コリン・デクスター (Colin Dexter)

1930.9.29〜
リンカン州スタンフォード生まれ。
ケンブリッジ大学クライスト・カレッジに学び、
グラマー・スクールの古典講師を経て、
66年以降はオックスフォード地方試験委員会の副書記を務める。
かたわら小説の執筆をはじめ、
1975年、モース警部もの第1作「ウッドストック行最終バス」を上梓。
1979年「死者たちの礼拝」、
1981年「ジェリコ街の女」でCWA賞シルヴァー・ダガー賞を受賞。
1989年「オックスフォード運河の殺人」、
1992年「森を抜ける道」でCWA賞ゴールド・ダガー賞を受賞。
1997年、CWA賞ダイヤモンド・ダガー賞を受賞。
クロスワード・パズルのカギ作りの年次コンテストで
3度イギリス国内チャンピオンになった名人でもある。
著作リスト いずれもモース警部シリーズです。
No. 年度 邦題/原題 備考
1975 ウッドストック行最終バス
Last Bus to Woodstock
1976 キドリントンから消えた娘
Last Seen Wearing
1977 ニコラス・クインの静かな世界
The Silent World of Nicholas Quinn
1979 死者たちの礼拝
Service of All the Dead
1981 ジェリコ街の女
The Dead of Jericho
1983 謎まで三マイル
The Riddle of the Third Mile
1986 別館三号室の男
The Secret of Annexe 3
1989 オックスフォード運河の殺人
The Wench is Dead
1991 消えた装身具
The Jewel That Was Ours
10 1992 森を抜ける道
The Way Through the Woods
11 1993 モース警部、最大の事件
Morse's Greatest Mystery & Other Stories
短編集
12 1994 カインの娘たち
The Daughters of Cain
13 1996 死はわが隣人
Death is Now My Neighbor
14 1999 悔恨の日
The Remorseful Day
完結
    Last Bus to Woodstock
1975「ウッドストック行最終バス」★★★★
夕闇のせまるオックスフォード。 なかなか来ないウッドストック行きのバスにしびれを切らして、 二人の娘がヒッチハイクを始めた。 「明日の朝には笑い話になるわ」と言いながら。 ―その晩、ウッドストツクの酒場の中庭で、 ヒッチハイクをした娘の一人が死体となって発見された。 もう一人の娘はどこに消えたのか、なぜ乗名り出ないのか? 次々と生じる謎にとりくむテレズ・バレイ警察の モース主任警部の推理が導き出した解答とは…。 魅力的な謎、天才肌の探偵、論理のアクロバットが 華麗な謎解きの世界を構築する、現代本格ミステリの最高傑作。 モース主任警部シリーズ第1弾。 おお、これはさてどうしたものか。 私なんかでは評すのが非常に困難よ。 プロットは上記の通り、 ヒッチハイクをしたふたりの娘が、 ひとりが強姦、惨殺され、もうひとりはなぜか名乗り出ず。 けっして複雑ではなさそうなのですが……。 ミステリの部分でいえば、 モース警部と、誠実な部下のルイス部長刑事のコンビが事件に当たります。 このモース警部の探偵法がやっかいなのね。 まず、解決編は(もったいぶって)通常ラストだけなのに、 本編は全体を通して解決編なんです。 もちろん、"真相"ではないのですが、 頑固で、思い込みが激しいモース警部は、 仮定を積み重ねた仮説を好き勝手にどんどん展開。 事実と一致しない部分が出てくれば、 新たに試行錯誤し構築、再検討・改良し、また仮説をたてては崩壊し、 修正してはまた仮説のくり返し。 さながらクロスワード・パズルのようなのですよ。 すごいのが仮説のほうが真相を凌駕してしまってることさえ。 こういったあやふやな手法で淡々と進行していきます。 その合間合間に盛られる、さりげないユーモアも逸品。 おもしろいと認識せず吹き出してしまうような、 それどころか1〜2秒遅れて笑える箇所まで。 この魅力はなんだろう。 類を見ないなんとも切なく不思議な現代ミステリ、 じっさいに目を通して体感して欲しいですね。
