#001〜028

#029〜082

#083〜106

#107〜125
画像クリックでショートカット☆   (C)光文社
Queen's Quorum 1951 

「クイーンの定員 T」各務三郎編 (光文社)
序にかえて エラリー・クイーン

クイーンの定員は、1845年以降、このジャンルにおいて刊行された
もっとも重要な106冊(1967年までの補遺をふくめて125冊)の
個人短編集を通して見た、探偵=犯罪=ミステリの短編小説の小史です。
選定の基準、資格は、

 =歴史的重要性(Historical Significance)
 =文体とプロットの独創性における質的価値(Quality)
 =初版の稀覯本としての希少価値(Rarity)
  それほどかけねなしの希少価値はないが、入手困難な本には、
 Rのかわりに(Scarcity)の記号を付すことにした。

の4つの観点。
クイーンが生涯の半分を費やして研究した努力の結晶。
ただし、未訳抄訳が多いうえ、原書でもレアなケースがままあり、
入手・読破するのは非常に困難。しょんぼり。

そもそもダイジェスト版ともいえる本書(T〜W)からして絶版です。
でも、これは楽天などで落とせますのでー。
ディスプレイで読み続けるのはつかれますけどね('A`)


1 黎明期――The Incunabular Period


ミステリの起源は旧約聖書のカインとアベルの物語に置くのが通説だが、
それには謎も探偵もなかった。
しかし、聖書外典に登場するダニエルは、
「ベルと竜」において、神殿に灰を撒いて司祭らの罪をあばいた。
また「スザンナ」で巧妙な反対尋問によって
長老たちの虚言を立証し、無実の女を救った。
このために今日でもホームズが名探偵の別称であるように、
ダニエルも名裁判官の代名詞とされている。

古代ギリシャにおいては"歴史の父"ヘロドトスの『歴史』中の
「ランプシニタス王の宝庫」で、泥棒(犯人)と王(探偵)の対決がみられる。
古代ローマ詩人ベルギリウスは叙事詩『アエネイス』で、
英雄ヘラクレスに偽りの足跡を見破らせた。

中世文学における犯罪の解明は、ボッカチオの『デカメロン』、
チョーサーの『カンタベリー物語』その他にみられるが、
十八世紀文学のなかで、
探偵小説は犯罪学の幼年期から声がわりして分析型青年期に入った。
『千夜一夜物語』に探偵小説の思春期的徴候が各所にみられる。

近代的な探偵活動は、啓蒙思想家で文学者でもあった
ヴォルテールの『ザディグ』(1747)から始まったと言うべきだろう。
ユーフラテス河畔の賢人ザディグは、
国王の名馬と王妃のスパニエル犬を発見し、己れの無実をみごとな洞察力で示した。
ザディグは、デュパン、ホームズその他の真の祖先といえるのである。


[ 定員#番外「ザディグ」Zadig ou la Destinee(1747) ]より
  ヴォルテール

  王妃の犬と国王の馬 
   The Dog and the Horse

ある日、ザディグが森の近くを歩いていると、
王妃に仕える宦官長が駆け寄って着てたずねた。
「お若い方、王妃様の犬を見かけなかったか?」
ザディグは犬の特徴を言い当てるも、
これまで見かけたことすらなかったという。
さらに同時刻、今度は国王の馬が逃げ出し、
同様の質問を受けたザディグは同様に答える。
彼はあやしまれ、盗みを働いたと勘ぐられ、捕まってしまう。
そして、裁判のなかで彼はなぜ特徴を知り得たかを説明するが――

寓話ミステリとでもいいましょうか。
系統としてはホームズのそれですね、組み立て方が。
しかしオチが見事だなぁ、爆笑しちゃいましたよ(w
番外とはいえ最古のミステリ、高評価もなっとくです。


2 始祖――The Founding Father


『ザディグ』から約一世紀、探偵小説は発育がストップしたままだったが、
ウィリアム・リジェットは1827年に短編「ライフル」The Rifleを発表し、
ヴォルテールからポーへの橋渡し役を果たした。
トマス・ギャスピー、ユージェーヌ・ヴィドック、ナサニエル・ホーソーンなどの
作品でミステリは着実に成長をとげていた。
やがて、わたしたちは探偵小説の最初の重要な本に出会うことになる。
最初にして最高、すべての読者や収集家を案内するうえでの里程標中の里程標、
傑作中の傑作、ポーの短編集『物語』Talesである。


[ 定員#001「物語」Tales(1854) より
  エドガー・A・ポー

  盗まれた手紙
   The Purloined letter

「モルグ街の殺人」「マリー・ロジェの謎」後の
オーギュスト・デュパンの有名すぎる事件。
冒頭の警視総監とのやりとりがいいなあ。
事件は単純ながらデュパンの前置きの長いこと!
ヴァンスばりです(w
犯人のトリックを探偵が利用する
事件の解決の仕方も洒落てますねぇ。
ミステリがなかった時代のミステリってだけでぞくぞくきます。

〈前人未到の惑星に世界最初の一人前の
 探偵C・オーギュスト・デュパンを連れてきた〉
とクイーンも絶賛。

なお、本書Talesは、ジャケットのついた本物の第一版第一刷は
なんとこの世に五部しか存在しないとか。


3 最初の五十年――The First Fifty Years


ポーの文学的な発見は、約20年間無視されたが、英国では根づきはじめていた。
1850年にディケンズは、私服警官の体験をもとにした四編の記事を書いた。
これに刺激された作家たちは、いかがわしい警官の回想録を吐きだしたが、
今日ではほとんど忘れ去られている。


[ 定員#002「ある刑事の回想録」
  Recollections of a detective Police-Officer(1856) 
  ウォーターズ(ウィリアム・ラッセル)

「事実は小説より奇なり」を実証せしめた警官の手柄話集。

[ 定員#003「ハートの女王」The Queen of Hearts(1859) より
  ウィルキー・コリンズ

  人を呪わば
   The Biter Bit

「月長石」の著者です。「ハートの女王」は三巻本で出版。

文房具店での200ポンド盗難事件。
あるコネから刑事部に加わる機会を得たマシュー・シャーピン。
野心と自信満々のうぬぼれ屋の彼がこの事件の担当に。

こいつがあきれるほどの自信家でおもしろい。
書状のやりとりで展開するユニークな作品。
喜劇を導入した初のミステリといえましょう。

[ 定員#004「追いつめられて」Hunted Down(1860) 
  チャールズ・ディケンズ

流刑地タスマニアで歿した毒殺魔トマス・ウェーンライトがモデル。
ディケンズのミステリ貢献度では最たるもの。

[ 定員#005「ある女刑事の経験」
  The Experiences of a Lady Detective(1861) 
  匿名

女探偵で中年未亡人パスカルの物語集。
クイーン自身も目にしてないとか!
最初の女探偵のイヴの存在を知り、定員に加入か。

[ 定員#006「狂乱」Out of His Head(1862) より
  トマス・B・オルドリッチ

  舞姫
   The Danseuse

著名な舞踏手メアリー・ウェアは、
いとこ――ジュリアス・ケネス主任機械技師――の婚約者がいたものの、
愛人――キング中尉――があるとの噂がたっていた。
そんなある日、彼女は密室状態の自分の部屋で咽喉を切られ死んでいた。
すぐに犯人は自首してきたのだが……。
こんなイっちゃった犯人(?)って現代をしても貴重です(w

ポーの影響を受けた物語構成で、探偵はポール・リンド。
ポー以後17年で2番目の米作家の探偵小説が単行本として出版された。
探偵=犯人ミステリの走りか。

[ 定員#007「世にも名高いキャラヴェラス郡の跳び蛙」
  The Celebrated Jumping Frog of Calaveras County(1867) より

  世にも名高いキャラヴェラス郡の跳び蛙 マーク・トウェイン
   The Celebrated Jumping Frog of Colaveras Country

人捜しでおとずれた居酒屋で出会ったウィーラー爺さんの
口から語られる、ある賭博師のエピソード。
動物たちを使ったネタが笑いを誘います。
意義は、ピカレスク、倒叙のきっかけ、とのこと。
本書は剛直な南部ホラ話その他が収録された24編。

[ 定員#008「バチニョルの小男」
  Le Petit Vieux des Batignolles
  (The Little Old Man of Batignolles)(1876) より
  エミール・ガボリオ

  バチニョルの小男
   The Little Old man old Batignolles

新聞社の編集部に黒ずくめの男が原稿を持ち込む。
名義はJ・B・カジミイル・ゴオドユイル。
その原稿はある殺人事件を扱ったものだった。
審査担当者は絶賛し、さっそく連載を開始しようとするが、
作者の住居は不明。あらゆる手段を講じるも名乗りをあげず、
最後の手段と広告ビラをまくと、ついにひょっこりと現れた。
そして彼の原稿が挿入されます。

なんか意味深長な序盤だけど、ほとんど意味はない(^^;
事件は資産家の老人の殺人。
彼は甥の名前と思われる血文字を残しており、
甥は容疑を受け、あっさり犯行を認めてしまうが……。
ダイイング・メッセージですね。系図ではほぼ元祖?

メシネ探偵が登場する表題作、警官ルティボー(愛称マグロワール親方)が
登場する「失踪」など6編を収録した短編集。

[ 定員#009「追いつめられて」Brought to Bay(1878) 
  ジェームズ・マガヴァン

ウィリアム・C・ハニマンがマガヴァン名義で発表した
マガヴァン探偵ものの短編集。
正式には「Brought to Bay : or, Experiences of a City Detective」
同じ主人公ものの短編集「Huned Down」も同年に出版されている。

[ 定員#010「刑事の小品」Detective Sketches(1881) 
  ニューヨークのある刑事

アメリカにおける1860〜1928年は、ダイム・ノヴェル時代。
その間、じつに6000以上の探偵もののダイム・ノヴェルが出版されたが、
短編集は20を切っている。本書はその最も初期に発行された。

[ 定員#011「新アラビア夜話」New Arabian Nights(1882) より
  ロバート・ルイス・スティーヴンスン

  クリーム・パイを持った若い男の話
   Story of the Young Man with the Cream Tarts

ボヘミアのフロリゼル王子と腹心の主馬官ジェラルディーン大佐。
ふたりは変装し、しばしば城の目を盗んで夜の散歩にくりだしていた。
そんなある日、酒場でクリーム・パイを配り回る変な青年に出会う。
興味を持った王子は彼に接近し夕食を共にする。
そこで青年から語られる"自殺クラブ"の存在を知り、
その会合への参加を決めるのだが――

これはホラーというべきじゃないかな。
ちなみに物語としては未完で、「医者とサラトーガ・トランクの話」
「二輪馬車の冒険」に続く三連作だそうな(^^;
本書は二巻本の、フロリゼル王子の冒険物語集。
ファンタジー、ロマンスをミステリに融合させた。

[ 定員#012「女か虎か」The Lady, or the Tiger?(1884) 
  フランク・R・ストックトン

リドル・ストーリーの代表格「女か虎か」など、12編を収録。
「この作品の中には探偵はいない。
 しかし作品の外には無数の探偵がいる」(クイーン)

[ 定員#013「フライング・スコッツマンの冒険」
  My Adventure in the Flying Scotsman(1888) 
  イーデン・フィルポッツ

鉄道テーマの短編集。ベターなメロドラマぞろい?

