ドロシー・L・セイヤーズ (Dorothy L. Sayers)

1893〜1957
オックスフォード生まれ。
広告代理店でコピーライターの仕事をしながら
1923年、第一長編「誰の死体?」を発表。
そのモダンなセンスにおいて紛れもなく黄金時代を代表する作家だが、
邦訳に恵まれず隔靴掻痒を味わったミスラーも多い。影の女王。
ピーター・ウィムジイ卿シリーズ:著作リスト
No. 年度 邦題 原題
1923 誰の死体? Whose Body?
1926 雲をなす証言 Clouds of Witness
1927 不自然な死 Unnatural Death
1928 ベローナ・クラブの不愉快な事件 The Unpleasantness at the Bellona Club
1930 毒を食らわば Strong Poison
1931 五匹の赤い鰊 The Five Red Herrings
1932 死体をどうぞ Have His Carcase
1933 殺人は広告する Murder Must Advertise
1934 ナイン・テイラーズ The Nine Tailors
10 1935 学寮祭の夜 Gaudy Night
11 1937 忙しい蜜月旅行 Busman's Honeymoon
12 Thrones, Dominations
1979 ピーター卿の事件簿 (邦訳短編集)
2001 顔のない男 (邦訳短編集)
    Whose Body?
1923「誰の死体?」★★★☆☆

実直な建築家が住むフラットの浴室に、ある朝見知らぬ男の死体が出現した。 場所柄男は素っ裸で、身につけているものといえば、 金縁の鼻眼鏡と金鎖のみ。 いったいこれは誰の死体なのか? 卓抜した謎の魅力とウイットに富む会話、 そして、この一作が初登場となる貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿。 クリスティと並ぶミステリの女王が モダンなセンスを駆使して贈る会心の長編第一作。 英国ミステリ。ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第1作。 前記の謎の死体の発見と並行して起こる、 金融界の名士サー・ルーヴェン・レヴィ失踪事件。 彼と発見された死体は、姿形こそ酷似しているが同一人物ではないらしい。 はたしてレヴィの行方は、そして発見された死体はだれなのか―― 謎の提示は以上。 んー、いわゆるフーダニットその他に属されるミステリではありません。 だって必然性がない…とまではいわないけど軽佻浮薄なんだもん。 場所とか鼻眼鏡とか動機とか。ラストの告白もくだくだしい。 とはいうものの、本書の最大の魅力は人物造形にあるので侮るなかれ。 なんといっても主人公で貴族探偵のピーター。 その名の通り――ウィムジイ(気紛れ)――の赴くままの言動行動。 権力者ですがえらぶったりせず、親しみやすい気さくな性格、 いっぽうでたび重なって披露される引用癖もアクセント。 探偵もやる気(興味)があるのは最初だけで、 ある程度 捜査が進展すると罪悪感すら覚えてしまう難儀な一面も。 筋金入りの書物蒐集家でもあるようです――なんかエラリイみたい。 キャラはぜんぜんちがいますけどね、ピートは(すてきに)子供っぽいし。 母のデンヴァー先代公妃や従僕のバンターといった脇役も 脇役といったら失礼なくらい個性が際立っています。 個人的にバンターの万能執事ぶりはとてもお気に入り。 この主従関係はまことにもって微笑ましいです(^^) シーンでは医学生の記憶を引き出すくだりや、 犯人との贈答などが好印象。この妙はおもしろいですよぅ。 最後に、爵位の翻訳お疲れさまでした>浅羽莢子たん
    Clouds of Witness
1926「雲をなす証言」

ピーター・ウィムジイ卿の兄ジェラルドが殺人容疑で逮捕された。 しかも、被害者は妹メアリの婚約者だという。 お家の大事にピーター卿は悲劇の舞台へと駆けつけたが、 待っていたのは、家族の証言すら信じることができない 雲を掴むような事件の状況だった。 兄の無実を証明すべく東奔西走するピーター卿の名推理と、 思いがけない冒険の数々。 活気に満ちた物語が展開する第二長編。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第2作。
    Unnatural Death
1927「不自然な死」