    Last Seen Wearing
1976「キドリントンから消えた娘」★★★★★

2年前に失踪して以来、 行方の知れなかった女子高生バレリーから、両親に手紙が届いた。 元気だから心配しないで、とだけ書かれた素っ気ないものだった。 生きているのなら、なぜ今まで連絡してこなかったのか。 失踪の原因はなんだったのか。 そして、今はどこでどうしているのか。 だが、捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。 「バレリーは死んでいる」… 幾重にも張りめぐらされた論理の罠をかいくぐり、 試行錯誤のすえにモースが到達した結論とは? アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰。 モース主任警部シリーズ第2弾。 行方不明の女学生バレリーの捜索を担当することになったモース警部。 とたんに、2年間 音沙汰がなかったバレリーから健在だと手紙が届く。 しかし、モース警部はバレリーはすでに死んでいると直感するが……。 これがね、さしたる論理的根拠はなく、まさに直感なんですよ。 自分が担当するからには、ただの家出人捜査より、 殺人でなければならないと。 といっても、モース警部、無分別でも偸薄でもないんですよ。 基本は高尚だけど低俗な部分も持ち合わせ、 とらえどころも つかみどころもないですけれど、 時おり垣間見える彼の哲学は冷たくもあたたかい。 展開は前作と同様、何度も仮説を繰り広げ、 読者を論理の迷宮へと引きずり込みます。 これまた風紀紊乱だけれど、この手法は凄絶。 読まなきゃ伝わらないよ。 パズルのカギや、サブキャラ、 聖ベネディクト教会の電気時計の逸話もナイス。
    The Silent World of Nicholas Quinn
1977「ニコラス・クインの静かな世界」★★★★★

ニコラス・クインが海外学力検定試験委員会の一員に選ばれた際、 委員会は大騒ぎとなった。 彼は極度の難聴で、会話を交わすにも読唇術だけが頼りだったからだ。 三カ月後、クインは毒殺死体となって発見された。 補聴器をつけた安全無害の男がなぜ殺されなければならなかったのか? モース主任警部は即座に委員会に照準をあわせ捜査を開始するが… 現代本格派の旗手が紡ぎ出す華麗な謎解きとアクロバティックな推理の世界。 モース主任警部シリーズ第3弾。 海外学力検定試験委員会は 転勤したジョージ・ブランドの後任として、3人の候補をたて、 審議、票決の末、ニコラス・クインが選ばれた。 彼は人当たりもよく、仕事もよくできる有能な男だったが、 極度の難聴というハンディキャップがあった。 そして、彼が委員になって数ヶ月……。 多少の問題はあるものの、着実に成果を収めていたが、 自宅で毒により死亡しているのを発見される。 なぜ、彼が殺されなければならなかったのか? 今回はホワイダニットですかね。 犯人に関してはすでにおなじみ、 もうだれでもいいんです(w 若干、もったいぶってきたけど、まだまだ多重の論理は健在。 何度でも頭が下がります。 Silent World を 静かな世界 に訳したのもいいなあ。 いや、ほとんど直訳ですけども、このタイトルすごい好きです。 これぞ、詞藻に富む、って感じ。 ひさびさに魂にひびいたですよ。 エピローグも幽愁を誘う。 ああ、モースのクリスチャンネームが気になる(^^ヾ
    Service of All the Dead
1979「死者たちの礼拝」★★★★