[ 定員#014「追跡」The Man-Hunter(1888) 
  ディック・ドノヴァン

陰の作者ジョイス・エマースン・プレストン・マドックの
ドノヴァンものの歴史的重要性のみが認められる第一短編集。


4 ドイルの十年――The Doyle Decade


『緋色の研究』(コナン・ドイル)は1887年に発表されたが、
オスカー・ワイルドの鋭い警句と同様に評価すべき
『アーサー・サヴィル卿の犯罪およびその他の物語』(1891)を忘れてはならない。


[ 定員#015「ビッグ・ボウの殺人」The Big Bow Mystery(1892) 
  イスラエル・ザングウィル

このボウ街で発生した大事件(ビッグ・ミステリー)は
「世界で初めて、充分に考えぬかれた〈密室(ロックド・ルーム)〉」(クイーン)

[ 定員#016「シャーロック・ホームズの冒険」
  The Adventure of Sherlock Holmes(1892) より
  A・コナン・ドイル

  赤毛連盟
   The Red Headed League

ある新聞広告が世間をにぎやかしていた。
その広告主は赤毛連盟という団体で、
欠員が出たためメンバーの募集をするとのこと。
資格はただ赤毛であればいい。
赤毛で質屋のジェイベズ・ウィルスンは
だめもとで面接に行ったが、なんと合格。
与えられた短時間の仕事で高収入を約束される。
そんなおいしい生活が続いたが、
ある日、赤毛連盟の事務所は跡形もなくなってしまっていた。
その調査依頼するため彼はホームズのもとをおとずれる。

これ、読むの何度目だろう(w
やはりなぜ赤毛なのかが魅力ですね。
江戸川乱歩は、
「盗まれた手紙」(ポー)、「健忘症連盟」(バー)、「赤毛連盟」(ドイル)
を奇妙な味のベスト3にあげた。

「デュパンが純然たる理知であり、
 ルコックが純然たる活力であるとすれば、
 ホームズは活力を支配する理知である」
はフランク・チャンドラーの言。

[ 定員#017「ある医師の日記からの物語」
  Stories from the Diary of a Doctor(1894) 
  L・T・ミード&クリフォード・ハリファックス博士

元祖ともくされるイギリスにおける医学ミステリのはしり。
アメリカでは「ウィリアム・A・ハモンドとその娘クララ・ランザの
手になる『奇矯なる人生の物語』(1886)に収められた数編は、
イギリスの〈医学ミステリー〉にまる8年も先んじている」(クイーン)

[ 定員#018「探偵マーティン・ヒューイット」
  Martin Hewitt, Investigator(1894) より
  アーサー・モリスン

  サミー・スロケットの失踪
   The Loss of Sammy Throckett

法律と統計の知識にめぐまれた弁護士あがりのヒューイット探偵譚。

探偵マーティン・ヒューイットは
スポーツの盛んな小さな町で
居酒屋の主人ケンティシュと知り合い、
スポーツの話で意気投合する。
あくる日、彼は135ヤード・ハンデキャップ・レースの
決勝ラウンドについての賭けを持ちかける。
彼一押しの選手の名前はサミー・スロケット。
――翌日。
いつもの練習のさなか、サミーは忽然と姿を消してしまった!
マーティンは捜査を開始し、途中で消えた足跡と
破り捨てられた手紙の破片を見つけるが――

ううん、きれいに伏線も回収されていているけど、普通(w

[ 定員#019「ザレズキー公爵」Prince Zaleski(1895) 
  M・P・シール

「オーヴンの一族」「エドマンズベリー僧院の宝石」「S・S」の
三編を収録した『ザレスキー公爵』もの。
イギリスに亡命したロシア貴族が自らを怪奇の世界に置き、
安楽椅子探偵役をつとめる。

[ 定員#020「ランドルフ・メイスンの奇妙な企み」
  The Strange Schemes of Randolph Mason(1896) より
  メルヴィル・D・ポースト

  罪の本体
   The Corpus Delicti

弁護士ランドルフ・メイスンは大豪傑。
"ザノナの再来"という綽名を奉られる。
そんな彼が手がけるある事件の話。

これはあまりつっこみませんが、法の穴をついた、
かなり異色の(アンチ)法廷ミステリです。
100年前とはいえ証明できないものなのか……。
なにかしら痕跡残りそうだけどねえ、おえぇ(;´Д`)

ミステリで初めて悪徳弁護士が登場した記念すべき短編集で、
「当時としてはショッキングで、非正統的な小説の主人公」は
「重要かつ歴史的意義のある改革だった」(クイーン)
ただ当時は非難がひどく、メイスンものちに正義の人になったそうな。

[ 定員#021「アフリカの百万長者」
  An African Millionaire(1897) より
  グラント・アレン

  ダイヤのカフスボタン
   The Episode of the Diamond Links

粘土のように顔の造作が変えられる
元蝋人形師の詐欺師の物語1ダース収録。

チャールズ卿と妻アメリア、
卿の妹イザベルとその夫シーモア・ウェントワースの
二組の夫婦がスイス旅行へ行くことに。
そんな旅先の食堂で、
過去に投機話でいっぱい食わされた男らしき人物と
気持ちのいい若いブラバゾン牧師夫妻に出会う。
数日後、牧師のダイヤのカフスボタンに目をとめたアメリア。
さっそくアメリアと卿は買収に乗り出すが、
牧師はペイスト(模造品)で形見だと言い張り、拒否するのだが――

一種のコン・ゲームながら、できはどうだろう……。
頭脳派の最初の大悪人はクレイ大佐、とクイーン。

[ 定員#022「女探偵ドーカス・ディーン」
  Dorcas Dene, detective(1897) 
  ジョージ・R・シムズ

元大部屋女優で、失明した夫に代わって
女性職業探偵の道を選んだドーカス・ディーンものの短編集。

クイーンは初期の女探偵ものの短編集として、
C・L・パーキスの「淑女ラヴデイ・ブルックの体験
The Expriences of Loveday Brook, Lady Detective(1894)」もあげている。

[ 定員#023「経験型探偵ポール・ベック」
  Paul Beck, The Rule of Thumb Detective(1898) より
  M・マクダネル・ボドキン

  代理殺人
   The Murder by Proxy

若く快活なエリック・ネヴィルが伯父宅の庭園で
年老いた庭師と桃をかじっているとき、銃声が響きわたった。
どうやら伯父の部屋から聞こえたようで、
ふたりは仰天しながらその部屋へかけつける。
そこにはすでに息絶えた伯父と、
いとこのジョン・ネヴィルがたたずんでいた。
彼は自殺ではなく殺人で、犯人は見なかったが
窓から逃げたのだろうというものの、
窓からだれも出てこなかったのはふたりが見ていた。
犯人はどこへ消えたのか?
ジョンは探偵ポール・ベックの出馬を要請。

トリックは金魚ばちでも有名な集光レンズ、いろいろ無理あるな(w
探偵の最後のセリフはいいね。
「そしてきみは太陽を共犯者に仕立てたのだ!」

作者は淑女探偵ドーラ・マール(Dora Myrl, The Lady Detective 1900)を
創造し、The Capture of Paul Beck 1909 で
二人の男女探偵を競演させ、婚約させる。
さらに Young Beck 1911 では、息子ポール・ベックを探偵として活躍。

[ 定員#024「決定的証拠」Final Proof(1898) 
  ロドリゲス・オットレンギ

プロの探偵ジャック・バーンズに
富豪の友人であるアマ探偵ロバート・リロイ・ミッチェルを配した短編集。
作者はミステリでは芽が出ず、歯医者として有名に。

[ 定員#025「探偵の美しき隣人」
  The Detective's Pretty Neighbor(1899) より
  ニコラス・カーター

  ディキンスン夫人の謎
   The Mystery of Mrs.Dickinson

探偵ニック・カーターのもとにある事件の助言を求め、
宝石屋を経営する三人の男がやってきた。
その事件とは、ジョージ・ディキンスンの妻に関するもの。
彼は大事な取引相手で、富豪ながら骨董品屋を道楽にする老年。
その若く美しい妻エルシーは盗癖があり、
彼らの店から宝石を何度も万引きしたという。
スキャンダルをきらい、内々に処理するため
ニックに白羽の矢を立てたのだが……。

シンプルね。テンポのよさと探偵のクールさがすてき。
ニック(ニコラス)・カーターは代表的アメリカン・ヒーローとか。

[ 定員#026「怪盗紳士ラッフルズ」
  The Amateur Cracksman(1899) より
  E・W・ホーナング

  ラッフルズと紫のダイヤ
   A Costume Piece

野獣のような容姿と性格を持った男ルーベン・ローゼンタール。
彼はダイヤモンド鉱区で一山当て、ロンドンに帰国。
あくる日、ルーベンは大晩餐会を催した。
その宴会のスピーチでさんざん自画自賛したあと、
シャツの胸と小指につけた、
5万ポンドはくだらない紫のダイヤの自慢をする。
出席していたA・J・ラッフルズも目を奪われ、
怪盗の血が騒ぎ、後日、相棒で作家のバニー・マンダースに相談。
さっそく盗みに挑戦するが――

ラッフルズ、ちゃんと相棒を選んだほうがいいですよ(w

[ 定員#027「七人の王の兄弟愛」
  The Brotherhood of the Seven Kings(1899) 
  L・T・ミード&ロバート・ユースタス

邪悪な秘密結社の女ボス、マダム・コルチーの
様々な犯罪を扱った10編の連作短編集。
好敵手に科学者探偵ノーマンが配されている。

のちにコルチーを上まわる女犯罪者マダム・サラを
短編集「The Sorceress of the Strand (1903)」で登場させた。

[ 定員#028「あるジャーナリストの冒険」
  The Adventures of a Journalist(1900) 
  ハーバート・キャデット

本短編集(11編)のべヴァリー・グレットンが、
ミステリ史上、最も早く登場した男性ジャーナリスト(クイーン)
身許確認に指紋を利用しているのも元祖に近い、のか?
Queen's Quorum 1951 

「クイーンの定員 U」各務三郎編 (光文社)
5 第一期黄金時代――The First Golden Era


[ 定員#029「霧の夜」In the Fog(1901) 
  リチャード・ハーディング・デイヴィス

「この記憶さるべき本は、たがいに関連のある二編の物語を収録しており、
 アングロ=アメリカン風の語り口の完璧なカクテルの典型」(クイーン)

[ 定員#030「ロムニー・プリングルの冒険」
  The Adventures of Romney Pringle(1902) より
  クリフォード・アッシュダウン

