フョードル・ドストエフスキー
(Fyodor Mikhailovich Dostoevskii)

1821.11.11〜1881.2.9
ロシア文学を代表する世界的巨匠。
父はモスクワの慈善病院の医師。
1846年、処女作「貧しき人びと」が絶賛を受けるが、
1849年、空想的社会主義に関係して逮捕され、シベリアに流刑。
出獄後、「死の家の記録」等で作家業に復帰。
1861年、農奴解放前後の過渡的矛盾の只中にあって、
鋭い直観で時代状況の本質を捉え、代表作を次々に発表。
19世紀後半の無神論的風潮の中で、
神の問題を中心に人間存在の根本問題を独自の対話的方法で検討し、
20世紀文学に大きな可能性を開示した。

Фёдор Михайлович Достоевский

超参考
著作リスト
年度 邦題(原題) 備考
1841 マリア・ステュアルト
ボリス・ゴドゥノフ
どちらも現存せず
1846 貧しき人びと
分身(Двойник)
プロハルチン氏
剃り落とされた頬髯
廃止された役所の話
下の2作品は現存せず
1847 九通の手紙にもられた小説
ペテルブルグ年代記
家主の妻
1848 他人の妻
弱い心
ポルズンコフ
世なれた男の話
クリスマス・ツリーと結婚式
(Елка и свадьба)
白夜
嫉妬ぶかい夫(Честный вор)
「世なれた男の話」→
「正直な泥棒」に補完

「他人の妻」+「嫉妬ぶかい夫」→「他人の妻とベッドの下の夫」
1849 ネートチカ・ネズワーノワ
(Неточка Незванова)
1857 小英雄
1859 伯父様の夢(Дядюшкин сон)
ステパンチコヴォ村とその住人
(Село Степанчиково и его обитатели)
1860 死の家の記録
1861 虐げられた人びと
ペテルブルグの夢―詩と散文
1862 いまわしい話
(Скверный анекдот)
1863 冬に記す夏の印象
1864 地下室の手記
1865 未完
1866 罪と罰
賭博者
1868 白痴
1869 大いなる罪人の生涯
1870 永遠の夫
1871 悪霊
1875 未成年
1876 やさしい女
1880 カラマーゾフの兄弟
作家の日記
(Дневник писателя)
収録短編
ボボーク(1873),キリストのもみの木祭りに行った男の子,百姓マレイ,百歳の老婆(1876),おかしな人間の夢(1877)
    Бедные люди
1846貧しき人びと★★★☆☆

世間から侮蔑の目で見られている 小心で善良な小役人マカール・ジェーヴシキンと 薄幸の乙女ワーレンカの不幸な恋を描いた処女作。 うだつが上がらない役人マカール(50歳くらい)と 若くして両親を亡くし貧窮するワーレンカ(20歳くらい)、 ふたりの往復書簡でつづられるささやかな物語。 貧しさから生じる、孤独、屈辱、卑屈さ、 それに屈しないよう自負心を持とうと葛藤するさまを写実。 父娘の愛情のようであり、そうでもなさそうな関係がいいね。 先行き不明のクライマックスに煩悶します(w 処女作でありながら習作の域をとびこえている巨人の第一歩。
    Белые ночи
1848白夜★★★☆☆

ドストエフスキーには苛酷な眼で人間性の本性を凝視する一方、 感傷的夢想家の一面がある。 ペテルブルクに住む貧しいインテリ青年の孤独と空想の生活に、 白夜の神秘に包まれたひとりの少女が姿を現わし、 夢のような淡い恋心が芽生え始める頃 この幻はもろくもくずれ去ってしまう。 1848年に発表の愛すべき短編である。 都会で孤独に暮らしている26歳の夢想家の青年。 盲目の祖母とふたりで暮らしてる17歳の少女。 ある夜、ふとしたきっかけで出逢ったふたり。 青年はほのかな恋心を寄せるが、 少女ナースチェンカには一年間想い続ける待ち人がいた。 夜毎に奇妙な友愛をはぐくむうたかたの物語。 100ページちょいの短い長編。 2つの副題―― "感傷的ロマン" "ある夢想家の思い出より" ――でモチーフが伝わってきます。 こういう暗くないのも描けるんですね(w (いや、鬱系といえばそうなんだけどさ^^;)
    Записки из мёртвого дома
1860死の家の記録