教会の礼拝の最中に信者が刺殺され、 つづいて礼拝をとりおこなった牧師も謎の死を遂げた。 神聖な教会にはいったい何が潜んでいるのか? 休暇をもてあましていたモース主任警部は捜査に乗り出すが、 関係者はみな行方をくらましており事件は迷宮入りの様相を呈していた。 さらに第三の犠牲者と覚しき死体が発見され、謎はいよいよ深まっていく。 英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を受賞した 人気の本格シリーズ第四弾。 モース主任警部シリーズ第4弾。 教会での礼拝中、教区委員の男が背中を刺され死亡していた。 被害者の胃の中からは致死量のモルヒネが検出された。 男はなぜ二重に殺害されたのか? 事件の捜査は進展せず、今度は同教会の塔から牧師が墜死。 当局は証拠はないものの、牧師が犯人で自決したものと見ていたが、 たまたまこの事件に関心をいだいた休暇中のモース警部は 自分なりの考えをもとに捜査をはじめる。 が、当時の礼拝にいあわせた人々は一様に行方がしれず、 やがて次々と死体となって発見され―― 神聖なる教会を舞台にした悖徳たる殺人劇の真相とは? ああ、つかれた(;´Д`) これはいつにもましてこんがらがってますね。 つか、読了はしても理解できてんのか私。 歴代志上・下、ルツ記、黙示録、の4部構成になっているのですが、 それぞれのエレメントに原拠があるのかな? 聖典なんて縁がないものなあ。 ともあれ、モースは間違えたのではなく嘘を吐いたと思っておこう。 いや、もっすごてきとーな解釈なのですがっ。 モースの推理先からどんどん死体の飛びでる展開は圧巻。
    The Dead of Jericho
1981「ジェリコ街の女」★★★★
モース警部がジェリコ街に住む女アンに出会ったのは、 あるパーティの席上だった。 すっかり意気投合した二人は再会を約すが、数カ月後、 彼女は自宅で首吊り自殺を遂げた。はたして本当に自殺なのか? モースにはどうしても納得がいかなかった。 やがてアンの家の近所で殺人事件が起こるにおよび、 モースの頭脳はめまぐるしく動き始めた。 前作に続き英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞を 連続受賞した傑作本格ミステリ。 モース主任警部シリーズ第5弾。 ある家庭パーティで初対面のアン・スコットと 知己のようにうちとけたモース。 ジェリコ街に住まう彼女と再会の約束をするものの、 彼女に結婚の影を感じたモースは気おくれし、半年が経過。 そして事件は起こった。 アンが自宅で首を吊って自殺。 現場の状況から不調和なにおいを嗅ぎとったモースは 消極的ながら調査をはじめる。 間もなく隣家で殺人事件が発生。関連はあるのか? ジェリコ街を蔽う悲劇の結末は―― 今回は(比較的!)すんなり理解できる話でした(w といっても、いくつもある解決編は健在で読みごたえばっちり。 あのオイディプスの神話とのシンクロには震えたぜ。 もっとも結局、空振りでしたが(^^ヾ もひとつ、とくに似てない兄弟の入れかえトリックなんかも大胆で好き。 鉄壁ならぬ綱渡りのアリバイでもいけるもんなんだなぁ。
モース ウッドストック行最終バス:44歳 ジェリコ街の女:50歳
    The Riddle of the Third Mile
1983「謎まで三マイル」★★★☆☆

河からあがった死体の状態はあまりにひどかった。 両手両足ばかりか首まで切断されていたのだ。 ポケットにあった手紙から、死体が行方不明の大学教授のものと考えた モース主任警部は、ただちに捜査を開始した。 が、やがて事件は驚くべき展開を見せた。 当の教授から、自分は生きていると書かれた手紙が来たのだ。 いったい、殺されたのは誰か? モースは懸命に捜査を続けるが…。 現代本格の旗手が贈る、謎また謎の傑作本格。 モース主任警部シリーズ第6弾。 川のなかで発見された死体は 首と両手足が切断された無惨な状態だった。 着衣とポケットにあった手紙の切れ端から、 モースの恩師でもあるオックスフォード大学の教授が浮かびあがる。 しかし、犯人は首や手足を切断しておきながら、 なぜそのような手がかりをわざわざ残したのか? 被害者のなぞが犯人の正体と密接する異色のフーダニット! タイトル等はマタイ伝(第5章41節)に拠る。 被害者はだれか?に終始する一話。 読者は冒頭で犯人らしき人物と動機を知ることができるので、 倒叙ものなのかと思いきや、そう単純には落ちません。 今回も頭がぐるぐるくらくらしてきます(w 終盤の事件関係者と死体の数が釣りあわないってのがたまらんね。 意外な犯人ならぬ死体ってのもシック。 今回は大学時代のモースの恋物語もあり。 こういっちゃなんだけど、ありきたりな、平凡な失恋なのに、 いまだに傷が癒えず苦悶するモースも難儀だね。 ウェンディ・スペンサーの影のあつかいもうまいなあ。
