Calamity Town 1942 SSS

「災厄の町」青田勝訳 (HM文庫)
「ライツビルの殺人事件」能島武文訳(新潮文庫)
結婚式の前日に姿を消したジムが三年ぶりに突然戻ってきた。
彼の帰りを待ちわびた許婚のノーラと結婚し、二人は幸福な夫婦となった。
そんなある日、ノーラは夫の奇妙な手紙を発見した。
そこには病状の悪化した妻の死を知らせる文面が……
これはわたしを殺害するための計画か?
美しい三人の娘を持つ旧家に起こった不思議な毒殺事件。
架空の町ライツヴィルを舞台に、
錯綜する謎と巧妙な奸計に挑戦するクイーンの名推理!

ライツヴィルシリーズ第1弾。

これだけの名作を世に送り出して、
さらにこれだけのシリーズを生み出せるのってありなんでしょーか?
このシリーズの魅力はなんといっても
"ライツヴィル"という町そのものにありますね。
ニューヨークやハリウッドは遠い感じがするんですが、
ライツヴィルにはそこにいるような親近感を覚えるんだな、
時系列に読めばなおさらです。

物理ミステリから心理ミステリへ、
そして無敵で不敵のエラリイもこの頃から"人間"になってきます。

アメリカ(エラリイ)ライツヴィル(災厄の町)を発見(w

綴りは Wrightsville なので、
ライトの町、正義の町にもなります――よね?
There Was an Old Woman 1943 SS
(The Quick and the Dead)

「靴に棲む老婆」井上勇訳 (創元推理文庫)
 (生者と死者と)
靴作りで巨億の財をなして《靴の家》に住む、老婆と六人の子供たち。
この一家に時代錯誤な決闘騒ぎが勃発、
エラリーらの策も虚しく、奇妙な殺人劇へと発展する。
“むかし、ばあさんおったとさ、靴のお家に住んでいた”
マザーグースの童謡のままに展開する異様な物語!
ナンセンスな着想と精妙な論理が輝く、風変わりな名作。

マザーグースの童謡見立て殺人。

舞台は億万長者の老婆と6人の子供(3人はキ印)が住む靴の家。
不条理にしてナンセンスな殺人劇を
ロジカルに描き上げたクイーンの力量は計り知れません。
前期らしい作品をまだ描けちゃうんだからすごすぎてこわくなる(w

長編ではニッキー・ポーター初登場!
いつどのように登場するかはすぐにはわからないでしょうけど(^^)
The Murderer is a Fox 1945 

「フォックス家の殺人」青田勝訳 (HM文庫)
フォックス大尉は華々しい戦果とともに
ライツヴィルに凱旋したにもかかわらず、神経を冒されていた。
ある夜、妻の首を絞めようとしたのだ。
異常体験が12年前に起こった事件の記憶を呼びさましたのか?
大尉と妻はエラリイに、
大尉の父が母を毒殺したという過去の事件の再調査を依頼した。
父が無実となれば、大尉の病も癒えるはずだ。
エラリイは大胆きわまる推理を展開していったが……!

ライツヴィルシリーズ第2弾。

12年前の事件に孤軍奮闘で挑むエラリイがかっこいい。
数少ない情報から着実に真相に近づいていくさまに心打たれます。
ラストにはこのシリーズの方向性が明確に感じられますね。

ライツヴィルの変化も見所です。
目次もかなり好き。


さて、本編の巻末で山口兄さんが
ライツヴィルの地理を考察しています。
みちびき方がすばらしいので、
詳しくはじっさいに読んでいただくとして、
ここでは地図を置いておきます。
(クリックで拡大します)



(C)TOM's National Park in the USA


ニューハンプシャー州は北東に位置します。
ニューヨークの北東ね。
あそこにライツヴィルがあるんですねぇ(´ー`)
Ten Day's Wonder 1948 

「十日間の不思議」青田勝訳 (HM文庫)
血まみれの姿でクイーンのもとを
訪れた旧友のハワードは家を出てから十九日間、
完全に記憶を失っていたという。
無意識のうちに殺人を犯したかもしれないので、
ライツヴィルへ同行してほしいと彼はエラリイに懇願した。
しかしエラリイが着くのも待たず、不吉な事件は幕をあけた。
正体不明の男から二万五千ドルで
ハワードの秘密を買えという脅迫電話がかかってきたのだ!
三たびライツヴィルで起こった怪事件の真相とは?

ライツヴィルシリーズ第3弾。

クイーンが少ない登場人物で
心理描写をここまで掘り下げたのは初めてでしょう。
それゆえに入り込みすぎたエラリイの苦悩は
こちらにまで切実に伝わってきます。
名探偵だから、なにもできずに立ち去るしかない。

この作品は完成までに10年かかったそうな。
Cat of Many Tails 1949 インフィニティ

『九尾の』大庭忠男訳 (HM文庫)
手当たり次第に殺人を犯し、
ニューヨーク全市を恐怖にたたきこむ連続絞殺魔〈猫〉。
その冷酷な犯行には動機もなく、目撃者も容疑者もいない。
唯一の証拠は、犠牲者の首に結びつけられた凶器の絹紐だけだった……
父のクイーン警視をたすけ、この影なき殺人者を追うエラリイ。
恐るべき連続殺人をつなぐ鎖の輪を求めて、
エラリイと〈猫〉との息詰まる頭脳戦が展開される!