    外務省公文書 
      The Foreign Office Despatch

R・オースチン・フリーマンと
刑務所医ジョン・ジェームズ・ピトケアン博士の共同ペンネーム。

ロムニー・プリングルはクラブのカジノで、
ルーレットで持ち金を摩り、
やけ酒を呷っていた外務省に勤めるレドマイル青年と知り合う。
これがやがて国をゆるがす文書偽造事件に発展し――
とんでもなくはた迷惑なギャンブラーね(^^ヾ

ラッフルズの系譜にある快盗紳士プリングルの仮の姿は裕福な文芸代理人。
カッセルズ・マガジンに登場した(1902〜03)ホームズのライヴァルの一人。
同短編集は『外務省公文書』など五編を収録。

[ 定員#031「濃縮された長編集2」
  Condensed Novels (second series)(1902) 
  ブレット・ハート

有名な読物作家の長編・短編のパロディ九編を収録した短編集。

[ 定員#032「リンゴー・ダン」Lingo Dan(1903) 
  パーシヴァル・ポラード

泥棒・浮浪者・詐欺師・冷血な殺人者で、
感傷癖のある愛国者という奇妙なアメリカ人的性格の犯罪者ダンは、
1894年、サンフランシスコ・アーゴノート誌に初登場。
本短編集では十度活躍している。

[ 定員#033「アディントン・ピースの年代記」
  The Chronicles of Addington Peace(1905) 
  B・フレッチャー・ロビンスン

ホームズの探偵術を模したピース探偵もの八編を収録した短編集。
ロビンスンは、西部地方の伝説をドイルに話し、
ドイルはそれをもとにして『バスカヴィル家の犬』を書いたという。

[ 定員#034「都市の略奪品」The Loot of Cities(1905) より
  アーノルド・ベネット

    千金の炎 
     The Fire of London

金曜の夜、7時近く――
大企業の代表取締役ブルース・ボウリングに
匿名の、一本の電話がかかってきた。
今晩9時に彼のラウンズ・スクェアの自宅に強盗が押し入るという。
おどろき、しばし瞑想にふけっていると、
妻マリイから一通の電報が届いた。
今夜の夕食はデボンシャーにて7時半にすることに。
ラウンズ・スクウェアに行く必要がなくなり、
すっかり気分が軽くなったボウリング。

7時半すぎにデボンシャー・マンション(11階建ての高級総合ビル)の
レストランに到着するが、妻は不在。
するとウェイターが近づいてきて走り書きのメモを渡された。
それは妻からの連絡で、夕食はひとりで同マンションのクラブで
すますので、あとで迎えに来て欲しいという。
相つぐメッセージ攻勢にボウリングはご立腹。
勘定をし、クラブに向かった先で彼を待ち受けていたのは――

セシル・ソロイドが"こういうこと"を続けるシリーズらしい。
性格づけは犯罪学者と興行師(プロモーター)とロビン・フッドの結合。
洒落てますねー、邦訳されてないみたいだけど(^^;
「千金の炎」The Fire of Londonは、同短編集(六編)のトップを飾った。

[ 定員#035「ユージェーヌ・ヴァルモンの勝利」
  The Triumphs of Eugene Valmont(1906) 
  ロバート・バー

ルーク・シャープ名義でみずから編集するアイドラー誌に
最初のホームズ・パロディを書いたイギリスのジャーナリスト・作家による
イギリス住まいのフランス人探偵ヴァルモンもの二十四編を収録した短編集。
古いアンソロジーの花形だった「健忘症連盟」を含む。
「仏および英両国の警察機構における国家的差異の風刺」(クイーン)

[ 定員#036「ある刑事の告白」Confessions of a Detective(1906) 
  アルフレッド・ヘンリー・ルイス

〈ヒッコリーのこぶ〉のようなヴァル警視ものの表題作など、
五編を収録した短編集。ハードボイル派の先駆的作品。

[ 定員#037「強盗紳士ルパン」Arsene Lupin, Gentleman-Cambrioleur
  (The Exploits of Arsene Lupin)(1907) 
  モーリス・ルブラン

フランスの国民的英雄ルパンが登場する第一短編集。

[ 定員#038「思考機械」The Thinking Machine(1907) より
  ジャック・フットレル

    緋色の糸
      The Scarlet Thread

若い株式仲買人ウエルドン・ヘンリー。
アパートで一人暮しの彼は電気照明を
すべて取り払い、照明はガス灯だけ。
そんな生活のある明け方、彼はふと目を覚ます。
ガスが漏れて充満していて息苦しくなったのだ。
戸締りはしっかりしていたし、たんなる事故だと思い、
さして気にもとめていなかったが、
その後、何度もおなじことが起きてしまう。
それをかぎつけた新聞記者ハッチが
"思考機械"に相談を持ちかけた日の午後、
同アパートでひとりの女中がガスによる窒息死をとげる。
自殺と見られたが、現場に赴いた"思考機械"は殺人と断言――

"思考機械"譚はこれが初めて。古さはあるけど論理の重みはさすが。
でも緋色の糸は気づけよw>犯人
2プラス2はつねに4であり、不変のものだと、
論理を絶対視する短気で大頭の天才教授ものを七編収録した短編集。

[ 定員#039「一攫千金のウォリングフォード」
  Get-Rich-Quick Wallingford(1908) 
  ジョージ・ランドルフ・チェスター

妻帯者で実業家をよそおう手口をもっぱらにする詐欺師
ジョージ・ルーファス・ウォリングフォードの
ユーモラスな物語二十八編を収録している短編集。

[ 定員#040「お人好しの詐欺師」The Gentle Grafter(1908) より
  O・ヘンリー

  当世田舎者気質
     Modern Rural Sports

ジェフ・ピーターズとアンディ・タッカーの
ふたり組み詐欺師を主に編まれた短編集。
百姓を通し当世田舎者気質を描いた風変わりな一話。

[ 定員#041「隅の老人」The Old Man in the Corner(1909) より
  E・オルツィ男爵夫人

    英国プロヴィデント銀行窃盗事件
      The Theft at the English Provident Bank

喫茶店の安楽椅子探偵"隅の老人"と
聞き手の記者ミス・ポリー・バートン。
老人が彼女に語る、半年前から解決されていない
英国プロヴィデント銀行窃盗事件の真相。

舞台もキャストもシンプルに限定されているので
いっしょに推理してみましょう。消去法で。
なぜ未解決のままなのかがヒント。

ロイヤル・マガジンに1901〜1902年にかけて発表された作品集。

[ 定員#042「ジョン・ソーンダイクの事件簿」
  John Thorndyke's Cases(1909) より
  R・オースティン・フリーマン

    モアブの暗号
      The Moabite Cipher

オックスフォード通りをロシア皇太子の、
ロンドン市庁舎へ向かうパレード。
調子に乗った英国王子も参加するという。
それを見物にきたジャービス(叙述者)とソーンダイクは
友人のバジャー警部に遭遇。
警部はあるひとりのあやしい男に目を光らせていたが、
その目の前で男は不運な事故が重なり死亡してしまう。
身元を割るため持ち物をあらうと、一通の手紙が見つかった。
住所と宛名があったのでそれを本人に届けようとするが、
宛名の人物らしき男はあわてて逃亡。
開封してみるとモアブ/ヘブライ語の暗号文めいたものだった――

暗号ものかと思いきや、同時に砒素混入事件の相談も受けます。
どっちにしても、科学捜査がシリーズのきものようです。
探偵役のソーンダイク博士は、
弁護士資格を持つ温厚な法医学者で、鑑識検査の権威。
自ら"携帯実験室"と呼ぶ緑のカバンには
各種の鑑識器具や薬品がおさめられている。

[ 定員#043「アーチャー・ドウ探偵の冒険」
  The Adventures of Archer Dawe (Sleuthhound)(1909) 
  J(ジョゼフ)・S(スミス)・フレッチャー

「ミドル・テンプルの殺人」The Middle Temple Murder(1918)を
ウィルスン大統領がほめあげて有名に。第一短編集はPasquinado(1898)

[ 定員#044「探偵ダゴベルトの功績と冒険」
  Detektiv Dagoberts Taten und Abenteuer
  (Detective Dagobert's Deeds and Adventure)(1910) 
  ボールドイン・グローラー

オーストリアのシャーロック・ホームズ(クイーン)

[ 定員#045「四十の顔を持つ男」
  The Man of the Forty Faces(1910) 
  (トマス)・W・ハンシュー

ニック・カーターものも手がけたことがあるハンシューの
冒険児ハミルトン・クリークものの(古きよき)第一短編集。

[ 定員#046「ルーサー・トラントの功績」
  The Achievements of Luther Trant(1910) 
  ウィリアム・マハーグ&エドウィン・バールマー

ジャーナリスト出身のマハーグと義弟バールマーによる
嘘を発見する男トラント警部の物語。
トラントは心理学を科学捜査法とした最初の探偵。


6  第二期黄金時代――The Second Golden Era


探偵人名録、犯罪者名簿には、これまでデュパン、ルコック、ホームズ、
ザレスキー公爵、ラッフルズ、ルパン、思考機械……と
色あざやかな主人公たちが登場してきたが、まだ満開期を迎えたとはいえない。
二十二のコーナーストーンを数えるにいたった第二期黄金時代(1911〜1920)こそ、
花咲ける探偵たちを迎えた時代なのである(クイーン)。


[ 定員#047「ブラウン神父の童心」
  The Innocence of Father Brown(1911) より
  G・K・チェスタートン

    折れた剣の看板
      The Sign of the Broken Sword

ブラウン神父とフランボーは、
英国の英雄にして殉教者の
サー・アーサー・セント・クレア将軍の記念碑を巡回していた。
そのさなか、神父が語る、
将軍と折れた剣にまつわる血塗られた悲劇の歴史とは……。

これも有名な話ですね。
小石を隠すなら浜辺に、
木の葉を隠すなら森に、
森がなければ、森をつくる、
では同様に――
ここから展開される戦争の闇は寒気さえします。

案内者は、チェスタートンの友人であるオコンナー神父が
モデルとなったノーフォーク託りのある短躯のブラウン神父。
ホームズに匹敵するシリーズなので、もし未読ならぜひ。

[ 定員#048「アヴェリッジ・ジョーンズ」Average Jones(1911) 
  サミュエル・ホプキンス・アダムズ

若くハンサムな広告専門家アヴェリッジ・ジョーンズが、
ホームズ探偵風な冒険を展開する十話を収録。
F・ルーズベルトの「大統領のミステリー
(The President's Mystery Story 1935)」は
ルーズベルト大統領の作成したメモをもとに七人の作家が
書いたものだが、アダムズもその一人であったことが知られている。

[ 定員#049「無音の弾丸」The Silent Bullet(1912) 
  アーサー・B・リーヴ

コロンビア大学教授クレイグ・ケネディものの処女短編集(十二編)
この〈科学探偵〉は化学者であり、事件に巻き込まれるたび、
科学ギミックを使って解決をはかる。
記述者は、共同生活者である新聞記者ウォルター・ジェームスン。
こうした配役、また行動的な教授の性格から、
彼もまた〈アメリカのホームズ〉と呼ばれ、
第一次大戦前後のスター探偵だった――
が、その後の落ちぶれかたはすごかったそうな(^^;

[ 定員#050「ミステリーの名人」The Master of Mysteries(1912) 
  ジェレット・(フランク・)バージェス

本書は匿名で刊行され、
アストロ(アストロゴン・カービー)なる手相・水晶球の占い師に
恋人の助手ヴァレスカ・ウィンを配した24話の冒険譚。

[ 定員#051「スリリングな鉄道物語」
  Thrilling Stories of the Railway(1912) より
  ヴィクター・L(ロレンゾ)・ホワイトチャーチ

    ドイツ大使館文書送達箱事件
      The Affair of the German Dispatch - Box

蔵書家で鉄道マニアのソープ・ヘイルズ(菜食主義)。
彼が体験したドイツ大使館文書送達箱の事件。

ある朝のこと、自宅で朝食のさいちゅう、電報が届く。
外務次官モスティン・コットレルからで、まもなく訪問するという。
ヘイルズの鉄道に関する知識を借りに来たのだ。
コットレルの話では、現在ドイツ大使の手元にある
外務省から盗まれた文書のベルリンへの輸送を
妨害、あるいは防止しないと
国際的大紛争に発展しかねないという。
はたしてヘイルズは文書を奪還できるのか?