    The Secret of Annexe 3
1986「別館三号室の男」★★★☆☆

顔にドーランを塗り、民族衣装をまとった奇妙な死体― オックスフォードにあるホテルの別館で撲殺されていた男は、 仮装大会の優勝者だった。 モース主任警部は捜査をはじめるが、被害者は偽名で泊まっていたうえ、 身元を示すものをいっさい持っていなかった。 しかも同じ別館の宿泊客は、被害者の妻も含めて一人残らず姿を消していた… 見知らぬ男女が集うホテルで起こった難事件にモース警部が挑む。 モース主任警部シリーズ第7弾。 雪降る大晦日。 さまざまな催しでにぎわうホテルの別館三号室で、 仮装大会でラスタファリー教徒に扮したすがたのまま、 殺害されている男が発見された。 別館には被害者を含めた3組の夫妻が宿泊していたが、 事件発覚前後にみな逐電していた。 元日からこの殺人事件を担当することとなったモースの摧心! 一見、シンプルなのに、終盤につれてなぞがほぐれるどころか もつれてくる展開はすでに名人芸。 でも今回はモースよりルイスががんばってた印象。 どことなく雪の密室をにおわせて その実、歯牙にもかけないスタイルが好きだ(w アンチ倒叙とアリバイの風味もグッド。
    The Wench is Dead
1989「オックスフォード運河の殺人」★★★☆☆

モース主任警部は不摂生がたたって 入院生活を余儀なくされることになった。 気晴らしに、彼はヴィクトリア朝時代の殺人事件を扱った研究書 『オックスフォード運河の殺人』を手に取った。 19世紀に一人旅の女性を殺した罪で二人の船員が死刑となったと 書かれていたが、読み進むうちモースの頭にいくつもの疑問が浮かび… 歴史ミステリの名作『時の娘』を髣髴させる設定で贈る、 英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作。 モース主任警部シリーズ第8弾。 酒と煙草の過剰摂取で内臓を痛め、緊急入院したモース。 さいわい大事にはいたらなかったが、数日間は病院のベッドで過ごすことに。 そんな折、同室した老大佐の妻から 「オックスフォード運河の殺人」という本を譲りうけることに。 何げなく開いてみるや、たちまちモースは引きこまれてしまう。 そこには1859年に起きたある殺人事件の顛末が描かれていた。 若い女性が運河の船旅の途中、船員たちにより惨殺されたというもの。 しかし、単純に見えるその事件にモースはある疑念を抱き―― 『時の娘』を髣髴させる、とありますが、 あっちは史実に忠実していますけど、こっちは創作ですよね? ゆえに歴史ミステリっぽいのは期待しないほうが吉。 100年以上前の事件を推理するとだけあって、 現在において出てくる手がかりは都合がよすぎかと(^^; そもそも発端でこの本を大佐はどういう意図で記したんだろ。 推理するのにおあつらえ向きなのよね。 サイズはちいさめだけど完成度が高い。 モースと共に読み進める作中作のメタ要素もたのしい。 犯人一味の化かしっぷりがこうばしい。 あとは冤罪の救済措置も(今さらでも)あってほしかった。
    The Jewel That Was Ours
1991「消えた装身具」★★★☆☆

