フィリップ・K・ディック (Philip K. Dick)

1928.12.16〜1982.3.2
イリノイ州シカゴ生まれ。
映画「ブレードランナー」の原作者としても有名なカルトSF作家。
哲学的な問題を多く含み、生涯「偽物・本物」というテーマを追いかけた。
風化しない独自の世界観と高いユーモアセンス、
思わず感情移入してしまう登場人物たちなどが魅力。
1962年「高い城の男」でヒューゴー賞を受賞。
1983年、フィリップ・K・ディック記念賞が創設。
その年に米国でペーパーバックオリジナルで出版されたSFが対象。

OHP
    The Man in the High Castle
1962「高い城の男」★★★★★

第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わってから十五年、 世界はいまだに日独二国の支配下にあった。 日本が支配するアメリカ西海岸では 連合国側の勝利を描く書物が密かに読まれていた…… 現実と虚構との間の微妙なバランスを、 緻密な構成と迫真の筆致で描いた、 1963年度ヒューゴー賞受賞のD・K・ディックの最高傑作! 歴史SF。 第二次世界大戦で日本とドイツが勝利した世界を描いた作品。 作中作の「イナゴ身重く横たわる」では、 日本とドイツが敗北した世界を描写し、 虚実と真贋の構造効果がじつにすばらしいです。 哲学・思想劇で、人びとに易経が浸透しているのも奇妙におもしろい。 せっかく日本人に生まれたんなら読んでおきたい一品。
    Do Androids Dream of Electric Sheep?
1968「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」★★★★★