英国らしい痛快なユーモアミステリです(^^)
同書に収録された15編中9編が、
「鉄道探偵小説の分野での短編における最も初期の専門家」(クイーン)

同書に4ヵ月遅れで、米人作家フランシス・リンドが
化学者カルヴィン・スプレーグに鉄道事件を捜査させる
短編集『科学的なスプレーグ』Scientific Spragueを発表した。

[ 定員#052「歌う白骨」The Singing Bone(1912) 
  R(リチャード)・オースチン・フリーマン

倒叙形式を昇華させた本書は「オスカー・ブロズキー事件」を冒頭にして、
「計画殺人」A Case of Premeditation、
「歌う白骨」The Echo of a Mutiny、
「おちぶれた紳士のロマンス」A Wastrel's Romanceの4倒叙ものに、
「前科者」The Old Lagとの計5編のソーンダイク博士ものを収録している。

[ 定員#053「幽霊狩人カーナッキ」
  Carnacki The Ghost-Finder(1913) 
  ウィリアム・ホープ・ホジスン

英国人の作者は、怪異現象と探偵小説を結合させた初期の一人。
この短編集の探偵である幽霊狩人カーナッキは、
「呪われた館や諸現象を調査し、懐疑と高性能カメラで武装した推理法を
 用い、何編かの物語においては超自然の謎に対する
 このうえなく自然な解決に到達する」(クイーン)

[ 定員#054「ミステリーの最高傑作集」
  Master-pieces of Mystery(1913) 
  アンナ・キャサリン・グリーン

初期のアメリカ探偵小説界の女流パイオニア。
探偵小説の母、祖母、教母と時代が下るにしたがって尊称も変化。
探偵役は女性らしい高潔な魂が光輝くヴァイオレット・ストレンジ。

[ 定員#055「ノヴェンバー・ジョー」November Joe(1913) 
  ヘスキス・ブリチャード

米私立探偵小説は開拓小説に負うところ大であるが、
著者は、森林生活者ノヴェンバー・ジョーを
冒険家探偵に仕立てることで成功させた。

[ 定員#056「マックス・カラドス」Max Carrados(1914) より
  アーネスト・ブラマ(・スミス)

    ナイツ・クロス信号事件
      The Knight's Cross Signal Problem

セントラル・アンド・サバーバン鉄道の普通列車が
ナイツ・クロス駅の信号を突破し、
折りから発車しようとしていた電車に衝突。
死者27名、重軽傷者40余名、その後さらに8名が死亡する大惨事が発生。
激突した老機関士ハッチンズは信号は"進行"だったと終始一貫 主張。
一方、信号手ミードはこちらも頑強に"停止"だったとゆずらない。
私立探偵カーライル(ワトソン役)からこの話を聞いた
盲目の探偵マックス・カラドスは事件性を感じ取り、
秘書(従僕)パーキンスンを目に調査をはじまる。

動機が重いと糾弾するのもたいへんなんですね。

「いかなる規律からみても、これまでに書かれた十大探偵小説短編集の
 ひとつに数えあげられる」(クイーン)
同シリーズは、ほかに
The Eyes of Max Carrados(1923)、
Max Carrados Mysteries(1927)などがある。
ちなみに、最初の盲人探偵マックス・カラドスの
初登場時の名前は、マックス・クィンだった。

[ 定員#057「ダイアンと友人たち」Diane and Her Friends(1914) 
  アーサー・シャーバーン・ハーディ

科学者・外交官・記者・作家と多彩なキャリアを持ち、
洗練された文章を書く作者の数少ない11編の探偵小説短編集
(ほかに長編No.13, Rue du Bon Diable 1917)で、
思索的で温厚なジョリー警視もの6編を収録している。

[ 定員#058「ライムハウスの夜」Limehouse Nights(1916) より
  トマス・バーク

    シナ人と子供
      The Chink and the Child

好色家の有望なウェルター級ボクサー、バトリング・バロウズ。
ある晩、彼のもとにある事情から娘が赤ん坊をあずけにやって来る。
――11年後。ルーシーと名付けられた少女は
なかば虐待気味に育てられていた。
さて、そんな彼女を部屋の窓から何度か見かけ、
漠然と惹かれていたシナ人チェン・ファン氏。
怠惰な生活を送る彼がある夜、阿片窟に行くと、
なんとルーシーの姿がそこにあり――

ミステリじゃないよなあ、最後の仕掛けがそれっぽいけど
基本はかなしい恋物語です(あ、あってるよな?)

著者はアンブローズ・ビアスや
スティーヴン・クレインに感銘を受けて筆をとった模様。

[ 定員#059「世間の隅々」The Four Corners of the World(1917) 
  A・E・W・メイスン

「矢の家」で有名な著者。
13篇収録の本書の一話にアノー探偵が出演しているとか。

※「セミラミス・ホテル事件」The Affair at the Semiramis Hotel

[ 定員#060「アンクル・アブナーの叡知」
  Uncle Abner : Master of Mysteries(1918) より
  メルヴィル・デイヴィスン・ポースト

  ナボテの葡萄園
     Naboth's Vineyard

自宅で射殺された孤独な老人エリュー・マーシュ。
その日、姿をくらました作男テイラーが容疑者として逮捕される。
――そして、裁判がはじまり、審理が進み、
彼が絞首刑を免れぬとされた瞬間、
ひとりの娘が突然泣きだし、犯行を自供したのだが……。

弱い。法廷ミステリだけど作りが弱い。
だのに、この尊威・敬虔さはなんだろう。
ひどく胸に迫るものがあります。まいった。
タイトルは旧約聖書の列王紀略・上、第21章の物語による。
人の貪慾の対象物の意。

19世紀初頭アメリカの開拓地ヴァージニアを舞台に活躍する
聖書と法律を尊ぶヒューマニスト、アブナー伯父の物語、
「神のみわざ」An Act of God、「黄昏の怪事件」A Twilight Adventure
など18編が収録されている。

[ 定員#061「ファイロ・ガブ」Philo Gubb(1918) 
  エリス・パーカー・バトラー

主人公は通信教育による私立探偵講座の修了生(w
小さな町の壁紙張り職人が、ホームズ気どりで
素朴な推理法を披露するユーモラスな物語17編を収録。

クイーンは喜劇探偵として、マッカチオンによる老クロウ探偵、
P・ワイルドのモーラン探偵などを挙げ、
〈彼らは推理界における珍種――
 こっけいなホームズ、笑いを誘うルコック〉と評した。

[ 定員#062「赤い印」The Red Mark(1919) 
  ジョン・ラッセル

米国の記者で探検家でもあった
多産な短編作家ラッセルの犯罪と警察を扱った一冊。
2年後の再版時には Where the Pavement Ends と改題された。
彼の代表的な犯罪小説集に、
イギリスで先行出版された Cops and Robbers (1930) がある。

[ 定員#063「大都会の謎」Mysteries of a Great City(1920) 
  ウィリアム・ル・キュー

「1895年以来、続々と短編集を送り出してきたキューの
 〈前パリ警視庁副総監ムッシュ・ラウル・ベックの回顧談〉は、
 最良にして完全に純粋な推理をわたしたちに示してくれた」(クイーン)

[ 定員#064「夢みる探偵」The Dream-Detective(1920) 
  サックス・ローマー

怪人フー・マンチュー博士の創造主として知られる著者の
超心理学探偵(サイキック・ディテクティヴ)モーリス・クロウは、
奇妙ないでたちをした老古物商で、犯罪現場におもむき、
持参する赤絹クッションを枕に眠って夢をみることで、真相を透視する。

「ギリシャ室の惨劇」Case of the Tragedies in the Greek Room、
「囁くポプラの謎」Case of the Whispering Poplarsなど9編を収録。

[ 定員#065「キャリントン探偵の事件簿」
  Carrington's Cases(1920) より
  J(ジョゼフ)・ストーラー・クラウストン

    偶然の一致
      Coincidence

デヴォーセットシャー協会がロンドンで催す
ディナーに招待されたキャリントン探偵。
翌日、昨晩同席したR・C・ウィックリー氏が訪ねてきた。
彼は11年前、叔父の遺産であるデヴォーセットの、
猟場のある広い土地と屋敷を受け取り、独身生活を謳歌していた。

だが、ある頃からよき隣人だったスペンサーの態度が一変し、
原因もわからずついに絶好状態になってしまう。
数ヵ月後、スペンサーは彼に脅迫めいた最後通牒を寄越した。
その手紙には"過去の汚点を暴露されたくなければ
屋敷と土地をゆずりわたして他所へ移れ"と書かれていた。

そんなある日、陰鬱ながら刈り込みナイフを手に
植木いじりに出たウィックリー。
すると、森の中でたまたまスペンサーに遭遇した彼は
はからずも相手の背中を刺してしまった!
スペンサーが事切れているのは一目瞭然。
茫然自失から立ち直り恐怖にかられた彼は
屋敷に飛んで帰り、車を走らせ駅に、気がつけばロンドンに。
夜通し歩き回り、どうにでもなれとホテルで爆睡。
そして夕方、目を覚ました彼がロビーに出て、
目にしたものはなんと――!