オックスフォードを訪れたアメリカ人ツアー旅行客の婦人が ホテルで急死した。死因は心臓麻痺。 だが彼女が持っていた貴重な中世の装身具が紛失していることを知った モース主任警部は、他殺ではないかと疑い、捜査を進める。 やがて疑念を掻きたてるかのように、 ツアー関係者の一人の死体が川面に浮かんだ! ツアー客、ガイドたちの錯綜する証言からモースが繰り広げる華麗な推理。 二転三転するプロットで描く現代本格の粋。 モース主任警部シリーズ第9弾。 貴重な"ウルバーコートの装身具"を寄贈するため、 オックスフォードの観光ツアーに参加していた夫人が、 ホテルの自室で死亡した。 死因は冠状動脈血栓症(心臓麻痺)で、担当医は事件性はないという。 ところが、"装身具"がしまってあった彼女のハンドバッグが現場から紛失。 この盗難事件の担当になったモースはおざなりな捜査を進めるが、 関係者の一人――"装身具"を受納することになっていた博物館職員――が 死体で発見されるや、彼の頭脳はようやく動きはじめる。 消えた装身具はいかに事件に関わっているのか? 好評のテレドラの原作不足のためオリジナル脚本を作り、 それを元に小説化したのが本書のせいか、なんか弱い。 登場人物たちの影が薄いのよね。題材がやや映像的だし。 タイトル(原題)はいいの。すばらしいの。二重で。 なればこそ、人間に厚みがほしいのよね。 前作、吐血までして入院したモースですが、 今回もまったくこりずに飲酒ばかり><
    The Way Through the Woods
1992「森を抜ける道」★★★★
休暇中のモース主任警部は宿泊先で『タイムズ』のある見出しに目をとめた。 記事によると、警察に謎の詩が届けられ、 それには一年前の女子学生失踪事件を解く鍵があるらしい。 やがて事件の担当になったモースは、 彼女が埋まっていると詩が暗示するワイタムの森の捜索を開始する。 だが、そこでは意外な発見が待ち受けていた! 一篇の詩から殺人事件の謎へ、華麗な推理が展開する 英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作。 モース主任警部シリーズ第10弾。 イギリスを一人旅していたスウェーデンの女子学生が リュックサックだけを残し、失踪した。 その1年後、休暇を満喫しようと努めていたモースは ある新聞記事に触れ、頭からはなれなくなってしまう。 それは一篇の詩で、行方不明のスウェーデン娘が殺害され、 森に埋められており、発見を待ち望んでいると受け取れた。 勤務に戻ったモースはこの事件の担当となり、 広大なワイタムの森の捜索を開始するや、 白骨化した人間の死体を発見するのだが―― 題名はラドヤード・キプリングの詩に拠る。 全体的に詩的でありながら、その裏面がポルノってのがデクスターだねえ。 しかしマックスの死は衝撃でしたよ(´Д⊂ 喪失感がリアルでこまる。 それ以上に最後に明かされる、 モースの"あやつり"がやばすぎるけど。こわいほど。 いやいや、これ社会派だよね。
PN A・オースティン ライオネル・リージス
    Morse's Greatest Mystery
1993,4「モース警部、最大の事件」★★★☆☆

こんな夜更けにケチな盗難事件の捜査とは。モース主任警部は顔をしかめた。 ロンドンの安酒場で四百ポンドが忽然と消えたという。 事件当夜は金回りの悪い常連客ばかりで、犯行の機会は全員にあった。 さすがのモースにも、犯人の特定は絶望的に見えたが… 『クリスマス・キャロル』を下敷きとした表題作をはじめ、 パスティーシュやメタミステリなど11篇を収録。 本格ミステリの第一人者が贈る、ヴァラエティに富んだ短篇集。  信頼できる警察 As Good as Gold テロリストを逮捕したものの、 決定的な証拠の写真と指紋を紛失してしまった警察。 そこで担当警部は葛藤しながらも証拠を捏造しようと計画する。 それを知ったモースは――  モース警部、最大の事件 Morse's Greatest Mystery クリスマス、酒場で集めた寄付金400ポンドが盗難された。 現場はごった返しており、容疑者はざっと30人。特定は可能か? モースが手がけた最小にして最大の事件!  エヴァンズ、初級ドイツ語を試みる Evans Tries an O-Level 窃盗と脱獄の常習犯エヴァンズが、 その独房で初級ドイツ語のテストを志願した。 刑務所所長はこれがよからぬたくらみと目を光らすが―― 非モースもの。ベル主任警部とかは出てるけど。  