竹本 健治 (たけもと けんじ)

1954〜
兵庫県相生市生まれ。
東洋大学中退。
1977年から翌年にかけて、長編「匣の中の失楽」を
「幻影城」に連載して一躍話題になりデビュー。
以後、ミステリ、SF、幻想小説、怪奇小説などを発表。
1999年、本格囲碁コミック『入神』で漫画家デビューも果たす。
なぜか絶版多し。
OHP
    はこのなかのしつらく
1978「匣の中の失楽」★★★★★

幻の名作・ノベルスで復活。 現実と非現実の狭間に現出する5つの<さかさまの密室>。 推理小説史に新たな頂点を画した新本格推理の原点ともいうべき、 1200枚の異色巨篇。衝撃のデビュー。 主要登場人物 曳間 了…………F*大学。心理学専攻。金沢生まれ。『黒魔術師』。ピグマリオン 人形偏愛症… 根戸真理夫………F*大学。数学専攻。マリオネット 真沼 寛…………Q*大学。国文学専攻。マヌカン 影山敏郎…………S*大学。物理学専攻。最も新しい一員。 甲斐良惟…………N*美学。油絵専攻。曳間とは同郷。兄・良一が『黄色い部屋』を経営。傀儡 倉野貴訓…………F*大学。薬学専攻。神戸生まれ。グラン・ギニョール 久藤雛子…………グループのアイドル。十五歳。ビスク・ドール 久藤杏子…………N*美大卒。雛子の年若い叔母。アンティック・ドール 羽仁和久…………K*大学。国文学専攻。倉野とは同郷。『白い部屋』の住人。埴輪 布瀬呈二…………K*大学。仏文学専攻。『黒い部屋』の住人。ブラッティーニ 片城 成…………一卵性双生児のひとり。ナイルズ。形代 片城 蘭…………一卵性双生児のひとり。ホランド。 本格で変格なミステリ。 密室もの…と区切るのはもったいないか。 三大奇書と合わせて"4大(アンチ)ミステリ"と呼ばれたりもします。 あらゆる要素を詰め込んで現実と虚構が幾度も逆転し 混沌としつつも糸のような秩序が保たれてるのは圧巻です。 陰惨な状況でありながらどこか平和な雰囲気なんですよねぇ。 これを弱冠23歳でよく書き上げたもんですな。 最初は個性がつかみにくい人形のような若い登場人物たちも 気づいたら親しみさえ覚えるなぞのリアルさ。 青春小説なんていわれたりもしますがうなずけます。 とって付けたようなペダンチズムや過剰な思わせぶりな描写など 良くも悪くも青臭さがあったりしますが、 全身全霊、魂のこもった作品というのは共振します。 以下、目次とあらすじをざっくりと。濁していますがネタバレご注意!  序章にかわる四つの光景 1 霧の迷宮 濃霧の中を歩き続ける曳間。 幼いころからの疑問、なぜ世界は連続しているのか。 天気図の不連続線の不思議。 2 黄昏れる街の底で 喫茶店。根戸と真沼。予知能力、記憶障害、既視感? 待ち人の影山は結局姿を見せず。 3 三劫 7月1日。 賭碁に興じる倉野と雛子、観戦する甲斐。 行方不明の曳間。花言葉の本を買いたかったナイルズ。 囲碁の三劫。プロでもめったに見ない千日手。凶兆でもある。 4 いかにして密室はつくられたか 暗闇の部屋、四人委員会。"気ちがいお茶会"。 探偵小説マニアの羽仁、布瀬、ナイルズ、ホランド。 ナイルズが執筆したファミリーが実名で登場する探偵小説。 仮題は「いかにして密室はつくられたか」。 さかさまの密室、死ぬのは四人、最初に死ぬのは曳間。 影山から届いた暗号めいた謎の手紙。 そうして事件が起こる。最初の死者は――  一章 1 第一の屍体 7月14日。猛暑の午後3時すぎ。 倉野が目白のアパートに帰宅すると、 胸に短剣の刺さった曳間の死体が―― 2 密室ならぬ密室 類友、ファミリーはみんな探偵小説マニア。 犯人はなぜか現場に留まっていたらしい。 3 靴と悪戯 7月16日。 警察による現場検証と事情聴取の顛末。 犯人のものと思われるグレーのデザート・ブーツの偽証。 明日、ファミリーのアリバイ調べをすることに。 4 理想的な殺人 7月17日。火曜。赤坂の黄色い部屋に集合。 みなを見つめる古今東西の人形たち。 曳間のそばにあった開かれた本、「数字の謎」の「5の頁」。 死によって開かれた異次元への扉、平凡な殺人であってはならない。 5 白昼夢の目撃者 …7月14日。