ウィリアム・アイリッシュ (William Irish)
1903〜1968.9.25
ニューヨーク生まれ。
1925年、コロンビア大学卒業(中退との表記も)。
サスペンス・スリラー(風ミステリ)の第一人者。
都会的、孤独で哀切な世界観、緊密で詩的な文体で独自の境地を開拓。
ゴシック・ロマンの筆致をミステリに導入。
髪は茶色、瞳は青、身長5フィート9インチ。
日曜日は結婚していない(w
長編24本と、220本を越える短編を発表。
1949年、MWA賞最優秀短編賞を受賞。
やはり短編の作家で、
(長編の大部分が連作短編の趣きがある)
手軽にお洒落な犯罪小説が読みたいなら、かなりの推奨度。
別名義:コーネル(・ジョージ・ハプレイ)・ウールリッチ (Cornell Woolrich)←本名
別名義:ジョージ・ハプリー (George Hopley)
The Bride Wore Black 1940「黒衣の花嫁」★★★★☆
ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友達にシカゴへ行くといいながら、 次の駅で列車をおり、ニューヨークに舞い戻ってしまった。 そして、ホテルに着くと、 自分の持物からイニシャルをひとつ残らず消していった。 ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ…… それからしばらくして、彼女は、つぎつぎと、 五人の男の花嫁になったのだ―― 結婚式もあげぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼――黒衣の花嫁に。 〈一種異様な寂しさをもつ〉と称される サスペンスの巨匠コーネル・ウールリッチ、黒のシリーズの劈頭を飾る名作。 ある決意を胸に秘め、自らの存在を抹消したジュリー。 やがてなんの関連もないように思われる男たちが、 なぞの美女によってつぎつぎと殺害される事件が発生する。 警察の懸命の捜査の末、浮かびあがった女の目的とは? 著者の専売特許たる孤独で悲哀な復讐物語。 (この手のものでは)処女長編だけあって、 プロットにはひねりが、文章には力が入っています。 でも彼女の夫も相当の悪人っぽいからなんだかなあと。
The Black Curtain 1941「黒いカーテン」★★☆☆☆
ショックを受けたタウンゼントは記憶喪失症から回復した。 しかし、三年の歳月が彼の頭の中で空白になっていた。 無気味につけ狙うあやしい人影。 おれはいったい何をしたというのだ? 殺人罪で追われる人間の孤独と寂寥を、 圧倒的なサスペンスで描くスリラー派の驍将アイリッシュが、 コーネル・ウールリッチ名義で発表した長編の傑作! 崩れた瓦礫のなかで目を覚ましたフランク・タウンゼント。 帰宅すると妻ヴァージニアの様子がおかしく、 話してみると3年半ぶりの再会だというのだ。 空白の歳月をたどる彼だが、記憶は黒いカーテンに覆われていた。 そこに現われる彼をつけまわす無気味な人物の影。 タウンゼントは逃亡しながらもみずからの囹圄された過去を探求する。 やがてある殺人事件が浮かびあがり……。 孤閨のヴァージニアやルスのけなげさが心地いい。 それだけにどうしてもどちらかを失うのがつらいね。 展開の流れはうまいのに、全体的にどうにもちぐはぐなんだよなぁ。 記憶喪失ネタは使い勝手が便利だけに空疎な印象に。 主人公の孤独の心理はさすがですが。 あと驍将ってイメージかなぁ、アイリッシュって。 繊細でデリケート、スマートでひ弱っぽいとこが好きなんだけど。
Black Alibi 1942「黒いアリバイ」★★★☆☆