ドードーは死んだ Dead as a Dodo どっかで読んだことあるなぁと思ったら 「EQMM90年代ベスト・ミステリー 双生児」だった。  世間の奴らは騙されやすい At the Lulu-Bar Motel ブラックジャックでの騙し騙されの賭博物語。 非モースもの。  近所の見張り Neighbourhood Watch 愛車を盗まれたモースの知人のウルマン。 数日後、彼の車は洗車され、オペラのチケットまで付いて返却されていた。 犯人の目的はなんだったのか?  花婿は消えた? A Case of Mis-Identity ホームズもののパスティーシュ。 若い婦人がホームズのアパートに飛びこんできた。 彼女の婚約者が突然、失踪したので行方を捜索してほしいと依頼。 さっそく推理をはじめるホームズだが、 たまたま居合わせていたマイクロフトと対立することに。 軍配はどちらにあがるのか?  内幕の物語 The Inside Story メタミステリ。 自室で刺殺されていた女性の事件の担当になったモース。 彼女は短編ミステリのコンクールに投稿しており、 その作品の中に今度の事件のヒントがあるとにらむモースだが。  モンティの拳銃 Monty's Revolver 男女の浮気な一話。フランチェスカ・ダ・ポレンタ(?_?)  偽者 The Carpet-Bagger さまざまな犯罪で投獄されては模範囚として服役し、 出所の数日前に脱獄をしてはまた罪を犯すダニーの物語。 いちおう、モースは登場しています。カメオ出演。  最後の電話 Last Call ホテルの一室で死亡していた男性。 頭部に傷があったが、死因は心臓発作らしい。 事件性がうすく、すぐに興味をなくすモース。 しかし、死者にかかったてきた最後の電話の存在をしるや―― やはりデクスターは長編作家だなぁと。 めくるめく論理の渦は短編ではむずかしいやね。
    The Daughters of Cain
1994「カインの娘たち」★★★☆☆

モース主任警部が捜査を引き継いだ、 大学の元研究員の刺殺事件は意外な展開を見せた。 容疑者と思われた博物館係員の男が行方不明となり、 数週間後に刺殺体で発見されたのだ。 凶器は博物館から盗まれたナイフだった。 ふたつの殺人に何か関係が? やがて、殺された男に恨みを持つ三人の女の存在が浮かび上がるが、 彼女たちには鉄壁のアリバイが! 華麗な謎解きで読者を魅了しつづける、現代本格の最高峰シリーズの注目作。 モース主任警部シリーズ第11弾。 大学の元特別研究員マクルーアが刺殺された事件を 同僚の主任警部から引き継いだモース。 単純ゆえに手がかりの少ない事件だったが、 やがて博物館係員の男ブルックスに容疑が固まった。 しかし逮捕間近というときに男が失踪、 その後、川のなかからナイフが突き刺さった状態で発見された。 捜査を進めると動機を持つ3人の女―― ブルックスに長年、冷酷にあつかわれてきた妻、 彼に陵辱された義理の娘、 そんな事情をしる彼の妻の親友――が浮上。 ところが3人ともに動かしがたいアリバイが―― 兇器とアリバイのトリックがポイントなんだけど、 なんか(退屈ではないんだけど)冗長なのよね。 犯人や関係者のカットインがインスタレーションにいたらぬというか。 マクルーア殺害後からはじまりゃいいんだな。前は不要。 強振で空振りしない仮説論理もこのシリーズではもの足りない。 冒頭から退職を宣言するストレンジと示唆するモース。 また相変わらずの飲酒と喫煙でいよいよ心配なモースの身体。 終末に近づいてくる感じがさみしいなあ。
    Death is Now My Neighbor
1996「死はわが隣人」★★★★