ここまでが1章。
2章では180度ひっくりかえる展開に爆笑(w
3章が解決編だけど、2章の段階である程度は真相は見えるはず。
フェアすぎますのでね。こりゃおもしろかった。

F・T・キャリントンの物語10編+2編を収録した短編集。

[ 定員#066「珍本「ハムレット」本事件」
  The Unique Hamlet(1920) 
  ヴィンセント・スターレット

〈シャーロック・ホームズ氏のいまだ語られざる冒険〉
と、副題がついた同編は、
「現存するホームズ贋作中の最良作と広く認められている」(クイーン)

[ 定員#067「タットとタット氏」Tutt and Mr. Tutt(1920) 
  アーサー・トレイン

タット&タット法律事務所のエフレイム・タット弁護士は、
リンカーンそっくりな法の猟犬として、
Tut, Tut! Mr. Tutt (1923)〜Mr. Tutt Comes Home(1941)まで
数多くの短編集で活躍した。
トレイン自身、ハーヴァード・ロウ・スクール出身の弁護士で、
地方検事もつとめたこともある作家である。

弁護士探偵のさきがけは、
アルボン・W・タージーのWith Gauge & Swallow, Attorneys(1889)
における弁護士コンビである、とクイーンは指摘している。

[ 定員#068「フォーチュン氏を呼べ」Call Mr. Fortune(1920) 
  H(ヘンリー)・C(クリストファー)・ベイリー

ブラウン神父同様の直観型探偵派に属する
医師出身のレジー・フォーチュン探偵ものの、
The Archduke's Tea、The Sleeping Companionなど6編収録。

ほかにMr. Fortune's Practise(1923)〜Mr. Fortune Here(1940)まで
多くの短編がある。


7 第一期近代――The First Moderns


1921〜1930年にわたる第一期近代は、
ポワロ、ウィムジー卿、ウィルスン警視、ポジオリ教授……などの巨人を含み、
推理活動の発展において、十四の里程標を数えたが、
直前の十年より大きく減少をみたのは、
「量より質」の原則に則ったためである(クイーン)。


[ 定員#069「八点鐘」Les Huit Coups de L'horloge
  (The Eight Strokes of the Clock)(1922) 
  モーリス・ルブラン

ほとんどすべての批評家から、探偵ルパンの最良の見本を
いくつか含んだ事件と折り紙をつけられた短編集。

[ 定員#070「探偵ジム・ハンヴィ」Jim Hanvey, Detective(1923) 
  オクテイヴァス・ロイ・コーエン

張った顎に太く短い足という巨漢探偵ジム・ハンヴィ。
そのハンヴィ探偵の物語を7編収録。

[ 定員#071「ポアロ登場」Poirot Investigates(1924) より
  アガサ・クリスティー

  チョコレートの箱
     The Chocolate Box

探偵ポアロと相棒ヘイスティングズは団欒していた。
ヘイスティングズはポアロにいつも成功しているが
みずからのヘマで失敗したことがあるかと質問をする。
その問いにポアロは、
一度だけ極めつけのばかな失敗をしたことがあるといい、
当時まだベルギー警察の一員だった頃、
フランスの有名な代議士ポール・デルラールの事件の話に――

本体はピンクでふたはブルーのチョコレートの箱が糸口。
失敗といいつつ、かっこいいなあポアロ。
ラストもとてもいい(^^)

英国版『ポアロ登場』は、
「〈西部の星〉盗難事件」The Adventure of Western Starなど
11編を収録しているが、米国版は13編で内容も若干 異なっている。
同書の「チョコレートの箱」は、米国版の最後に収録された作品。

[ 定員#072「J・G・リーダー氏の心」
  The Mind of Mr. J. G. Reeder(1925) 
  エドガー・ウォーレス

温厚な紳士探偵リーダーの物語集。
「詩人警官」The Poetical Policeman、
「宝探し」The Treasure Huntなど8編を収録。

[ 定員#073「カタンザーロのルイジ」Luigi of Catanzaro(1926) 
  ルイス・ゴールディング

一編のみの私家版として出版された、
英国のユダヤ人作家・詩人による犯罪小説の稀覯本。

[ 定員#073a「蒼白いナイトガウン」Pale Blue Nightgown(1936) 
  ルイス・ゴールディング

同じ作家の犯罪小説集の稀覯本で、
Question Number Three 、The Lodgerなど23編を収録。

[ 定員#074「罪人はひそかに歩く」Sinners Go Secretly(1927) 
  アンソニー・ウィン

探偵役は〈ハーリー・ストリートの巨人〉こと
精神病学者ユースタス・ヘイリー博士。
古典的な「キプロスの蜂」The Cyprian Beesなど12編を収録。

[ 定員#075「陪審は彼女の仲間」A Jury of Her Peers(1927) 
  スーザン・グラスペル

一幕戯曲『何でもない事』Trifles(1917)が評判となったのち短編小説化。
グラスペルは心理描写に秀でた米国の劇作家で、
戯曲『アリスンの家』Alison's House(1930)で
ピュリッツァー賞の戯曲部門を受賞。

[ 定員#076「ピーター卿、死体を観察する」
  Lord Peter Views the Body(1928) より
  ドロシー・L(リー)・セイヤーズ

    文法の問題
      The Entertaining Episode of the Article in Question

パリのサン・ラザール駅構内でチッキを失くしたと
言い争いをしていた男女に興味を惹かれたピーター卿。
帰国後、男女の調査を開始した卿は、
女がメドウェイ公爵の屋敷に雇われ、
男の住所がギルフォードストリートと知る。

さっそくメドウェイ公爵夫人に連絡をとると、
公爵夫人の娘シルヴィアの結婚式――現存するもののうちで
最高の品といわれるダイヤの首飾りを着けて――が
再来週にせまっていると聞き、式に出席することに。
そして式当日、警戒中にダイヤはまんまと盗まれ……。

なぜピーター卿が男女の調査をはじめたかがポイントです。
――タイトルのままですけどね(w
やはりピーター卿のキャラクターは魅力的。

[ 定員#077「ウィルスン警視の休日」
  Superintendent Wilson's Holiday(1928) より
  G・D・H&M・I・コール(夫妻)

    ウィルスン警視の休日
     Wilson's Holiday

働きづめで過労気味のウィルスン警視を休養させようと
友人のマイクル・プレンダギャスト医師は徒歩旅行を提案。
のんびりとノーフォーク海岸を歩いていた旅3日目の午後、
前方に廃墟のコテージとテントを見つけ近づいてみると、
キャンプの跡は残されているものの、人気はない。
テント内を調べると血まみれのシーツとナイフを発見。
そして足跡が続いているコテージに入ると、
自殺をほのめかした遺書と――喉を切られた死体が、
さらに血に汚れた剃刀が見つかり……。

遺書がありながら、死体は他殺体で凶器がふたつ。
偽装工作にしてもずさんすぎるこの謎に休養中のウィルスンが挑む!

[ 定員#078「アシェンデン」Ashenden(1928) 
  W(ウィリアム)・サマセット・モーム

リアリスティックな下級スパイ、
アシェンデン(作家)の行動を描いた連作短編。
『月と六ペンス』The Moon and Sixpence(1919)、
『人間の絆』Of Human Bondage(1919)で著名らしい。

[ 定員#079「クローヴァーの詐欺師たち」
  Rogues in Clover(1929) 
  パーシヴァル・ワイルド

いかさまカード賭博師ビル・パームリーが
賭博に因するミステリーにいどむ冒険譚――
The Symbol, The Run of the Cards――など8編収録。

[ 定員#080「カリブ諸島の手がかり」
  Clues of the Caribbees(1929) より
  T(トマス)・S(シギスマンド)・ストリブリング

    ベナレスへの道
      A Passage to Benares

トリニダート・トバゴの首都ポート・オブ・スペイン、
時刻は午前5時半、ヒンドゥー寺院で(悪夢から)目を覚ました
アメリカの(哲学者で)心理学者ヘンリー・ポジオリ。
前日の夕方、彼はこの寺院での結婚式の行列を見物しており、
心理学者として異様な印象を受け、一泊していたのだ。
そして数時間後、先の式の新郎が妻殺しで逮捕されたと知る。
事件を追いはじめた彼だったが、
不幸がじわじわ重なり、ついに殺人容疑で逮捕されてしまう――

な、なにあのラスト(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
これ、連作短編集(6話)の最後の一話みたいだし、やっぱり……。

[ 定員#081「ダフ探偵、事件を解明する」
  Detective Duff Unravels It(1929) 
  ハーヴェイ・J(ジェロルド)・オーヒギンズ

カナダ生まれの作家・劇作家。
児童ミステリー集『探偵バーニー少年の冒険』
The Adventure of Detective Barney(1915)も手がけた。
本書は精神分析学的推理に真剣なアプローチを試みた最初の作品集8編。

[ 定員#082「殺人教書」Book of Murder(1930) より
  フレドリック・アーヴィング・アンダースン

    ドアの鍵
      The Door Key

田舎町の夕暮れ時。
警察副本部長の警視パーから電話があり、
ジェイスンと作家オリヴァー・アーミストンは
"いつもの流れで"ナマズ釣りの用意をしていた。
その後、ふたりは近所の、留守のベルディング少尉が
飼っている牝牛の世話に行き、置き手紙を見つけた。
ジェイスン宛てで牝牛をプレゼントするという。
意図がのみこめないが、気にもとめず、ナマズ釣りへ――

――パーを加えた三人で釣りをしていると、
保安官オーロ・セージとアンクル・チャーリーがやって来た。
なんでも少尉の車が川の中から発見されたという。
手前にブレーキの跡がなく、
増水期で流されたのか死体も見つかっていないが……。

なんていうか、実際的なオチ(w
登場人物たちは作者の過去の作品から汲まれているみたい。
オリヴァー・アーミストンとパー、コンビの物語10編。
Queen's Quorum 1951 

「クイーンの定員 V」各務三郎編 (光文社)
8 第二期近代――The Second Moderns


本章の期間(1931〜1940)における、短編探偵=犯罪小説は現代に近づくにつれ、
その形式における技術的、主題的多様性がますます明確になってくる(クイーン)。


[ 定員#083「女探偵ソランジュ物語」The Solange Stories(1931) 
  F(フリニウィド)・テニスン・ジェシ

悪の存在を警告してくれる超霊的感覚を具えた
女探偵ソランジュ・フォンテーヌの物語集。
「ロトの妻」Lot's Wife など5編を収録。

[ 定員#084「野郎どもと女たち」Guys and Dolls(1931) より
  デイモン・ラニアン

  ドロレスと三人の野郎ども
    Dark Dolores

アトランティック・シティー(ニュージャージー州)の
"和平会議"にセントルイスのギャングのボス――
ブラック・マイク・マリオ、"金髪のユダ公"ベニー、スクードルズ・シェイ
――が顔を出すらしい。
その会議の議論を調停する審判役を
外部の人間である"伊達男"デイブとおれ(一人称)が引き受けた。
全員がそろい、キャバレーにひっかけに行くと
そこで新顔らしいホステスのドロレス・ダークに出会う。
やがて三人の野郎どもはドロレスに魅せられ、
会議そっちのけで追いはじめるが……。

平和なギャング抗争――?
映画化・ミュージカル化もされた同書は
「サンピエールの百合」The Lily of St.Pierre、
「ブッチの子守唄」Bucth Minds the Baby など13編収録。

[ 定員#085「十三人の被告」Les 13 Coupables(1932) 
  ジョルジュ・シムノン

シムノンは1932年に、
『13の秘密』Les 13 Mysteres(安楽椅子探偵ジョセフ・ルボルニュもの)や
『13の謎』Les 13 Enigmes(G7もの)を発表しているが、
クイーンは「予審判事M=フロジェの的確で簡潔な捜査物語」を
収めた本書を最上として定員に。