衆人環視のなかを逃げだして姿をくらました黒豹は、 アメリカからの一女優の旅興行の宣伝のために連れてきたものだった。 やがて、ずたずたに引き裂かれた娘の死骸がひとつ、またひとつ…… 追いつめられた犠牲者の恐怖と寂寥を描かせては並ぶ者のない、 アイリッシュの、南アメリカの架空都市を舞台にした《ブラック》もの。 南米の(架空都市)シューダ・レアル市は恐怖につつまれていた。 売り出し中の女優キキ・ウォーカーの話題づくりのため、 マネージャーであるマニングは黒い豹を手配。 農民に育てられ、おとなしいというそれを 彼女が連れ歩き群衆の面前でカフェで一杯やるように指示。 いやいやながらもしたがうキキだが、席についたとたん、 なにが原因なのか黒豹は突然暴れだし、ついには逃走してしまう。 すぐにロブレス警部率いる警察の捜索隊が編成されるが、 ついに黒豹の行方はつかめなかった……。 そして数日後、見るも無惨な若い女の死体が次々と発見されていく。 躍起になって豹の捜索に力を入れる警察。 しかしマニングにはある予感があった。 この連続惨殺事件は動物ではなく、人間の手によるものではないか―― といった具合のサスペンス。 被害者たちの物語におおきくページが割かれているので ホラーともいえますね、あの、そっちいったらあかん的なもどかしさ。 ついでにいえばミステリともとれるのでしょうが、 これはほとんどやっつけ仕事なのであしからずです(^^; 直接的な犯人を断定できる伏線も張られてないし。 タイトルにしたってアリバイものではぜんぜんないし。 豹の犯行説自体が犯人のアリバイでは理屈が通らないものね。 もひとつ。 マニングがマージとラウールに協力を仰ぐときに、 そもそもの発端、元凶が自分だといってないのよね。 いちおう、ここはゆずっちゃいけない一線なんじゃないの。 それともとっくに報道とうで周知でいてかまわずに、なのかなぁ。 まあ、ちぐはぐした箇所は少なくないけど、 アイリッシュならではの表現や言い回しはたのしめるので、 ファンならたっぷり堪能できるはず。 ところでカバーの登場人物にいる、 ゲーリイ・セヴァーン……謎の男、なんて登場しましたっけ(^^; マジで見落としたのかなぁ。まさに謎だ……。 解説に作者の孤独な生涯の小エピソードが添付。 忘却されてこそ映えてしまう作風景の哀傷よ。
Phantom Lady 1942「幻の女」★★★★★
暗いムードを湛えた発端…… そして街を彷徨ったあと帰宅した彼を待ちうけていたのは、 絞殺され無惨に変り果てた妻の姿であった。 強烈なスリル、異常なサスペンスを展開し、 探偵小説の新しい型を創り出したアイリッシュの最高傑作! "夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった" の巷で有名な一節で始まるサスペンスミステリ。 アリバイ証明の為に"幻の女"を探索しますが、 死刑執行のタイムリミットと合間って退屈しません。 デッドラインが設定されたタイプでは随一。 とにかくスタイリッシュな文章が魅力でしょう。 ラストの一節も大好き♪
The Black Angel 1943「黒い天使」★★★☆☆
夫はいつも彼女を「天使の顔」と呼んでいた。 彼女を誰より愛していたのだ。 それが突然そう呼ばなくなった。 ある日、彼女は夫の服がないことに気づく。 夫は別の女のもとへ走ろうとしていた。 裏切られた彼女は狂おしい思いを抱いて夫の愛人宅を訪ねる。 しかし、愛人はすでに何者かに殺されており、夫に殺害容疑が! 無実を信じる彼女は、真犯人を捜して危険な探偵行に身を投じる…… 新訳で贈るサスペンスの第一人者の傑作 夫カーク・マレーの様子がいつもとどこかちがう―― ささいな違和感から若妻アルバータは夫の浮気を確信する。 胸を痛めながらも夫への愛情は失せることなく、 浮気相手の女――女優ミア――の宅に乗りこみ対決することに。 しかし、そこには枕を圧しつけられ、 窒息死したらしいミアが横たわっていた。 