午前11時すぎ。 囲碁勝負に倉野のアパートを訪れた布瀬の証言。 6 通り過ぎる影 …7月14日。正午。 港区白金の自宅ポストに投函された 匿名の手紙に呼び出されたホランドの証言。 その後、文京区白山の根戸のマンションへ。呪術談義。 …同日、自室の緑色の部屋で小説を執筆中のナイルズの証言。 その後、日本橋横山町の甲斐のアパートへ。不思議な感覚。 …影山と真沼のアリバイ。 7 非能率なアリバイ …7月14日。正午。 うたた寝し、杏子と電話する根戸の証言。 …同日、月に1回の例の病気が出た羽仁の証言。 8 鍵と風鈴 …7月14日。午前9時。 下目黒の邸宅。曳間に遇ったという雛子の証言。 四方に鬼の描かれた青銅の風鈴。 9 殺人者への荊冠 2週間後に推理くらべ。 そのための十戒を設けるミステリ狂の面々。 10 さかさまの殺人 一同解散、ナイルズと倉野の帰路。空には赤い満月。 どこも不合理で事件そのものがさかさまのよう。  二章 1 死者の講義 7月24日。火曜。 と、ここまでを読んだ曳間さん。 鬼についての講義。 そうして事件が起こる。最初の死者は―― 2 ブラック・ホールのなかで 目黒区緑ヶ丘の布瀬邸にファミリー全員が緊急集合。 黒い部屋の隣にある寝室兼書斎から消滅した真沼。 3 第四の扉 ブラック・ホール。トンネル効果。 消失事件全体をおさらい。 4 羽虫の正体 双子の魔術ショウ。 消失トリックの考察。 5 二者択一の問題 単純すぎる密室と単純すぎるアリバイ。 粒子と波動の二重性、不確定性原理。二重スリット実験。 6 プルキニエ現象 7月28日。土曜。 根戸のマンション。深刻になりつつある事件を再検討。 色彩学、人間の視覚について。 7 仲のよくない共犯者 羽仁の虱潰し法推理。 犯人はファミリーの12人以外の13番目のユダ? 書斎の棺桶。 根戸の逢魔ヶ刻(時折、現実の出来事がどうでもよく思える時間) 8 見えない棺桶 続・虱潰し。 犯人が示されたように見えたが瓦解。 9 犯罪の構造式 動機を探るためファミリーの人間関係と歴史を見直す。 エクゴニンの構造式とファミリーの相関図。 10 牙を剥く悪意 みんなの血液型。 甲斐を挑発する布瀬。 甲斐だけ描写がおかしいナイルズの小説。 雛子に突如訪れた不幸――  三章 1 扉の影の魔 再び反転。 小説に追いつく現実。 ファミリーは精神病患者の集まり? 帰宅し玄関の引き戸を開けた倉野が何かを目撃? 2 推理競技の夕べ 7月31日。黄色い部屋。 現実世界と架空世界、ナイルズの意図とは。 結局、予定通り推理くらべをすることに。 3 愚者の指摘 タロットカードで順番決め。 甲斐の推理。曳間事件の整理。反密室。靴の謎。 4 歩き出す仮説 続・甲斐の推理。徹底した探偵小説狂の犯人。 推理といえど告発でもあり、もやもやとしたわだかまりが。 5 扉の向こうには 倉野の推理。生前の活動。連続と不連続への興味。 理代子の存在。杏子似の曳間の姉。 6 カタストロフィーの罠 続・倉野の推理。恋慕の破局。 カタストロフィー理論。 7 殺人狂想曲 どこか投げやりで憂鬱そうな倉野。 ホランドの推理…は中止。みなの狂っていく歯車。 8 もうひとつの空席 布瀬の推理。エクゴニンの構造式の空席。 成、蘭、森。 9 五黄殺殺人事件 根戸の推理。数字の暗合。九星術。 影山の暗号を解読。 ワトソン捜しの趣向。 10 正反対の密室 停電パニック。二重の密室。 根戸の災難とホランドの惨劇――  四章 1 現実と架空の間 三度反転。 8月16日。新宿御苑の芝生で会合。 瞞し絵のような小説。読者にとって現実は? メタ視点だと小説のタイトルがちがいますがはてさて。 2 筋斗雲に乗って 甲斐画伯と屍体の杏子と黒魔術師曳間。 曳間の推理。小説のための事件。 スコールのような豪雨が降りはじめる。 3 おもちゃ箱の坂で 杏子とナイルズの秘密の関係。 謎の電話で呼び出され、雨の中を歩く杏子。 4 予定された不在 8月21日。19日から雨のまま。 久藤家が青森へ引っ越し? 続・曳間の推理。共謀の可能性。 5 屍体のある殺人 曳間のアパートで一同雑魚寝。 