[ 定員#086「陽気な略奪者」The Brighter Buccaneer(1933) 
  レスリー・チャータリス

現代版ラッフルズでありルパンである、
怪盗サイモン・テンプラーが初登場する短編集。15話。
犯罪現場に光輪つきの聖者(セイント)の線画を残すことからセイントの異名をとる。

[ 定員#087「警官の仕事」Policeman's Lot(1933) 
  ヘンリー・ウェイド

叙勲も受けた警察畑出身の著者が創造した、
ジョン・プール警部もの6編を含めた13編の物語集。
近代的イギリス流リアリズムがポイント。
ジョン・ブラッグ巡査の出世物語の短編集
Here Comes the Copper(1938)もある。

[ 定員#088「スーザン・デアの事件簿」
  The Cases of Susan Dare(1934) 
  ミニヨン・G(グッド)・エバーハート

乙女チックな女探偵スーザンの犯罪捜査である同書は、
「スーザン・デア登場」Introducing Susan Dare ほか5編を収録。

[ 定員#089「信・望・愛」Faith, Hope and Charity(1934) 
  アーヴィン・S(シュリューズベリ)・コッブ

不格好な老判事プリーストの物語「信・望・愛」など15編収録。

[ 定員#090「エラリー・クイーンの冒険」
  The Adventure of Ellery Queen(1934) ]より
  エラリイ・クイーン

  見えない恋人
    The Invisible Lover

自作に評価基準は付さないのね(^^ヾ

[ 定員#091「せんさく好きなタラント氏」
  The Curious Mr. Tarrant(1935) より
  C(チャールズ)・デイリー・キング

  釘と鎮魂曲
    The Nail and Requiem

タラントの住むアパートのペントハウス(屋上部屋)から
きてれつな音楽(鎮魂ミサ曲)が流れだし、
ドアの呼び鈴を押しても応えがないと
アンテナを修理にきた電気屋ウイックスから
管理人グリーブに電話で伝えられた。
その話を聞いていたタラントもペントハウスへ同行し、
調べてみると刺殺された全裸の若い女性が……。
密室状態のそこはアトリエとなっており、
カンバスには殺された娘のヌードの油絵が描かれ、
じっさいに彼女が刺された胸の部分に釘が刺さっていた――

釘と鎮魂曲がすごい魅力なのに、
(芸術家らしい?)演出どまりでもったいねえ……
って、これ伏せる意味あるか?(^^;竜頭蛇尾。羝羊触藩。
遊民トレビス・タラントが解決する奇怪な事件8編を収録。

[ 定員#092「キャンピオン氏ほか」
  Mr. Campion and Others(1939) より
  マージェリー・アリンガム

  綴られた名前
    The Name on the Wrapper

冷えこみのきつい冬の深夜。
夕食に招待されたラヴロック家からの帰り道、
横倒しになっている、明かりの消えた無人の車に出くわし、
自分の車から降りたアルバート・キャンピオンは
偶然、"魅力に乏しい"指輪を拾った。
気にもせずポケットに放りこみ、車を調べようと近づくと、
警官に声をかけられ、あらぬ事故の尋問を受け退散。

翌朝、旧友のオーツ警視から呼び出されたキャンピオンは、
あの事故車は窃盗事件の犯人が盗んで逃走に使用したものと知る。
事件は昨日、ある大パーティのさなか起きたものだった。

その後、拾った指輪が事件に関するとし、持ち主に会いに行くが、
その女性ジーナ・グレイは見たこともないと涙ながらに否定した。
困惑しながら退去すると、ジーナの婚約者でキャンピオンの知人、
ジョナサン・ピーターズに出会う。
彼はジーナが原因でなにやら苦悩していたので話を聞くと――

キモはタイトルがなにを指し示すか?(伏線あったかなぁ……)

[ 定員#093「トレント乗り出す」Trent Intervenes(1939) 
  E(エドマンド)・C(クレリヒュー)・ベントリー

「トレント最後の事件」の主人公フィリップ・トレントもの、
「見事なショット」The Sweet Shot、
「失踪した弁護士」The Vanishing Lawyer など12編を収録。

[ 定員#094「不可能犯罪捜査課」
  The Department of Queer Complaints(1940) より
  カーター・ディクスン

  銀のカーテン
    The Silver Curtain

フランスのラ・バンドレットのカジノ。
持ち金をすっかりすってしまったジェリー・ウィントン。
そんな彼に、ある仕事を引き受けてくれたら
報酬を一万フラン払うと声をかけたファーディー・デイヴォス。
ある場所に時間通りにぴったり行くだけでいいというのだ。
――そして雨が降る中、その場所へ向かうジェリーの少し先に
デイヴォスが歩いていた。
声もかけずにあとを追っていると、やがて袋小路の広場へ。
そこで一瞬、ジェリーが目を離した間に、デイヴォスの断末魔が響いた!
かけよってみると、彼の首のうしろにはナイフが突き刺さっていた……。

カーらしいハウダニット。
落としただけで刺さるか?命中するか?的なところも含む(w
タイトルとトリックの表現はおしゃれ。

[ 定員#095「オマリーの事件簿」
  The Affairs of O'Mally(1940) より
  ウィリアム・マハーグ

  ブロードウェイ殺人事件
      The Broadway Murder

ブロードウェイで殺人事件が発生。
射殺されたのはギャングの自称ノードゥン。
目撃情報と凶器の拳銃から逮捕されたデニン。
簡単な事件に思えたが、デニンは犯行を強く否定。
彼の言葉を信じたオマリー警部は捜査を開始。

魅力的ななぞはゼロに等しいけれど、
オマリーの捜査のやり方がおもしろい、オチもあと味よし(^^)
オマリー警官もの32編を収録した同書は、
ほとんどショート・ショート的な長さの短編集です。


9 ルネッサンス――The Renaissance


短編探偵=犯罪小説が新たな高みに向かってふたたび行進をはじめる……
文芸復興期(ルネッサンス)と呼ぶべき十年である。


[ 定員#096「ドン・イシドロ・パロディのための六つの問題」
  Seis Problemas para Don Isidro Parodi
  (Six Problems for Don Isidro Parodi)(1942) 
  H・ブストス・ドメック

「おそらくはスペイン語による最初の短編探偵小説」とクイーン。
Palabra Liminar 、Las Noches de Goliadkin など6編を収録。

[ 定員#097「晩餐後の物語」After-Dinner Story(1944) より
  ウィリアム・アイリッシュ

  裏窓
   Rear Window

ハル・ジェフリーズは退屈を持てあましていた。
そこで自宅の窓から近所の窓の中をのぞいていた。
のぞき続けていた。
そんなある日、ある夫妻の妻が突然いなくなったことに
事件性を感じた彼は調査をしてみるが――

やはりアイリッシュの文体センスはばつぐんです。
ラストもやばいくらい好きだ(w
アイリッシュ名義の第2短編集。

[ 定員#098「サム・スペードの冒険」
  The Adventures of Sam Spade(1944) より
  ダシール・ハメット

  判事の論理
   The Judge Laughed Last

あるコンビの連続窃盗犯の話。
首尾よく犯行を重ねていたが、ついに御用。
そして裁判がはじまり若き弁護士がした主張とは……。

これも反リーガル系。ショートショート?

本書は第一短編集で、「赤い光」Too Many Have Lived、
「死刑は一回でたくさん」 They Can Only Hang You Once、
「スペードという男」A Man Called Spade の全スペードもの3編のほか、
「殺人助手」The Assistant Murderer、「夜陰」Nightshade、
「判事の論理」The Judge Laughed Last(The New Racket) 、
「ああ、兄貴」His Brother 's Keeperの4編を収録。

[ 定員#099「五人の殺人者」Five Murderers(1944) より
  レイモンド・チャンドラー

  ゆすり屋は撃たない
   Blackmailers Don't Shoot

ゆすり屋マロリーはある手紙を1万ドルで
映画スターのロンダ・ファーに売りつけようとしていた。
だが彼女はつっぱねボディガードを残し立ち去ってしまう。
ボディガードをのしたマロリーは、今度は警官ふたりに
ある場所へ連れて行かれ、事態は思わぬ展開に……。

いうまでもなくバリバリのハードボイルド。
妙に長かったような。中篇なんだね(^^;

ぺーパーバッグで出版されたチャンドラー第一短編集。
処女中編「ゆすり屋は撃たない」Blackmailers Don't Shoot
(マロリー探偵 Mallory)、
「スペインの血」Spanish Blood
(刑事サム・デラグエラ Sam Delaguerra)、
「シラノの拳銃」Guns at Cyranos
(テッド・マルヴァーン Ted Malvern)、
「金魚」Goldfish
(探偵カーマディ Carmady)、
「ネヴァダ・ガス」Nevada Gas
(賭博師ジョニー・デ・ルース Johny de Ruse)
以上、5編を収録。いずれも30年代ブラック・マスク誌初出の作品。

[ 定員#100「探偵サム・ジョンスン博士」
  Dr. Sam : Johnson, Detector(1946) より
  リリアン・デ・ラ・トーレ

  蝋人形の死体
   The Wax-Work Cadaver

歴史ミステリ。1763年10月――
《外科医の殿堂》の専属蝋細工師のクラーク博士(元外科医)が
各国王族をはじめ、興味深い歴史上の人物たちを展示する、
との来駕を請う宣伝ビラからこの物語ははじまります。
ボズウェルは友人のサミュエル・ジョンスン博士をこの蝋人形館へさそう。
到着してみると陳列館の入り口に、
クラーク博士の弟子で従弟のジェム・ブラントが脱走したと
尋ね人のビラが貼ってあった。そして入館。
精巧に作られた展示品に圧倒されていると、
クラーク博士が声をかけてきて案内役を買ってでた――

一筋縄で終わらない展開と、なにより雰囲気が秀逸です。
18世紀ロンドン社会を巧みに描いたユニークな歴史ミステリ9編。

[ 定員#101「悪業物語」Turbulent Tales(1946) 
  ラファエル・サバティーニ

歴史的人物たちが遭遇した事件を扱う"完璧な犯罪歳時記"。
The Kneeling Cupid、「カザノヴァのアリバイ」Casanova's Alibi、
「時の主」The Lord of Time など16編を収録。

[ 定員#102「殺人の報酬」La Obligacion de Asesinar
  (The Compulsion to Murder)(1946) 
  アントニオ・エル

メキシコの探偵作家が創造した探偵=泥棒マヒモ・ロルダン
(Maximo Loldan)はさしずめタコスのルパン。アミーゴ!