混乱しながらも夫への容疑を心配したアルバータは 夫の情報が記載されている住所録と 玄関のドアにはさまっていた"M"と印字された紙マッチを回収。 ところが、そんな工作もむなしく、 夫は逮捕され、裁判を受け、数ヵ月後の死刑を宣告されてしまう。 アルバータは住所録のMの蘭に記された4人の人物のなかに 真犯人がいると信じて、単独捜査をはじめるが―― もうね、殺人犯を捜そうってのに無防備すぎてね、 拳銃はおろかナイフの1本も持とうとしないのでね。 ところがぎっちょん、武器は可憐なその容姿で、 次々と男を(図らずも)手玉に取り破滅させていく、 まさに黒い天使と呼ぶにふさわしい女性でね。 つか、最初の"オールウェイズ"とかかっこよすぎ。 通常ならキザったらしくて失笑ものだけど アイリッシュがやるとなんでこうも浸透してくるんだろう。 ひゅう。
Deadline at Dawn 1944「暁の死線」★★★★★
故郷に背をむけて大都会ニョーヨークの虜となった ダンサー稼業の女のまえに、突然姿を現わした風来坊青年。 彼は奇しくも女の故郷の町の隣家の子だった。 その彼はいま殺人の嫌疑に問われている。 潔白を証明するための時間はあと五時間しかない。 深夜のニューヨークに孤独な若い二人の捜査は進む。 『幻の女』と並ぶアイリッシュの代表作。 サスペンスミステリ。 深夜0時50分―― 都会に空耗したダンサーの女ブリッキーの前に、 おどおどと自失した青年クィンが現れた。 彼のふしぎな挙動に興味をおぼえた彼女は、 偶然にも彼が自分と同じ故郷の隣人と知る。 彼女はいっしょに帰郷を提案するが、彼は拒否。 直前に盗みを働いていたので迷惑をかけるからという。 ならばその盗品を返却すればいいと彼女は進言し、 彼もしたがうが、その現場から死体が発見され―― タイムリミットは午前6時。バス出発の時間。 それまでに犯人を暴き、都会の魔の手からの脱出を試みる。 やあ、もう、深夜から夜明けを駆ける活写が極上。 ひたってるだけでスースーしてくるね。クールだ。 著者の魅力を存分に味わえる代表作です。 しかし作中では5時間の物語だけど、もっと経ってるよなぁ(w
The Black Path of Fear 1944「恐怖の冥路」★★★☆☆
道ならぬ恋におち異郷の地ハバナへと逃れた人妻のイヴと 放浪者のビルを待ち受けていたのは、苛酷な運命だった。 二人が足を向けた場末の酒場には危険な罠が仕掛けてあった。 どこからともなく写真師が近寄りフラッシュをたいたとき、 イヴは殺されたのだ。 脇腹に、両手で目をおさえた小猿の柄のナイフを突き刺されて! 証人は大勢いたが、いずれもがビルを犯人と名指していた。 ビルは手錠をふりきり、迷路のような貧民窟へと逃亡した。 見知らぬ土地で、たった一人で、奪われた恋の復讐を誓いつつ…… サスペンスの名手が描く恋と復讐の逃避行! どこかきな臭く乱暴な夫エディーとの結婚生活に嫌気がさしていたイヴは 流れ者のビルと知りあい、恋に落ち、キューバへと船で出奔した。 が、そこにはすでにエディーの刺客が待ちうけていた。 到着して数時間後、混み合ったバーのなかでイヴが刺殺されたのだ。 あ然とたたずむビルに警察は殺人の嫌疑を彼にかける。 最愛の女性を喪ったビルは護送中に逃げだし、 自らの手で無罪を証明し、犯人への復讐を誓うが―― いつものアイリッシュとしかいいようがない(^^; 頼りないヒーローの奮闘がいいんだよね。 およそ救いのない復讐の結末もよい。 あのエディーとの問答はかなりの逆ギレなんですけどね(^^;
Night Has A Thousand Eyes 1945「夜は千の目を持つ」★★★☆☆