思想犯として逮捕され、死刑を宣告されながら、 刑の執行直前に恩赦によりシベリア流刑に処せられた著者の、 四年間にわたる貴重な獄中の体験と見聞の記録。 地獄さながらの獄内の生活、悽惨目を覆う笞刑、 野獣的な状態に陥った犯罪者の心理などを、 深く鋭い観察と正確な描写によって芸術的に再現、 苦悩をテーマとする芸術家の成熟を示し、 ドストエフスキーの名を世界的にした作品。
    Униженные и оскорбленные
1861虐げられた人びと

民主主義的理想を掲げたえず軽薄な言動をとっては弁明し、 結果として残酷な事態を招来しながら、 誰にも憎まれない青年アリョーシャと、 傷つきやすい清純な娘ナターシャの悲恋を中心に、 農奴解放を迎え本格的なブルジョア社会へ移行しようとしていた ロシアの混乱の時代における虐げられた人びとの姿を描く。 人道主義を基調とし、文豪の限りなく優しい心情を吐露した抒情溢れる傑作。
    Записки из подполья
1864地下室の手記★★★★★

極端な自意識過剰から一般社会との関係を絶ち、 地下の小世界に閉じこもった小官吏の独白を通して、 理性による社会改造の可能性を否定し、 人間の本性は非合理的なものであることを主張する。 人間の行動と無為を規定する黒い実存の流れを見つめた本書は、 初期の人道主義的作品から後期の大作群への転換点をなし、 ジッドによって「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」と評された。 思わぬ遺産が飛びこみ、さっさと役所仕事から退き、 地下室で手記をしたためるひきこもりの40男。 第一部は社会の摂理への反抗心から生まれる厭世・人生観の独白。 苦痛を快感するなど主張を荒誕と笑っていいのか感心していいのか。 第二部は友人(?)の送別会から娼婦、召使との対決(!)。 アンチ・ヒーローの全特徴の寄せ集め、 ヘタレっぷりが最高におもしろいです。 単なるへ理屈、遠吠えとは切り捨てられない重みはすごいの一言。 自意識過剰から生じる劣等感、彼が忌み嫌うものは 己が抱える弱さにほかならないのかもしれません。
    Преступление и наказание
1866罪と罰★★★★★

頭はいいが貧しい大学生ラスコーリニコフは、 悪辣な高利貸しの老婆を殺害し、 その財産を有意義なことに使おうと企てるが、偶然その妹まで殺してしまう。 罪の意識と不安に駆られた彼は、 自己犠牲に徹する娼婦ソーニャの生き方に打たれ、 ついに自らを法の手にゆだねる――。 昔読んだ初ドスト。 重厚で堅苦しいんだろうなー、と思いきや読みやすさに感激。 倒錯ミステリっぽい展開も琴線に触れ一気読み。 錯誤的な部分も当然ありますが、不変の含意が込められてるのも道理。 しっかしロシアの人名は馴染みにくい(^^;
    Игрок
1866賭博者

ドイツのある観光地に滞在する将軍家の家庭教師をしながら、 ルーレットの魅力にとりつかれ身を滅ぼしてゆく青年を通して、 ロシア人に特有な病的性格を浮彫りにする。 ドストエフスキーは、本書に描かれたのとほぼ同一の体験をしており、 己れ自身の体験に裏打ちされた叙述は、人間の深層心理を鋭く照射し、 ドストエフスキーの全著作の中でも特異な位置を占める作品である。
    Идиот
1868白痴★★★★★