殺人の疑いのある死に際会した場合、検視審問を要求するべきか否か。 とある料理屋でピーター卿とパーカー警部が話し合っていると、 突然医者だという男が口をはさんできた。 彼は以前、診ていた癌患者が思わぬ早さで死亡したおり 検視解剖を要求したが、徹底的に分析にもかかわらず 殺人の痕跡はついに発見されなかったのだという。 奸智に長けた殺人者を貴族探偵が追つめる第三長編。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第3作。
    The Unpleasantness at the Bellona Club
1928「ベローナ・クラブの不愉快な事件」

騒々しかった休戦記念日の晩、ピーター卿はベローナ・クラブを訪れた。 戦死した友人を悼む晩餐会に出席するためだったが、 なんとクラブの古参会員、フェンティマン将軍が、 椅子に坐ったまま死んでいる場に出くわしてしまう。 しかもことは、由々しき問題に発展した。故人には縁の切れた妹がいた。 資産家となった彼女は、兄が自分より長生きしたならば 遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという 主旨の遺言を作ったいたのだが、その彼女が、 偶然同じ朝に亡くなっていたのである…。 謎が転調に転調を繰り返す長編第四弾。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第4作。
    Strong Poison
1930「毒を食らわば」

推理作家ハリエット・ヴェインは恋人の態度に激昂、袂を分かった。 最後の会見も不調に終わったが、 直後、恋人が激しい嘔吐に見舞われ、帰らぬ人となる。 医師の見立ては急性胃炎。 だが解剖の結果、遺体からは砒素が検出された。 偽名で砒素を購入していたハリエットは訴追をうける身となる。 ピーター卿が決死の探偵活動を展開する第五長編。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第5作。
    The Five Red Herrings
1931「五匹の赤い鰊」

釣師と画家の楽園たるスコットランドの長閑な田舎町で、 嫌われ者の画家の死体が発見された。 画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、 当地に滞在中のピーター卿は、これが巧妙な擬装殺人であることを看破する。 怪しげな6人の容疑者から貴族探偵が名指すのは誰? 後期の劈頭をなす、英国黄金時代の薫り豊かな第6長編! ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第6作。
    Have His Carcase
1932「死体をどうぞ」

砂浜にそびえる岩の上で探偵作家ハリエット・ヴェインが見つけた男は、 無惨に喉を掻き切られていた。手元にはひと振りの剃刀。 見渡すかぎり、浜には一筋の足跡しか残されていない。 やがて潮は満ち、死体は流されるが……? さしものピーター卿も途方に暮れる難事件。 幾重もの謎が周到に仕組まれた雄編にして、遊戯精神も旺盛な第7長編! ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第7作。
    Murder Must Advertise
1933「殺人は広告する」

広告主が訪れる火曜のピム社は賑わしい。 とくに厄介なのが金曜掲載の定期広告。これには文案部も音をあげる。 妙な新人が入社したのは、その火曜のことだった。 前任者の不審死について穿鑿を始めた彼は、社内を混乱の巷に導くが……。 広告代理店の内実を闊達に描くピーター卿ものの第8弾は、 真相に至るや見事な探偵小説に変貌する。モダン! ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第8作。
    The Nine Tailors
1934「ナイン・テイラーズ」★★★★★