星のふる晩、青年刑事ショーンは、川に身を投げようとしている娘を救った。 彼女の父親が死を予言されたというのだ。 予言者は今まで正確きわまりない予言をしてきた謎の人物だという。 父親は実業家であり財産家だった。 犯罪計画の匂いがありはしまいか? ショーンの要請で警察の捜査が開始された。 アイリッシュの真骨頂を示す不朽の名作。 夜。満天の星空。 勤務を終えた青年刑事ショーンは日課である川辺の散歩をしていた。 そこで思いつめたようすの娘を見つけた。 川に飛びこもうとしていると察知し、その直前に保護。 若く美しい令嬢のような彼女がなぜ身投げなどを図ったのか。 一面の星空におびえる彼女ジーンをなだめながら 終夜レストランへ連れてゆき、原因を問いただすショーン。 彼女の口から明かされる物語。 発端はコンソメのただ一滴だった。 落ち着きのないメイドの言葉だった。 ジーンの富豪の父ハーランが旅行で乗る飛行機が危険だと、 そのメイドの知りあいである予言者が告げたらしい。 ばかばかしいとはとりあわなかったが、 はたして飛行機は予言どおり墜落してしまう。 ハーランは奇跡的に運よく難をのがれたが、 ジーンの世界の軸はかたむいてしまった。 ――ラプラスの悪魔は存在するのか? 業を煮やした父娘は予言者のもとへおもむき、 やがてハーランは的中を続ける予言者のとりことなってしまう。 そんなあくる日、ハーランは決定的な予言を聞いてしまう。 "3週間後、ライオンの口で死を迎える"という死の宣告だった。 悲観にくれた父のすがたを見るに絶えず、世界を信用できず、 ジーンは川へ身を投げようとしたのだ。 話を聞きおえたショーンは上司に相談し、 この予言者の身辺を調査することにしたのだが……。 物事の表と裏、夜を照らすような千里眼はありうるのか? ……長いなっ! これミステリじゃないんですよ、ミステリーなんですよ。 なのでロジカルな解決は望まないように。 深く考えず、サスペンスとして文章を味わいましょう。 きれいでしかない冒頭の夜空の描写から、 それにおびえる彼女の星空のとらえかたのみごとなこと。 ただ全体の構成は不満が多い。 とにかく父親がね、なさけない。 そりゃいたたまれないでしょうけど、 娘をあれだけ傷つけて自分にしか目を向けないんだもんな。 (娘の口からながら)おっとこ前に紹介されているのにこのていたらく。 宣告も具体的な日時まであるのに、自宅で過ごさんでも。 警察の独房なり銀行の金庫なりにでも入ってろよと。 金持ちなんだから融通はきくだろうに。 死ぬなら自宅で、なんて願望はたしか描かれてなかったので。 あげく発狂なんてギャグだぜ(w
Waltz into Darkness 1947「暗闇へのワルツ」★★★★☆
ルイスは天にも昇る心地でいた。 通信交際会に紹介されたジュリアという女性との手紙のやりとりが実り、 彼は結婚することになったのだ。 そして今日が、花嫁を乗せた船が着く日だった。 だが、目指すジュリアの姿がない。 狂ったように人ごみを探すルイスを待っていたのは、見も知らぬ、 しかし、楚々たる美女だった! 限りなき転落へのワルツを予告するかのように…… ムードとサスペンスの巨匠が悪女の美しさを措いた野心作 サスペンス。弧を描いて堕ちつづける円舞曲。 ルイスは若いころの苦い経験でいまだ独身の37歳。 その彼が文通で交流した女性ジュリアと結婚することになった。 相手とはまだ一度も対面したことはなく、 写真での姿をたよりに探していたルイスの目の前に現れたのは それとはまったく似つかぬ、若い美女だった。 彼女は外見で判断されるのを憂い、別の写真を送付したのだという。 とまどいながらもルイスは心奪われ、結ばれるのだが……。 梗概だけいえば平凡すぎる作品ですよ。 当然、入れ代わりがなされているし、その後の流れも凡百。 ところがぐいぐい引きこまれるこのムーディーな文章力。 ラブロマンスではB級なのに泣けるんだわこれが(;_;) ※「ポワゾン」のタイトルで映画化されているそうな
Rendezvous in Black 1948「喪服のランデヴー」★★★★☆