[ 定員#103「ヒルデガード・ウィザーズの謎」
  The Riddles of Hildegarde Withers(1947) より
  ステュアート・パーマー

  医者と瓜ふたつの男
   The Docter's Double

深夜。教師のミス・ヒルデガード・ウィザーズが、
親友オスカー・パイパー警視をコンサートへひっぱり出した帰り道。
通りがかった建物の2階の窓から助けを求める声が。
すぐに飛び込んでいくと、男(ヨハン・ウルツ)が倒れていた。発作らしい。
ピーター・フレンチ博士を呼び、命に別状はなかったものの、
その医師から何週間かまえからヨハン殺害の企てがあるらしいと聞く。
ヨハンにはほとんど財産もなく、
心臓も弱っており長くはもたないにもかかわらずだ。

翌朝。ヨハンのようすを診察にきたフレンチ博士。
家政婦が家へあげ、掃除をしていると、呼び鈴が鳴った。
出てみると、そこにはフレンチ博士が!
不吉な予感にかられ、ヨハンのもとへ駆けつけたフレンチ博士が
見たものは、殺害されたヨハンのすがただった……。

ええっと、想定の範囲内(w
クイーン編による同書は、
「西部からきたおばさん」The Riddle of the Lady from Dubuque、
「12の紫水晶」The Riddle of the Twelve Amethysts、
「医者と瓜ふたつの男」The Doctor's Double など8編を収録。

[ 定員#104「迷宮課事件簿」
  The Department of Dead Ends(1947) より
  ロイ・ヴィカーズ

  ベッドに殺された男
      The Man Who Was Murdered by a Bed

レイスン警部が監督するヤードの迷宮課。

小男のジゴロでゆすり屋のエミリオ・スタンサは
ベッドの下でペティコートをかぶされ死んでいた。
有力な容疑者に、仲の悪いふたりの市会議員――
ベンテイクとハーマン――が浮かび上がる。
ところが皮肉なことに、
ふたりはお互いのアリバイを証言し潔白を証明。
事件は行き詰まり、自殺で片づけられていたのだが……。

迷宮入りの事件ばかりをあつかう設定がいいですねえ。
「ゴムのラッパ」The Rubber Trumpet、
「ベッドに殺された男」The Man Who Was Murdered by a Bed、
「けちんぼの殺人」Mean Man's Murder など7編を収録。

[ 定員#105「騎士の陥穽」Knight's Gambit(1949) 
  ウィリアム・フォークナー

1949年、ノーベル文学賞を受賞したフォークナー。
キャストのギャヴィン伯父(Uncle Gavin Stevens)は、
ポーストのアブナー伯父の系統。
若い甥チック・マリスンの記述による思索型探偵の物語は、
「けむり」Smoke、「水の上の手」Hand upon the Waters、
「騎士の陥穽」Knight's Gambit など6編あるが、
ギャヴィン伯父は「墓場への闖入者」Intruder in the Dust(1948)にも登場。

[ 定員#106「診断は他殺」Diagnosis:Homicide(1950) 
  ローレンス・G・ブロックマン

医学ミステリと科学捜査の好見本。
登場する病理学者ダニエル・ウェブスター・コフィー博士
(Dr.Daniel Webster Coffee)は、
But the Patient Died や Rum for Dinner など8編で
病理学、血清学、毒物学などの知識を駆使して犯罪をあばきだす。
長編では Recipe for Homicide(1952) にのみ登場する。



さて。
クイーンは、定員#001〜#106までを考察し終えたとき、
ひとまずふりかえり、名探偵110年の流れを集約、分析した。

(1)1841年――近代探偵小説の誕生(ポー)。
       特徴は、分析・演繹とスリルという知・情二面の強調。

(2)1850〜1894年――イギリスにおけるエセ実録時代。
          アメリカでは1872年に始まるダイム・ノヴェル時代。
          いずれも冒険味のかったメロドラマとなる。

(3)1887年――ホームズ探偵の誕生。分析・演繹と冒険の結合。

(4)1894年――医学ミステリー登場。

(5)1907年――科学的探偵小説の登場(ソーンダイク博士もの)で
       フーダニットからハウダニットへの大変化。
       (4)〜(5)にかけて犯罪者主役ものが流行(クレイ大佐、ラッフルズ)。

(6)1908年――〈知っていたら派〉の誕生(M・R・ラインハート)。

(7)1910年――人間心理の科学的追求はじまる(トラント警部)。

(8)1912年――倒叙探偵小説の誕生(R・A・フリーマンが創始)。

(9)1913年――探偵小説における自然主義(はじまりはベントリー)。

(10)1920年代前半――自然主義から自然主義の誇張化。
          ハメットを筆頭とするハードボイルド派の誕生につながる。

(11)1929年――最初の精神分析探偵(サイコアナリティカル・ディテクティブ)ダフ探偵の誕生。

(12)1930年代――長編倒叙探偵小説の優位。サスペンス小説の台頭。
        登場人物の心理面が重視されるようになり、
        フーダニット、ハウダニットからホワイダニットへ移行していく。

(13)1940年代――過渡期の10年。分析派・心理派がそれぞれの特長を生かしながら混合。
        自然主義の小説技法がつづく。
Queen's Quorum 1951 

「クイーンの定員 W」各務三郎編 (光文社)
10 ルネッサンスと現代――Renaissance and Moderns


リトル、ブラウン社から、第一版『クイーンの定員』(1951)が発行されたのちも、
クイーンはEQMM誌上で〈定員〉の拡充につとめた。
1969年に、補遺部分を含める増補版『クイーンの定員』がビブロ&タネン社から
発行されたとき、各短編集に、三つの評価基準は付されなかった。


[ 定員#107「幻想と夜のバラード」Fancies and Goodnights(1951) ]より
  ジョン・コリア

   壜詰パーティ
    The Bottle Party

わびしい生活を送る35歳のフランクリン・フレッチャー。
趣味でわが身をなぐさめようと思いつき、蒐集の対象をもとめ
町を彷徨っていると、古ぼけた店を見つける。
店のウインドウに飾られた壜詰の帆船が気に入り、店内へ。
そこには"あらゆるもの"が壜詰で販売されていた――

……星新一ばりのSF(^^;
オチを想像してみましょう、きっと当たります(w
作者の集大成といえる作品集で50編を収録。
鋭角的性格描写と幻想的物語が特徴。

[ 定員#108「隠されたもの」Something to Hide(1952) ]より
  フィリップ・マクドナルド

   殺意の家
    Malice Domestic

作家カール・ボーデンと妻アネットの関係はぎくしゃくしていた。
愛犬GBさえ、妻に対し、ようすがおかしい。
そんなある日の夕食後、カールはGBの散歩の途中、
急激な腹痛におそわれ倒れてしまう。
さいわいGBが医者を呼びに行き、事なきを得たが、
十日後、またしてもカールに激痛が走った。
医者が吐瀉物を調べてみると、砒素が検出され――

妻が疑われるのは当然、
ミステリなのでそんなに単純じゃないのも当然。
この話は登場人物が少ないので、もうひとり欲しかったところ。

予言者・探偵・悪漢の三役を兼掌するアルカザー博士(Dr. Alcazar)も
他の犯罪小説に混じって登場する。
「緑色の撚り糸」The Green-and-Gold String、
表題作Something to Hide、
「殺意の家」Malice Domestic など6編を収録。
本書の英国版は1953年にFingers of Fear and Other Storiesとして出版。

[ 定員#109「スミザーズの小品集」
  The Little Tales of Smethers(1952) ]
  ロード・ダンセニー

「二壜のソース」The Two Bottles of Relishを冒頭とする、
The Shooting of Constable Slugger、
An Enemy of Scotland Yard など最初の9編はリンレーもので、
ほかは An Alleged Murder、
「新しい主人」The New Master などの犯罪小説で構成されている26編。

[ 定員#110「列車にご用心」Beware of the Trains(1953) ]より
  エドマンド・クリスピン

   窓の名前
    The Name on the Window

ボクシング・デー――クリスマス後の最初の平日――の夜。
大学教授ジャーヴェス・フェンの自宅の玄関のベルが鳴った。
知人のハンブルビー警部が訪ねてき、
交通が麻痺しているので一晩泊めてくれという。
フェン教授はこころよく受け入れ、話題は付近で起きた殺人事件の話に。
それは古い"幽霊"屋敷でのクリスマスパーティ中に発生した密室殺人。

ダイイング・メッセージの解釈がGJ!
英文学教授ジャーヴェス・フェン(Gervase Fen)の
英国紳士探偵らしい洒落た会話混じりの物語が、
「列車にご用心」Beware of the Trains、Humbleby Agonistes、
「速達便」Express Delivery、
幽霊騒ぎを解決する「窓の名前」The Name on the Windowから
「デッドロック」Deadlockまで16編収録されている。

[ 定員#111「あなたに似た人」Someone Like You(1953) ]より
  ロアルド・ダール

      皮膚
     Skin

くたびれた老人ドリオリは町の画廊のウインドウに飾ってあった、
一枚の油絵に気をとめた。風景画のそれは30年以上前に
彼がかわいがっていた同郷の若者が描いたものだった。
――当時、刺青の名人だったドリオリは
その若き画家の才能をみとめ、
自分の背中に妻の刺青を彫ってもらっていたのだ。
それはすばらしいできばえで、画家もまんぞくし署名も付した。
――現在。回想を終え、ふらふらと画廊に入るドリオリ。
うすぎたない彼を店の人間が追い出そうとした。
怒ったドリオリは服を脱ぎ、刺青をアピール。
すると、その絵(皮膚)を買いたいという人間が次々とあらわれ……。

ダール節、全開です(w
ダールとコリアは好対照をなしている、とはクイーン評。
「味」Taste、「おとなしい凶器」Lamb to Slaughter、
「南から来た男」Man from the South、「皮膚」Skin、「お願い」The Wish
など18作品を収録。日本でも好評ですね。

[ 定員#112「アプルビー語る」Appleby Talking(1954) ]より
  マイクル・イネス

   ベラリアスの洞窟
    The Cave of Belarius

大きな祭りのあと、司祭と教授とアプルビー警部はひと息ついていた。
そこで教授は式典を抜けだして行った、
当地の名所"ベラリアスの洞窟"での体験話をする。
すみずみまで見てまわり、感傷にひたり、
ふと気がつくと、洞窟の入り口に石器時代人が立っていたという。
そのすがたはシェイクスピアのベラリアスのそれだった……。

ま、大仮装行列が焦点になりますよねえ(^^;

ヤードの出世頭ジョン・アプルビー(John Appleby)が、
「アプルビー警部最初の事件」Appleby's First Case、
「ポーカー・フェイス」Poker-work、
「ハンカチーフの悲劇」Tragedy of a Handkerchief、
「ベラリアスの洞窟」The Cave of Belarius など
パズルや陰謀に挑む作品(ショート・ショートから中編まで23編)を収録。

アメリカ版は Dead Man's Shoes(1954)。
ほかに18編を収録した Appleby Talks Again(1956)もある。

[ 定員#113「特別料理」Mystery Stories(1956) ]より
  スタンリー・エリン

   決断の瞬間
    The Moment of Decision

ヒューは気前はいいが中世的質実剛健な性格の好漢。
その妻エリザベスと弟のわたし(一人称)の三人がテラスで
休眠していると、一匹のプードルが羊を追いまわしはじめた。
このままでは羊が川に落ちてしまうとヒューが止めに走る。
が、ひょっこり犬の飼い主があらわれ、事なきを得る。
その飼い主は新しい隣人で、奇術の名人レーモンだった。
彼の登場がヒューに変化をもたらし、ある賭けに発展する……。