オックスフォード大学学寮長選挙のさなか、住宅地で殺人事件が発生。 テムズ・バレイ警察のモース主任警部は、 血の海に横たわる女の死の謎を追い始めた。 一癖も二癖もある隣人たちの錯綜する証言から、 やがて殺人事件と学寮長選挙との意外な関係が明らかに。 だが、その矢先、モースは病に倒れた。 苦痛に耐えながらたどりついた、混迷の事件の真相とは? 現代本格ミステリの最高峰、モース主任警部シリーズついに佳境へ。 モース主任警部シリーズ第12弾。 住宅街の自宅で女性が射殺された。 捜査を進めるモースはこの事件が前提から "間違い"であると一足飛びに結論する。 その矢先、モースは体調不良(糖尿病)により緊急入院。 そして懸念されていた新たな殺人が……。 事件と大学学寮長選挙に関係する人々――殺人犯と、 病魔を相手に、モースの懊悩は続く。その結末は? ポニーテールの悲劇とタイトルで(笑えないけど)笑える。 事件のいやになるほどの堂々巡りや 引用文・エピグラムのカットの絶妙さも毎度見事。 ところで。 解説で抜かれていたデクスターの欠点はよくわかんないんだよね。 あれって本格のルールに則ればの話でしょう。 べつにデクスターはそんなん意識せず 好き勝手描いてるだけなんだろうから、 そういった狭い枠に押しこめて論じてどうすんのよ、と。 (国内)新本格の作家たちみたく、 「自作はフェアプレイ命の本格ものでござい」ってスタンスなら納得だけど。 デクスターがそういう(かわゆい)キャラとは思えない。 今作は作者がシリーズ完結のつもりだったので、 ラストシーンはルイスならずとも熱くなるでしょう。 (※シリーズをすべて読んでいれば) ついにE・モースのクリスチャンネームが明らかに! 自分用にメモっとく。激ネタバレ注意!!    ↓   ↓   ↓ エンデバー(Endeavour? Endeavor?)・モース(Morse) キャプテン・クックの帆船エンデバー号から これがコンプレックスになるんだね(w    ↑   ↑   ↑ あれ、ルイスのファースト・ネームってなんだっけ(^^;
    The Remorseful Day
1999「悔恨の日」★★★★

病気療養中のモース主任警部のもとを上司のストレンジ主任警視が訪れ、 一年前に起きた未解決事件の捜査を依頼してきた。 問題の事件―看護婦が寝室で手錠をかけられ、 全裸死体で発見された事件は、容疑者もないまま迷宮入りと思われていた。 が、最近になり、匿名の情報提供があったというのだ。 引退を決意していたモースが最後の難事件に果敢に挑むが… ミステリ界に偉大な足跡を印す本格シリーズの最高峰、堂々完結。 モース主任警部シリーズ第13弾(完結) 休暇療養中のモースのフラットをストレンジが訪れた。 1年前、全裸の女性がベッドの上で手足を捕縛された状態で撲殺された。 いまだ解決にいたっていないこの殺人事件に関し、 匿名の電話で新たな情報が寄せられたので、モースに担当を依頼した。 しかし、モースはこの事件にたずさわることを奇妙に拒んだ。 そこでルイスが代わりに捜査を進めるが、 事件の関係者たちがつぎつぎと死体となって発見される。 ようやくモースも解明に本腰を入れるのだが―― そっかぁ、そうなるよなぁ。 やはり"最後の事件"は探偵が犯人、あるいはその死のパターンですわな。 本書はその両方を匂わせつづけているんですよね。 終盤はびくびくしながらページを繰っていましたよ……。 そりゃモースが殺人を犯すとはとても思えないけど、 事故だとか、やむにやまれぬなにかしらの事情が あったんじゃねぇかとか勘ぐっちゃうもの。ルイスのように。 ルイス! おお、モースとルイスの関係のすてきなこと! せつなすぎてこっちがやりきれない。 にしても、前作の完結で読者の猛反発を受け、記者会見まで開き、 そして描かれたのがこれってのも皮肉ですよねー。 そこで納得してればモースは生きてたのに。 なんだかんだで酒飲みながら退職後も たのしく余生をすごしているだろうと想像できたのに。 にしても、記者会見になる流れがまったく理解できないです(^^; ともあれ、大当たりの大好きなシリーズとなりました。 またいつか読み直そう。 なんせ筋書きはろくすっぽ記憶に残ってないし(w  空を血に染めながら  はるかな西へむかって  苦しげに沈んで行く。  ふれることもできず  目にも見えず、音も聞こえず  悔恨の日は望みなき地下へ  落ちて行く。A・E・ハウスマン「遺稿詩集」
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