旅客機の乗客が心なく落した壜が、 ジョニーの愛する娘の生命を一瞬のうちに奪いさってしまった。 永遠にいやされぬ悲しみを心に秘めて、ジョニーは復讐の鬼となった。 その日その機に乗り合せた男たちの妻や恋人を、 ひとりずつ誘惑し、のこらず殺そうと計画したのだ。 比類なきサスペンスと独得な抒情にみちた傑作 5月31日。ジョニーと待ち合わせをしていた恋人ドロシー、 小型旅客機から投げ捨てられた酒壜が命中し死亡してしまう。 抜け殻となったジョニーはやがてドロシーを死にいたらしめた人間に 自分とおなじ気持ちを味あわせてやろうと復讐を誓う。 標的は旅客機の乗客だった5人の男たち。 それぞれの妻や恋人など、愛する女を誘惑して殺害するのだ。 こうして死のランデヴーがはじまった―― 哀切な、静かな復讐劇、しっくりきますわあ。 これもウールリッチ色にたっぷりひたれます。 シンプル、ストレートでこれだけ魅せられる作家はいないわね。
I Married a Dead Man 1948「死者との結婚」★★★☆☆
一枚の切符、五ドル紙幣、 そしてお腹の中にいる赤ん坊――それがヘレンのすべてだった。 男に捨てれらた傷心を抱き列車に乗った彼女にとって、 前の席で楽しそうに語らう若夫婦と 寄るべもない現在の自分との落差はあまりにも大きかった…… 彼らは親切にしてくれ、ヘレンの心も次第になごんでいった。 だが、列車転覆という思わぬ事故でヘレンの運命は一変した。 不思議な運命の糸に操られた女の辿る物語を流麗な筆致でつづる! 対称的な人物の入れ替わりと、 それにかんづいて生活をおびやかす人物が現れ―― と、ストーリーは上記でわかる単純なもの。 ただそれだけじゃなくアンチミステリになっているのが極上。 タイトルもぴったり。 あとはアイリッシュの特徴である文体のおもしろさですね。 短編作家が一般評価だけれど、私は長編のほうが好き。 やはり長編のほうがぜい肉(無駄)が多い、 その部分がじつにおいしいんだな、この作者の場合(;´Д`) ※本書巻末に著作リスト付き
Into the Night 1987「夜の闇の中へ」★★★★☆
あなたが果たせなかったことを、わたしが成し遂げてみせる…… 拳銃自殺に失敗し、誤って見知らぬ女性を死なせてしまったマデリンは、 その女性、スタアの身代りとなって生きようと誓う。 マデリンはスタアの過去をさぐり始め、彼女が生前に、 自分の人生を破壊した人々への復讐を決意していたことを知る―― サスペンスの詩人が遺した未完原稿を、実力派作家ブロックが補綴。 若い娘の憎悪と情熱、愛と復讐を描く幻の遺作長篇 無目的で空虚な人生と決別するため、 漫然と拳銃自殺を図ったマデリン。 ところが暴発した弾が開け放しの窓を通り抜け、 たまたま歩道を歩いていた女性スタアに命中し、殺害してしまう。 マデリンは罪の意識から、彼女の代りとなって生きようと誓い、 その過去を探察しはじめる。 やがてスタアは自分の人生をめちゃくちゃにした男女―― 元夫と、別れる原因を作った女――に復讐を決意していたことをしる。 その遺志を継ぎ、ふたりへの接触をはじめるマデリンだが……。 アイリッシュ最後の長編。 ローレンス・ブロックが未完の原稿を補綴したもの。 その辺の事情は巻末でネヴィンズJr.がしっかり解説しています。 ひねくれた結末のほうがおもしろいけど、 最後の最後でハッピーエンドってのも捨てがたいっ。最後の最後で兄妹の近親相姦(^^; ああ、しかし、アイリッシュはかっくいいわ。
アイリッシュ短編集1 19??「晩餐後の物語」★★★★☆