長く続いた戦争のため、放射能灰に汚染され廃墟と化した地球。 生き残ったものの中には異星に安住の地を求めるものも多い。 そのため異星での植民計画が重要視されるが、 過酷で危険を伴う労働は、もっぱらアンドロイドを用いて行われている。 また、多くの生物が絶滅し稀少なため、 生物を所有することが一種のステータスとなっている。 そんななか、火星で植民奴隷として使われていた8人のアンドロイドが 逃亡し、地球に逃げ込むという事件が発生。 人工の電気羊しか飼えず、本物の動物を手に入れたいと願っているリックは、 多額の懸賞金のため「アンドロイド狩り」の仕事を引き受けるのだが…。 SF。 第3次世界大戦後。 "灰"に汚染された地球では動物を所有する事が地位の象徴とされていた。 賞金狙いのハンター・主人公リックは動物を購入するため、 火星から逃亡してきた高額のアンドロイドたちを追うが―― 賞金かせぎとアンドロイド8人のバトルものです。 といったら誤解されまくりか。 スリリングな追跡劇や派手な燃えアクションは皆無ですし。 テーマは「共感」らしいですね。 思想系だけど、作品より作者自身の色合いが強い気がする。 ディック入門に最適といわれたし、 きっとこれがディック論なのだろうなあと。 (訳者あとがきが秀逸すぎ) タイトルも有名ですよね、よくパスティーシュされてるし。 人間と人工物(アンドロイド)のちがいを通して、 人間(らしさ)とはなんぞやと考えさせられる作品。 映画『ブレードランナー』の原作だそうで。 メジャーらしいですが見てねーや、きっと今後も(´・ω・`)
    The Best of Philip K.Dick
1977「パーキー・パットの日々」★★★★
ディック傑作集〈1〉 火星生物との戦争でかつての豊かな生活を奪われ、 地上の放射能から逃れて地下シェルターで暮らすしかない人類に残された、 たったひとつの楽しみとは? ……表題作ほか、処女短篇「ウーブ身重く横たわる」など、 ディックの初期から後期にいたるまでの、 選りすぐりの傑作短篇十篇を収録する。  ウーブ身重く横たわる Beyond Lies the Wub ディックの処女短篇。 ブタのような生物ウーブを購入した宇宙船内での物語。  ルーグ Roog ホラー?犬のボリスとルーグの鬩ぎあい(w なんともいいがたい奇妙な味。  変種第二号 Second Variety 米ソの最終戦争が勃発。そして登場した殺人ロボット兵器"クロー"。 みずからをどんどん進化させ、人類そのものの危機に……。 おおすじのストーリーはベタですが、最後の1行が極上。  報酬 Paycheck 機密保持のため2年間の記憶の代償に、 多額の報酬の仕事を請けた技術者の主人公。 そして、記憶を消され、目覚めるが、 報酬は大金ではなく、7つのガラクタだけだった。 それも自分の意思でそうしたらしいのだが……。 これはミステリっぽい構成が好き。 どうせならガラクタに指輪もあればよかったのにね!  にせもの Impostor 変種第二号みたいな感じ。ただし侵略者は宇宙人。 機転のするどさがサスペンスを生みますね。  植民地 Colony ある惑星探査チームが遭遇した、 あらゆる無機物に擬態し人間を襲う原形質の単細胞動物。 やはり閉めは王道ながら、異性物とのパニックバトルはたのしい。  消耗員 Expendable 巨人対蟲。個人と種族と等価値と。  パーキー・パットの日々 The Days of Perky Pat 表題作。 火星生物との不利な戦争で、かつての豊かな生活を奪われ、 地上の放射能から逃れ地下シェルターで暮らすしかない人類。 そんな状況下での大人たちの楽しみは、 パーキー・パットという女の子の人形と、 平和だった時代の町の模型を使うSLG(人生ゲームみたいの)だけ。 バービー人形がモチーフか。子どもは希望ですねー。  たそがれの朝食 Breakfast at Twilight 平凡なある日、自宅ごと7年先へタイムトラベルした家族。 ――そこは全面戦争のまっただなかだった。 その後、どうするんだろうね……。  フォスター、おまえ、死んでるところだぞ Foster, You're Dead 例によって米ソの対立が深刻化。 各世帯に核シェルターが普及するなか、 主人公の少年の家は反軍備主義で未設置だったのだが……。 この原理は汎用性が高いですね。倒置すると明白。
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1977「時間飛行士へのささやかな贈物」★★★★
ディック傑作集〈2〉 アメリカで行なわれた国家的なタイム・トラベル実験で、 タイム・トリップ中に爆発事故が起きた。 ひとつの空間に同時に複数の物体は存在できないという 原則を破ってしまったらしい。時間飛行士たちの運命は…。表題作。 ある日チャールズは、 ガレージにいる父親がふたりになっているのに気がついた…。 「父さんに似たもの」など、読む者を現実と非現実のはざまへと 引きずりこむ、名手ディックならではの悪夢にみちた9篇。  父さんに似たもの The Father-thing 少年チャールズの父親そっくりに化けたなぞの生物! チャールズと友だちはこの化け物と対決。  アフター・サーヴィス Service Call ある製品のアフター・サーヴィスにやってきた男。 だが心当たりはまるでなく、門前払いに。 しかし、どうも気になり、調べてみると、 その男は9年後からやってきたらしいのだが……。 未来の「ある製品」が描き出される過程がいいですね。  自動工場 Autofac 全面戦争に突入し、機械・工場はすべて全自動になった。 終戦してもそれは変えられず、 人間たちは主導権を取り戻すため、機械工場との対決を……。 そもそも、機械と人間の性差とは?  人間らしさ Human Is 仕事一筋の研究者と、それに不満で離婚を決意した妻。 あくる日、夫が異星への"出張"から帰ってくると、 まるでなにかに憑かれたかのように家庭人に変貌し―― ディックの信条がすてき。  ベニー・セモリがいなかったら If There Were No Benny Cemoli 戦争により崩壊後、他惑星に管理されている地球。 そんな荒廃時代の新聞社と報道価値。虚像と偶像。 テーマは歴史上の有名人の真贋・捏造と。だよなぁ。  おお!ブローベルとなりて Oh, To Be a Blobel! クラゲ状の異星人ブローベルと人類の戦争中、 スパイのため、それに模写する技術を受けた人間の主人公。 だが、終戦しても元には戻らず、 ともすればブローベルの姿になってしまう。 思い悩んだ彼は、精神科医を訪れるが……。 本筋と関係ないけど、コイン式の精神科医ってすばらしい(w  父祖の信仰 Faith of Out Fathers 共産主義、国家公務員と党内抗争、その黒幕云々。 ああいった存在を描く筆致が印象に残るなぁ。  電気蟻 The Electric Ant 事故に遭い、自分が電気蟻と呼ばれる 有機ロボットだと知った電子工業社長の主人公。 自由意志を求め、みずからのプログラムを改編するが……。 唯物と現実の境界線、ホラーですよねぇ。コギトエルゴスム。  時間飛行士へのささやかな贈物 A Little Something for Us Tempunauts 表題作。 時間飛行の初実験中、事故が発生し、 時間飛行士たちは閉じた時間に迷いこみ、 延々とループをくり返していたが―― タイムトラベルのパラドックス。これもホラーだなぁ。 なお、本書巻末には傑作集1,2の初出の出典や、 作者による収録された全作品の追想があります。
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