まさに、決断の瞬間。

EQMMコンテスト特別賞を得た処女作の
「特別料理」The Specialty of the House、
「クリスマス・イヴの凶事」Death on Christmas Eve、
「好敵手」Fool's Mate、
EQMM第10回国際コンテスト(1954)の第一席になった
リドル・ストーリー「決断の瞬間」The Moment of Decision
など10編が収録されている。

[ 定員#114「ジャングル・キッド」The Jungle Kids(1956) ]
  エヴァン・ハンター

エド・マクベイン(Ed McBain)名義の
87分署シリーズで知られるハンター。
本書は「初犯」First Offence、
「ほっといてくれ」……Or Leave It Alone、
「ジャングル・キッド」The Jungle Kids、
「ラスト・スピン」The Last Spin など12編。

[ 定員#115「悪の仮面」The Albatross(1957) ]
  シャーロット・アームストロング

『毒薬の小壜』A Dram of PoisonでMWA賞を得た作者の処女短編集。
EQMM第6回国際コンテスト(1950)の
第一席を受賞した「敵」The Enemyも含まれています。
「悪の仮面」The Albatross、
「笑いとばせ」Laugh It Off、
「ミス・マーフィー」Miss Murphy など10編の中短編を収録。
創元・クライム・クラブ版には、
「敵」とRide with the Executionerは収録されていない。

[ 定員#116「その名はマローン」The(1958) ]より
  クレイグ・ライス

   マローン殺し
    The Murder of Mr. Malone

弁護士ジョン・J・マローンシリーズ。
マローンがあるやっかいな遺産相続の仕事を請けていたさなか、
マローンは殺されてしまった――もとい、
空港のカクテル・ラウンジで出会った男が殺されてしまう。
原因は意図せず航空券が入れ替わったことにあるらしいが……。

短編にしてはキャストもなぞも多すぎ(;´Д`)
シリーズの知識がとぼしいからさらにキツいな。
長中編向きですよ、このこんがらがった事件は。
ただマローンは魅力的で人気シリーズなのもわかります。

冒頭の「マローン殺し」The Murder of Mr. Malone、
「うぶな心が張り裂ける」His Heart Could Break、
「小鳥たちはまた歌う」And the Bird Still Sing など10編。

[ 定員#117「不思議の国の犯罪」Malice in Wonderland(1958) ]より
  ルーファス・キング

   マイアミ各紙乞転載
    Miami Papers Please Copy

マイアミ・プレスの社主フィッツハット大佐の娘、
ミス・ヴァイオレットは同紙特集欄担当の押しかけ記者。
彼女は社会部長マグワイアに、今夜上演の芝居の切符を2枚要求。
なんでも、1枚はわざと街なかで落とし、
それを拾って来た人間について記事にするという。
――そして、開演。
現れたのは独身年配の男性で、
切符を拾う前まで自殺しようと考えていたと告白。
これはいい記事になりそうとヴァイオレットは喜ぶが、
事態はとんでもない方向へ……。

これはもうとにかくユーモアがすごい。
キャラと会話がたのしすぎます、テンポもいい。
この父娘、最高だよ(w

フロリダ州ハルシオンを舞台とする短編集。
「不思議の国の犯罪」Malice in Wonderland、
「マイアミ各紙乞転載」Miami Papers Please Copy、
「水中の死体」The Body in the Pool、To Remember You by など8話。
国内では「不思議の国の悪意」で発売中。

キングにはほかに下記の著書なども。
Diagnosis : Murder(1941)
The Steps to Murder(1960)
The Faces of Danger(1964)

[ 定員#118「メグレ警視の小事件簿」
  The Short Cases of Inspector Maigret(1959) ]より
  ジョルジュ・シムノン

   世界一ねばった客 
    The Most Obstinate Man in Paris

パリ、5月3日、8時10分。
まだ準備中のカフェにひとりの男がやってきた。
ギャルソンのジョゼフはあの手この手で
引きとってもらおうとするが、相手はなぜか動こうとしない。
開店になり、どんどん時間は流れるが、
その男はいっこうに店から出ていく気配はない。
業を煮やしたジョゼフは男が犯罪に関わっているとし、
刑事をこっそり呼ぶが、手配リストに該当者なし。
その後、ひとりの女性が同席するが言葉も交わさない。
――そして、閉店の深夜0時前。それを告げると、
16時間、座りつづけた男はあっさりと退去。
だが外に出た瞬間、銃声が!
なんともふしぎな事件にメグレ警視が挑む。

この後の展開もすてきなんだけど双子を
持ちだすと、どうも安っぽくなるなあ。

いうまでもなくメグレ警視ものの中短編集。
「メグレのクリスマス」Maigret's Christmas、
「過去をたずねて」Journey Backward into Time、
「殺し屋」Stan the Killer、
「バイユーの老婦人」The Old Lady of Bayeux、
「世界一ねばった客」The Most Obstinate Man in Paris の5本。
A・バウチャーが序文、「殺し屋」と「バイユーの老婦人」の訳を担当。
ほかはローレンス・ブロックマン訳。定員#106の人か。


11 続・ルネッサンスと現代
                ――Renaissance and Moderns Continuing


[ 定員#119「金庫と老婆」The Ordeal of Mrs. Snow(1961) ]
  パトリック・クェンティン

ヒュー・カリンガム・ウィーラー(Hugh Callingham Wheeler)と
リチャード・ウィルスン・ウェッブ(Richard Wilson Webb)の
アメリカ作家コンビ。
テーマのひとつに子供の殺人犯があるとか。
本書の本国版は、1962年で同題名でランダム・ハウスから刊行され、
MWA特別賞を受賞した。

「金庫と老婆」The Ordeal of Mrs. Snow を冒頭に、
「少年の意思」A Boy's Will、
「親殺しの肖像」Portrait of a Murderer、
「姿を消した少年」Little Boy Lost など12本を収録。
(ハヤカワ・ミステリ版では、
 Witness for the Prosecution、The Pigeon-Womanなど4編が欠落><)

[ 定員#120「ウィザーズ&マローン裁判」
  People vs. Withers & Malone(1963) ]
  スチュアート・パーマー&クレイグ・ライス

「汽笛一声」Once upon a Train、
「罠を探せ」Cherchez la Frame、
「貰いそこねた分け前」Rift in the Loot、
「九死に一生」People vs. Withers & Malone など
EQMMに発表された作品(改題あり)6編収録。
(クイーンとパーマーの二重序文つき!)
うち2編は1957年にライスが歿したのち、
20年来の友人パーマーが、交わされた手紙をもとに仕上げたもの。

[ 定員#121「奇想天外!」Surprise, Surprise!(1965) ]より
  ヘレン・マクロイ

   Q通り十番地
    Number Ten Q Street

エラは夫トムが寝入ったのを見はからって外出し、
薄汚い街の一角、Q通り十番地にあるアパートへ。
そこで彼女は貯めるのに何ヶ月もかかった現金をはたして
"本物の"パン一切れとバターとジャムを注文した。
ゼネラル・ナリッシュメント製の廉価な合成食品を
消費するのが義務づけられ、横溢しているので
天然の食べ物はこそこそと売られ、高額でしか入手できないのだ……。

近未来社会派SFですね。でもフツー。
「燕京奇譚」Chinoiserie、
「Q通り十番地」Number Ten Q Street、
「カーテンの向こう側」The Other Side of the Curtain、
表題作のSurprise, Surprise!、
「鏡もて見るごとく」Through a Glass, Darkly など8品を収録。
「歌うダイアモンド」で発売中。

[ 定員#122「シュロック・ホームズの冒険」
  The Incredible Schlock Homes(1966) ]
  ロバート・L・フィッシュ

「ホームズ文学全贋作中最高のもの」とはA・バウチャーの序文から。
「アスコット・タイ事件」The Adventure of the Ascot Tie、
「赤毛の巨人」The Adventure of the Printer's Inc.、
「アダム爆弾の怪」The Adventure of the Adam Bomb など12編。

ほかに「シュロック・ホームズの回想」
The Memoirs of Schlock Homes(1974)もあるよ。

[ 定員#123「主題は殺人」The Theme Is Murder(1967) ]
  ミリアム・アレン・デ・フォード

ジャーナリスト、犯罪実話作家として知られる女史。
Walking Alone を冒頭に、
「探しだされ読まれるために」To Be Found Read、
「死手譲渡」Mountain など17編を収録。
1961年、「The Overbury Affair」でMWA賞を受賞。

[ 定員#124「ルールのないゲーム」Game without Rules(1967) ]より
  マイクル・ギルバート

      聖夜
    Heilige Nacht

スパイ・スリラー。
12月24日。ドイツ、フランクフルト。
レオポルド分隊長とマッシー大尉が乗っていた車が
事故を起こし、ふたりは死亡した。諜報活動中だった。

同日正午、P・D社発信部の事務員ジョーゼフ・バルツは
通信部長のオフィスに忍びこみ、首尾よく暗号解読機を盗み出す。
そのまま社をあとにし、英国大使館へ。
そこでこの作戦の計画者マッシー大尉が死亡したと知る。
バルツは盗みの条件に英国の政治的保護を要求していたが、
なにも聞かされていない大使館員は彼を戸外へ追い出してしまう。
――その後、国家間を左右しかねない機密の鍵を持ったバルツは
行方が不明となり、英独の捜索戦がはじまった。

「ダマスカスへの道」The Road to Damascus、
「狙った女」On Slay Down、
「触媒間諜」The Cat Cracker、
「聖夜」Heilige Nacht など11本を収録。
スパイ対カウンター・スパイの立体的に描かれた血物語。

[ 定員#125「九マイルは遠すぎる」The Nine Mile Walk(1967) ]より
  ハリー・ケメルマン

   博士論文殺人事件
    The Ten O'clock Scholar

大学の英文学部教授ニッキイ(ニコラス)・ウェルトが
博士号取得試験のようすの見学にさそってきた。
ところが、時間になっても受験者クロード・ベネットは姿を見せない。
それもそのはず、彼は自室で頭部を強打され殺されていたのだった。
金属製の鞘に入った短剣が凶器らしい。
動機は女性をめぐる三角関係のもつれと思われたが、
現場にニッキイが到着すると、事態は一変する。

やはり絶妙な難易度の良質なシリーズです(^^)
最後の定員にふさわしい一冊といえましょう。


『クイーンの定員』解説 各務三郎
巻末資料――著者紹介

このページの参考文献。
定員に選ばれた作品、全作家の紹介。
さぞかし手間がかかったでしょうが、
編集・解説をできて光栄といってのけた理由に惚れた。
各務三郎氏に、定員たちに、選外でも尽力した作家たちに、
それをささえた関係者に、
そしてクイーンに最上の敬意を――
▽ TOP ▽