戦後のわが国に紹介されたミステリ作家のなかで、 もっとも広く歓迎されたサスペンス・スリラーの第一人者 ウィリアム・アイリッシュの傑作の粋を集めた、待望の短編集。 大都会のなかの人間の孤独、しのびよる死の影の戦慄、 絶望と焦燥にさいなまれる犠牲者等、 常に意表をつく技巧と主題の多様性に加えて、 作者の独壇場ともいうべき哀切な雰囲気描写と緊迫したサスペンスは 永遠に読者を魅了せずにはおかない強烈な磁力を秘めている。 本集には、名作「晩餐後の物語」、 日本を舞台にした「ヨシワラ殺人事件」など8編を収録した。 晩餐後の物語 After Dinner Stories エレベーター事故が発生し、救出を待つ中、 ひとりの男が心臓をピストルで撃たれ死んでいた。 警察は異常心理による自殺とけりをつけるも、 男の父親が事故に居合わせた全員を晩餐会に招待して……。 遺贈 Bequest 「犯罪者の男が運転する車と身分」を ジャックしてしまった犯罪者のてん末。 (冒頭の女と、死体は同一でいいのかな。ならあの記述はシブい) 階下で待ってて Finger o0f Doom (Wait for Me Downstairs) 届け物を運ぶ婚約者に「階下で待ってて」といわれた主人公。 数分で済むはずの用件だったが、戻る気配がなくやきもきし、 ついにしびれをきらしてそのマンションに乗り込むも、 彼女の姿はどこにも見えず、消失してしまった! 金髪ごろし Blonde Beauty Slain 二面記事の金髪美人殺さるをめぐる物語。 構成センスが光りすぎる一作。 射的の名手 Dead Shot 文書偽造の常習犯クリップが告発を代償に依頼された射的。 殺しではなく、召集令状から逃れるために腕を撃てという。 クリップはしかたなく実行するも、 相手は頭蓋を撃たれ即死してしまった。 パニックに襲われた彼は"顔なじみ"の刑事に助けを求めるが―― フーダニットになってるのね。ラストでの関係がいい(^^) 三文作家 Pennie-a-Wonder ある作家が執筆する風景の物語。それだけ。 アイリッシュってこんなのも描くんだなぁ、 モデルが自身だったりしたらショック(w 盛装した死体 The Body of a Well-Dressed Woman フツーの倒叙風ミステリ。やはりタイトルがポイント。 ヨシワラ殺人事件 The Hunted 日本が舞台。遊郭ヨシワラでの殺人事件。 いやはや、外国人がイメージする日本を浮き彫りにした作品(w もうね、これは日本人ならギャグに思えちゃいますよ。 けどやはり興味深く、なんかうれしいのであった。
アイリッシュ短編集2 19??「死の第三ラウンド」
本集には、アイリッシュの特色を遺憾なく発揮した 「消えた花嫁」を筆頭に7編を収録。 ●収録作品 「消えた花嫁」 「墓とダイヤモンド」 「殺人物語」 「死の第三ラウンド」 「検視」 「チャーリーは今夜もいない」 「街では殺人という」
アイリッシュ短編集3 19??「裏窓」★★★☆☆
本巻には、ヒチコックの映画でもおなじみの名作「裏窓」をはじめ、 「死体をかつぐ若者」「踊り子探偵」「殺しの翌朝」、 ファンタジー「いつかきた道」、卓越したアイディアと サスペンスに富むストーリー「じっと見ている目」「帽子」 傑作ショート・ショートの「だれかが電話をかけている」、 そしてアイリッシュには珍しい密室ものの中編「ただならぬ部屋」の9編。 裏窓 It Had to Be Murder(Rear Window) クイーンの定員#097でも選抜。 あっちでも書いたけど、ラストは忘れられない(w 死体をかつぐ若者 The Corpse and the Kid(Boy with Body ; Blind Date) 余命、数ヶ月の父親が不貞の妻を殺害。 父を尊敬している息子は死体処理に奔走するのだが……。 踊り子探偵 Dime a Dance(The Dancing Detective) ダンスホールのダンサーを狙った連続殺人が発生。 ヒロインのダンサーと刑事の捜査の物語。プア・バタフライ。 殺しの翌朝 Murder on My Mind((The) Morning after Murder) ある刑事が担当した殺人事件の話。 既知の感覚がゾワゾワ。 