冬将軍の去った沼沢地方の村に、弔いの鐘が響いた。 病がちな赤屋敷の当主が逝ったのだ。 故人の希望は亡妻と同じ墓に葬られること、だが掘り返してみると、 奇怪なことに土中からもう一体、見知らぬ遺骸が発見された。死因は不明。 ピーター卿の出馬が要請される。 1930年代英国が産んだ最高の探偵小説と謳われる、セイヤーズの最大傑作。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第9作。 うああもう、むっちゃくちゃおもしろかった(;´Д`) 年に1度あるかないかの満足感ですよ、酩酊ですよ。やっばい。 それではあらすじをおさらい。 年の瀬、吹雪の大晦日に車の事故で立ち往生したピーター卿は、 鐘の音に誘われ沼沢地方の 雪深い小村・フェンチャーチ・セント・ポールに助けを求め迷い込んだ。 牧師館に宿を得た彼は、流行性感冒が蔓延し、 転座鳴鐘の二番鐘担当の人員を欠いた村の急場を救うため、 久々に鐘綱を握った―― そして数ヵ月後、春がめぐる頃、小村に弔いの鐘が響き渡った。 九告鐘(ナイン・テイラーズ)。 病がちな赤屋敷の当主が逝去、故人の希望により 亡妻と同じ墓に埋葬しようとするも、土中から身元不明の死体が発見される。 顔をつぶされた上、手首を切断された状態で。 困窮した老牧師はピーター卿に捜査を依頼するが… とにかく鐘の余響残響がとてつもない。 鐘にまつわるペダントリーがよすぎ。 鳴鐘術、伝統や銘文など泣けるほどかっこいいんですが。 ピーターも成長というか貫禄が備わってきてますね。 相変わらず悠悠自適で引用癖も絶好調。 バンターも健在でうれしい(284ページには爆笑ですw) うん、変ちきピークとかアシュトン氏とか色物が活きてます、 ちりばめられたユーモアは理想的。 ただし、主役はこのなんともいいがたい崇高な雰囲気ね。 それを顕著に醸出しているのが鐘。 古典主義で、いやならずとも、これを唾棄できる人はいないでしょう。 それでは8つの鐘とセイヤーズを敬拝して(ネタバレ?反転) フェンチャーチ・セント・ポールの鐘の声―― 歓喜せよ(ガウデ)、ゴーディ、主を讃えて(ドミニ・ラウデ)聖なる哉(サンクトゥス)聖なる哉(サンクトゥス)聖なる哉(サンクトゥス)万軍の主なる神(ドミヌス・デウス・サペオス)。 ジョン・コール、吾を鋳造、 ジョン長老、吾を寄進、 ジョン福音記者、吾を援けよ。 ジェリコよりジョン・オ・グローツまで、吾が音に勝る鐘は無し。 主に向かいて喜ばしき声を上げよ(ユビラテ・デオ)主は今ぞ去らせ給う(ヌンク・ディミティス・ドミネ)。 トーマス院長吾を据え、明朗たれと命じ給う。吾が名はポール、此の名尊し。 ガウデ、サベオス、ジョン、ジェリコ、ジュビリー、 ディミティ、バティ・トーマス、テイラー・ポール。 九告鐘は人一人。 QED.
    Gaudy Night
1935「学寮祭の夜」

母校オクスフォードの学寮祭に出席した探偵作家ハリエットは、 神聖たるべき学舍で卑劣な中傷の手紙に遭遇する。 思い出は傷ついたが、 後日、匿名の手紙が学内を騒がせているとの便りが舞いこむ。 ピーター卿は遠隔の地にあり、彼女は単独調査へ駆り出される羽目に。 純然たる犯人捜しと人生への洞察が奏でる清新な響き。著者畢生の大長編! ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第10作。
    Busman's Honeymoon
1937「忙しい蜜月旅行」

劇的な出会いから七年、 やっと結婚にこぎつけたウイムジー卿とハリエットは、 田舎屋敷を買い取り、慌しく蜜月旅行に出かけた。 が、二人を出迎えたのは、屋敷の前の持主の死体だった! 新婚気分をふり捨て、卿は探偵仕事に励んだが…… 本格ミステリ黄金時代を築いた一人として 後世に大きな影響を与えた著者最後の長篇。 ピーター・ウィムジイ卿シリーズ第11作。
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