悪夢で目覚めた影山。時計は4時10分。掴みかけた真相。 朝、凶報で叩き起こされる。時計は2時20分を差し停止していた…… 6 死の手触り 事件前の様子。甲斐のアパートに宿泊していた倉野。 謎の電話で呼び出され、雨の中を歩く甲斐。 明方、帰宅するとそこには―― 7 不必要な密室 密室のアトリエ。鍵は内、死体は外。無意味な密室。 それぞれのアリバイと時計の謎。 8 用意されていた方法 9月2日。日曜。黄色い部屋に集合。 羽仁の指摘。時計の謎の正体。 布瀬と羽仁の推理。密室トリックについて。 9 闇の傀儡師 顔を見せなかった甲斐を襲った悲劇。 風鈴のミステリー。ミラー・ハウスの出来事。 9月9日。日曜。白い部屋に集合。 消えた影山。 10 架空に至る終結 9月13日。 根戸の推理。真沼事件について。 曳間の推理。倉野事件について。 羽仁の発作。現実から架空への逃避。  五章 1 降三世の秘法 そして反転。 8月25日。白い部屋。 ホランドの復讐を誓うナイルズ。 風鈴と降三世明王三大秘法。 2 闇のなかの対話 羽仁邸。ファミリーはてんでにコレクションを鑑賞中。 根戸の推理。曳間事件の単純なアリバイ。 3 大き過ぎた死角 雛子の推理。ホランド事件の死角。 鍵穴のトリック。 4 ユダの罪業 布瀬の推理。エッチラオッチラ歩く死体。 屋敷に響く断末魔の叫び。血まみれの倉野…… 5 逆転された密室 8月26日。黄色い部屋。 布瀬の談義。さかさまの視界。 存在しえないユダ。 お粗末な殺人事件が一転、おぞましい密室事件に。 6 ラプラスの悪魔 完全な密室。もはや収拾がつきそうにない一連の事件。 些細な間違い。錯誤。錯覚。 崩壊していくファミリー。 7 撫でてゆくのは風 9月1日。根戸のマンションに集合。 どうしても動機が見つからない。 影山の暗号解読。 新たな形相を見せる曳間事件。 8 遡行する謎解き 10月5日。改装された黄色い部屋、「帰路」。 曳間の手帳。心情の吐露。 雛子の推理。倉野事件のトリック。 謎解きもまたさかさまに…… 9 キングの不在 ナイルズの推理。事件の全容解明へ。 キングはもう存在せず。 10 匣のなかの失楽 真犯人とその異様な動機。 匣。ふたの付いた箱。密室。 いかにして密室はつくられたか――  終章に代わる四つの光景 1 九星と血液 さらなる九星術の暗合。 輸血の問題。 2 青い炎 11月半ば。日曜。帰路。 原頁糸冬。 カフェ・ロワイヤルの青い炎。 3 解決のない解決 最後の推理。 最初の真相。 4 不連続の闇 濃霧の中を歩き続ける少年。 さかしまの終劇。
    とじばこ
1993「閉じ箱」★★★★

死人のように青ざめた顔をした、その歴史ある街は、 その日、死装束のような濃い霧に包まれていた― 表題作の「閉じ箱」をはじめ、 プロ作家としてデビュー後、初の短編である「陥穽」、 不思議な少年の世界を描いた「けむりは血の色」、 代表作の「恐怖」、 その他、以前に同人誌に発表されたものから、異色の話題作まで、 十五年に及ぶ著者の執筆活動の短編における全仕事を 集成した初めてのホラー・ミステリー集。 ホラミス。短編集。14話収録。 狂気と幻想の色彩が濃いミステリたち。 うん、血潮はミステリですよ、これは。 ただ、ちと流れがパターン化する懸念あり。 収録作品は以下。     氷雨降る林には 陥穽 けむりは血の色 美樹、自らを捜したまえ 緑の誘ない     夜は訪れぬうちに闇 月の下の鏡のような犯罪 閉じ箱     恐怖 七色の犯罪のための絵本 (ショートショート7本)     実験 闇に用いる力学 跫音 仮面たち、踊れ 「実験」からの4話には佐伯千尋という少女が登場します。 境遇に共通点はないので異世界への案内役って感じ。 全話、あとがきで本人が回想しているのでナイス。 解説の山口雅也たんも、いつもながらGJ。 いきなりヘビーな「匣の中」へ跳びこむのもいいけど まず著者の短編集大成ともいえる「閉じ箱」を 開くのもいいかもしれませんね。
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