いつかきた道 Guns, Gentlemen(The Lamp of Memory ; Twice Trod Path) ファタシー。 伝統ある家系の少年が自宅屋敷に飾られた絵画の人物に心奪われる。 ことあるごとにその絵画に触れ成長した少年は、 描かれた人物と生き写しになり、導かれるように旅へ出る―― 既知感がゾワゾワ。 じっと見ている目 The Case of the Talking Eyes(Eyes that Watch You ; The Talking Eyes) 全身麻痺の老婆は、息子の妻と愛人がたくらむ息子の殺人計画を知る。 なんとかわが子に知らせようとするも、しゃべることもままならない彼女。 はたして計画は実行されてしまうのだが……。 帽子 The Counterfeit Hat(The Hat ; The Singing Hat) 食堂で帽子のとりちがえにより動き出したニセ札事件。 タイトルになるもキーはにおいだけ>< だれかが電話をかけている Somebody on the Phone ショートショート。妹が自殺に追いやられ、兄は復讐を。 ただならぬ部屋 Mystery in Room 913(The Room with Something Wrong) 中編。ホテルを舞台にした連続自殺事件。 913号室にひとりで泊まった客の飛び降り自殺が多発。 ホテル付きの探偵の主人公は事件性を感じ調査するも不発。 ついにみずから913号室に宿泊してみるのだが―― 分類では密室ものですね。トリックは……うーん(^^;
アイリッシュ短編集4 19??「シルエット」
本巻には9編を収録。 ●収録作品 「毒食わば皿」 「窓の明り」 「青ひげの七人目の妻」 「死の治療椅子」 「殺しのにおいがする」 「秘密」 「パリの一夜」 「シルエット」 「生ける者の墓」
アイリッシュ短編集5 19??「わたしが死んだ夜」★★★☆☆
本巻には、ニューヨークの高架電車を舞台にした傑作 「高架殺人」をはじめ、「わたしが死んだ夜」、 ひとつのリンゴにからまる様々な人間模様を描いた異色作「リンゴひとつ」、 ウェスタン調の異色作「日暮れに処刑の太鼓が鳴る」、 そしてアイリッシュの抒情性をいかんなく発揮した掌編 「死ぬには惜しい日」「妻が消える日」など9編を収録。 高架殺人 のんびり屋の刑事が帰宅中の高架電車内で、 目の前に座っている男が射殺された。 どうやら徐行中に窓の外から撃たれたらしい。 刑事は緊急停車させ、発砲があった現場へと向かうことに。 "緩急"の対比がうまいなぁ。 わたしが死んだ夜 内縁の妻セルマと見知らぬ浮浪者風の男が、 自分を保険金目当てに殺害を計画していることをたまたま知ったクック。 激情に駆られ、クックは男と格闘となり、殺害してしまう。 そこで我に返ったクックにセルマがこの死体をクックに見せかけ、 保険金をせしめようと提案するが……。 アイリッシュっぽくないラストも美味。 リンゴひとつ 宝石店でリンゴに仕掛けていたガラスと宝石を入れ替えた男。 しかし手違いからそのリンゴを手放してしまう。 転がり続けるリンゴとそれを手にするさまざまな人々の物語。 ユーモア色が強い、笑えます。最後の仕事の酷なこと!(w コカイン 失業中で落ちこんでいた男。 顔見知りではあるがだれだかわからない男に連れてこられた ある建物でコカインを吸引し、意識をなくした。 目が覚めると自分の部屋で、 シャツには大量の血が、そばにはナイフが落ちていた。 彼は無意識のうちに殺人を犯してしまったのか? 義兄の刑事とともに昨日の足どりを調査すると―― "幻の男"って感じの導入だった(w 夜があばく 近所で不審火が相つぐ中、夫は妻に漠然としながらも 疑問の目を向ける。彼女が放火魔なのか? 狂気の所在がテクニカル。 葬式 FBIに追われている犯罪者とその妻。 