スイスの精神療養所で成人したムイシュキン公爵は、 ロシアの現実についで何の知識も持たずに故郷に帰ってくる。 純真で無垢な心を持った公爵は、すべての人から愛され、 彼らの魂をゆさぶるが、ロシア的因習のなかにある人々は、 そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。 この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない 美貌の女性ナスターシャをめぐってさらに深まっていく。 まれに癲癇発作を起こすため、 スイスで白痴療法を受けていたムイシュキン公爵が帰国した。 ナスターシャとの運命の出会いはその直後におとずれた。 多彩で独創的、とっぴな振舞いで注目を浴びる彼女。 そのはげしいまでの気性と美貌に公爵は一目で心をうばわれた。 しかし彼女には暗い過去があり、いまも心にその影を落としていた―― 人のいい無邪気さゆえ白痴(ばか)呼ばわりもされる公爵だが、 人々はその感化力に影響され、さまざまな衝突に発展する。 無条件に美しい人間、完全に美しい人間を描くことに挑戦した作品。 公爵とナスターシャの恋愛物語。 というと安っぽく聞こえるほどのこの重厚さはなんなの。 主人公のふたりはもちろん、各登場人物たちが活きすぎ。 エンタメ、サスペンス性にまで富んでいてなんと巨大な作品なんだろう。 聖者と白痴の対照、ただただ圧巻です。
    Вечный Муж
1870永遠の夫

生涯ただただ“夫”であるにすぎない男、 妻はつぎつぎに愛人を替えていくのに、 その妻にしがみついているしか能のない“永遠の夫”の物語。 ある深夜、ヴェリチャーニノフは、 帽子に喪章をつけたトルソーツキーの訪問を受け、 かつて関係のあった彼の妻の死を告げられる。 ……屈辱に甘んじながら演じられる男の不可解な言動、 卑屈さと根強い復讐心に揺れ動く深層心理を照射した名編。
    Бесы
1871悪霊

1861年の農奴解放令によっていっさいの旧価値が崩壊し、 動揺と混乱を深める過渡期ロシア。 青年たちは、無政府主義や無神論に走り秘密結社を組織して ロシア社会の転覆を企てる。 ――聖書に、悪霊に憑かれた豚の群れが 湖に飛び込んで溺死するという記述があるが、 本書は、無神論的革命思想を悪霊に見たて、 それに憑かれた人々とその破滅を、実在の事件をもとに描いたものである。
    Подросток
1975未成年

富豪となり、権力を得ることによって 自由を求めようとする私生児アルカジー・ドルゴルーキー、 信仰と不信、西欧とロシア、地上的な恋情と天上的愛に引き裂かれ、 そのような自我の分裂を、「万人のための世界苦」に 悩まなければならないロシア知識人の宿命と見る、 実父ヴェルシーロフ――この分裂した人間像に、 アルカジーの戸籍上の父である巡礼マカール老人の 神を信じる素朴な精神が対置される。 ドストエフスキー後期五大長編の一作。
    Братья Карамазовы
1880カラマーゾフの兄弟★★★★★

父親フョードル・カラマーゾフは、 圧倒的に粗野で精力的、好色きわまりない男だ。 ミーチャ、イワン、アリョーシャの3人兄弟が家に戻り、 その父親とともに妖艶な美人をめぐって繰り広げる葛藤。 アリョーシャは、慈愛あふれるゾシマ長老に救いを求めるが…。 物欲と色欲に憑かれた道化者のフョードル・カラマーゾフ。 その長男で放蕩な熱血漢ミーチャ(ドミートリー)。 その次男で冷徹なインテリゲンチアのイワン。 その三男で誰からも愛される敬虔なアリョーシャ(アレクセイ)。 フョードルの私生児と噂される下男のスメルジャコフ。 やがてそれぞれの愛憎が絡みあい紡ぎだされる殺人悲劇。 大文豪が人類に贈る最後の作品。 光文社古典新訳文庫版(全5巻)を読む。 読みやすさにこだわっているだけあってすいすい進みます。 ロシア人名はややこしいですからね、思い切った統一がいい。 翻訳、解説、解題、著者の伝記と、 亀山郁夫氏がすばらしい仕事をしています。死角なし。 殺人、犯人、罪業、ミステリの要素も美味しすぎる。 主題の父殺しをめぐる操りや解釈の重厚なこと。 すべての登場人物が緻密に働くさまに圧倒されます。 幻となった続編の"第二の小説"がとても惜しいですね。
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