが続きましたが、これでおしまい。 ブランドらしい容疑者のたらい回しは短編でも健在ですね。 このあとの話もどれもすげえよ。   第二部 アントレ  ジェミニー・クリケット事件 (Murder Game) 老弁護士トマス・ジェミニーが4階にある事務所で殺された。 密室状態で纏縛され首を絞められナイフで刺されていた。 犯罪被害(加害)者の遺児を養育していた善良な彼がなぜ狙われたのか? 同時期に同様のケースの警官殺しも発生。 ふたつの事件のつながりとは? 見どころは、密室のなぞ、動機のなぞ、そして探偵のなぞ……。  スケープゴート (The Scapegoat) 病院の新館の定礎式のさいちゅう、 スピーチをしていた偉大な奇術師のかたわらにいた付き人が 狙撃され死亡してしまう。 事件は解決することなく10数年、 当時の関係者8人が集合し、あらためて事件を詮議することに。 やがて浮かびあがる真相と断罪と。  もう山査子摘みもおしまい (No More A-Maying......) 僻陬の地で起きた、妊娠した少女が川で溺死した事件。 事故か自殺か殺人か。田舎の人々の対応模様。   第三部 口なおしの一品  スコットランドの姪 (The Niece from Scotland) 男女の泥棒が目をつけた、ある屋敷の女主人が持つ高価な真珠。 首尾よく盗みだしたはいいが、ある人物に事が露顕してしまう。 そこで出される妥協案と、それをあざ笑う結末。   第四部 プチ・フール  ジャケット (Hic Jacet) 三文作家の夫妻。不和から夫は妻の殺害を計画。 シンプルながらよくできた小話です。  メリーゴーラウンド (The Merry-Go-Round) 夫のポルノ写真のスキャンダルをネタに恐喝される女性。 しかし事態はメリーゴーラウンドのように回転し……。  目撃 (Upon Reflection) 悪名高いアラブの族長が車の後部座席で刺殺された。 運転手が重要参考人になったが、 たまたまこの事件を目撃していた女性が 第三の人物の存在を証言するが。  バルコニーからの眺め (From the Balcony) ミセス・ジェニングスは隣人の"ご一家"の老婆から いつもバルコニーから観察され、悪口をいわれていた。 やがて殺人にまで発展してしまうのだが……。   第五部 ブラック・コーヒー  この家に祝福あれ (Bless This House) 老婆のもとに家がなく難儀している美しい男女が現われた。 女マリリンは臨月で、男ジョセフは大工のように器用だった。 ここにマリアとヨセフ、そしてメシアの再来を見た老婆は――  ごくふつうの男 (Such a Nice Man) 性犯罪者に家宅侵入された人妻の物語。  囁き (The Whispering) 好奇心から従兄に頼みこみ、いかがわしいバーにおもむいたダフィ。 そこでひどい乱暴に遭うが、帰宅し父親に見つかると、 従兄されたと嘘をつき、怒り猛る父親は従兄を射殺してしまう。 この事件からダフィにある変化をもたらし……。  神の御業 (The Hand of God) ビル・エバンズ巡査の娘と孫が轢き殺された。 原因は加害者ジェリンクスのスピードの出しすぎに思われたが、 当のエバンズはスピード違反を否定した。 結局、ジェリンクスに過失なしとの判決がくだされるが―― 本書の序文も書いているロバート・E・ブライニーが 巻末でブランドの書誌をアップしています。 ブランドの生涯全作品が掲載されているはず。
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