とうとう追い詰められたように見えたが、 包囲網の中から夫はからくも逃げおおせた。その理由は―― まあ、ネタは古典ですな。 日暮れに処刑の太鼓が鳴る 仕事で紛争地帯へと送りこまれたNYの刑事。 探偵術が未発達の地で起きた事件に首を突っこむが……。 なんとも異色作。走れメロス風? 死ぬには惜しい日 自殺を決意した女性、世に決別するため最後の散歩に出るが、 そこでひとりの男性と運命的に出逢い―― 強引というか雑というか(^^; 妻が消える日 ささいなことから喧嘩となった新婚夫婦。 妻はスーツケース片手に実家に帰ってしまうが、 そのまま行方不明になってしまう。 夫は必死になって捜索をはじめるが―― ぶるる、これぞアイリッシュ十八番のスリラーですね。▼BACK▼ ▽TOP▽
アイリッシュ短編集6 19??「ニューヨーク・ブルース」★★★☆☆
本巻には13編を収録。 三時 時計屋の店主が妻の不貞を疑い、 自宅地下に目覚まし時計を利用した時限爆弾を設置。 ところが、仕掛けて逃げだそうとしたところで、 たまたま侵入していた空き巣と鉢合わせてしまい、 猿ぐつわと縄で地下に捕らえられしまう。 刻々と迫る爆発の時。男の運命は? 目前に死を抱く男の心理が秀逸すぎる。 自由の女神事件 自由の女神を見学していた二級刑事。 そこで見知った肥満男が消失する事件が発生する。 いい刑事じゃんね、なんで平なんだろ。 命あるかぎり サディスティックな男と結婚してしまった女性。 知りあった青年と逃避行に出るのだが―― ぶるん、これはなかなかのホラーですぞ(;´Д`) 死の接吻 ギャングの情婦がその主へ復讐を誓った。 ある殺人事件に彼を陥れるため画策するが……。 あのふたり以外に一味がいないのか。もう安全なのか(^^; ニューヨーク・ブルース 成りゆきから恋人を絞殺してしまい、 大都会のホテルにこもる男の物語。 表題作だけあってなんとも象徴(抽象)的な作品。 特別配達 牛乳配達員が配達先で幼児誘拐の犯人一味らしい世帯に遭遇。 彼は大胆な行動に打って出ることに。 馬車での配達といい、そぼくでいいなあ。 となりの死人 配達される牛乳を盗まれ続け、怒り心頭に発した男。 ついに待ち伏せにより現行犯でひっ捕らえたが、 勢いあまって相手を殺害してしまう。 あわてて死体を空き室だったアパートの部屋に隠すが、 露顕をおそれ戦々恐々とする日々が続き……。 この手の主人公ではどうもしらけるな。 ガムは知っていた ホテルの一室で起こった殺人。 犯人はある工作で別人に罪をなすりつけるが、 勤務中にガムを噛む悪癖のあるメイドが命とりに―― 冬緑油。ウインターグリーンオイル。 シラタマノキなどの果実を蒸留してとる香油。 サリチル酸メチルを多量に含み、香料や薬用にする。 借り 刑事の愛娘が事故で溺れ死にかけたとき、 救出したのは逃亡中の殺人犯だった! やがてふたりは対峙することに……。 結びがかっこいいなあ。ひゅう。 目覚めずして死なば キャンディーを餌に女児を誘拐する事件が連続発生。 刑事の息子の少年は同級生がその事件に巻きこまれたとしり、 耳をかたむけない大人に頼らず救出に向かうことに。 またキャンディーが妙においしそうにみえること。 さらばニューヨーク 貧窮に屈し強盗殺人に手を染めた夫とともに、 ニューヨークから逃亡を試みる妻の一話。 あれぇ、奥さんの誤解じゃないのか(´・ω・`) ハミング・バード帰る 盲目の母を持つ息子が強盗殺人犯となって帰ってきた。 母は最愛の子をまっすぐの道に行かすために―― 好意的に受けとっていいんだよな……? 送って行くよ、キャスリーン 前科者の男がかつての恋人を見納めしに逢いに行った晩、 なりゆきから彼女をその家まで送ることになった。 その道中の森で彼女が姿を消し、やがて惨殺体で発見された。 当然、送っていた男に疑いの目が向けられるが……。 シリーズになってもよさそうな探偵だなぁ。