ああもうダメだ、エラリイかっこ良すぎ。
蒸し蒸しした雰囲気も最高。
一転する終盤も最高。
「十日間の不思議」後だけに…・゚・(ノД`)・゚・

これ23番目の長編なんですけど、
ずっとエラリイを追ってきた人間には辛抱たまりませんよ。
逆にいえば単品では魅力が半減されまさあな。
死生と再生を開顕した究極の一作。
Double, Double 1950 

「ダブル・ダブル」青田勝訳 (HM文庫)
エラリイ・クイーンが懐かしのライツヴィルに赴いた時、
すでに三つの謎があった……
町の隠者≠フ病死、大富豪≠フ自殺、そして町の呑んだくれ≠フ失踪。
だがこれは、来るべき連続殺人の単なる発端にすぎなかった!
古い童謡に憑かれたように犯行を重ねる殺人鬼に、
さすがのクイーンもなす術がなかった!

ライツヴィルシリーズ第4弾。

マザーグースの見立て殺人もの。
自然の中で育ったリーマたんがふわふわで萌え。
でなきゃもうライツヴィルに行かなかったんじゃないか?(w
前作が前作だけにこの天然癒し系は絶大な効力を発揮しますねぇ。
The Origin of Evil 1951 

「悪の起源」青田勝訳 (HM文庫)
玄関先に送りつけられた犬の死体と脅迫状が宝石商のヒルを殺した?
そして共同経営者のプライアムにも意味不明の脅迫が続く。
二人を死ぬほどおびえさせるものは何か?
プライアムが頑として語ろうとしない二人の過去とは……?
題名を『種の起源』になぞらえ、
ハリウッドを舞台に展開する本格推理大作。

ハリウッドシリーズ第3弾。

このシリーズはキャラやストーリーが
特にぶっ飛んでてユニークで楽しいです♪
プロデューサーとかターザン面白すぎ(w
それでいて"悪"の起源の推察は興味深いです。

タイトルの因子はダーウィンの「種の起源」
The King is Dead 1952 

「帝王死す」大庭忠男訳 (HM文庫)
ある島を買い取り、私設の陸海空軍を有するベンディゴ帝国に君臨する
軍需工業界の怪物キング・ベンディゴ――
彼のもとに舞いこんだ謎の脅迫状の調査を求められ、
クイーン父子はニューヨークから拉致された……
はたして脅迫者の正体とは?
そして父子の眼前で起こった不可能犯罪の秘密!

ライツヴィルシリーズ第5弾。

孤島の予告&密室殺人もの。
序盤から法外な大富豪に拉致されるクイーン父子。
帝王もクイーンには敵いません(^^)

ライツヴィルには終盤のみ訪れます。
それまではアクション映画的大雑把な印象もありますが、
登場人物たちの過去にもライトを当て幕引きする辺りは
いかにもクイーンらしいです。
The Scarlet Letters 1953 

「緋文字」青田勝訳 (HM文庫)
探偵小説家ダークと女流演出家のマーサは、誰もが羨む幸福な夫婦だった。
が、結婚三年目から二人の仲が悪くなり、
やがてすさまじいトラブルが起るようになった。
エラリイと秘書のニッキーは何度か仲裁に入っては、
諦めて手を引こうとしているうちに
緋文字殺人事件≠ニよばれる姦通事件に巻きこまれていった。

なんとなく固ゆでタマゴな作品。
ナサニエル・ホーソンの同名タイトルにちなんだ作品。
(正確には“The Scarlet Letter”)

最後の方まで「どこがミステリなん?」って感じでしたが
読み終えて納得。匠の技。

ニッキー・ポーターも全面的に登場。
The Glass Village 1954 

「ガラスの村」青田勝訳 (HM文庫)
独立記念日の翌日、シンの辻と呼ばれる
人口36人の寒村で老女流画家が撲殺された。
容疑者として捕まった男は金を盗んだ事実は認めても
殺人の件は頑強に否定した。
女流画家の家へは薪割りを頼まれて行ったと主張するのだが……
巨匠が展開する精緻な論理、読者への挑戦、意外な結末。
発表後騒然たる話題を巻き起した問題作。

クイーンの姓を冠した人間は登場しません。

訳者さんがあとがきでマッカーシズムに批判を
投げかけた作品と称していますが、それに集約されるでしょう。
探偵役がエラリイでは務まらないのがよくわかる。

さまざまな思惑がうずまく法廷シーンが大部分をしめますが、
終盤のちょっとした綻びから ひも解かれる真相に燃え。
この辺の見せ方の巧さはさすがです。
解放されたジョニーが残す後味も爽快。
Inspector Queen's Own Case 1956 

「クイーン警視自身の事件」青田勝訳 (HM文庫)
夜更け、不吉な胸騒ぎを覚えて、
飛ぶように帰ってきた看護婦ジェシイは、
育児室にとびこむなり思わず立ちつくした。
大富豪ハンフリイ氏の赤ん坊は
顔の上に枕をのせたまま冷たくなっていた――
退職後まもないクイーン警視はエラリイの手をかりず、
ひとり残酷で不敵な犯人に挑戦した。

クイーン警視シリーズ第1弾(w

エラリイ出てきません!
リチャードが定年退職したパラレルな設定。
丹念に頭より足で事件に挑みます。

少年探偵団ならぬ老年探偵団はなかなか愉快。

ラストではなんと…(w
The Finishing Stroke 1958 

「最後の一撃」青田勝訳 (HM文庫)
事件の発端は1905年に遡る。
折からの大雪で自動車が横転し、懐妊中の妻は双生児を産み落とし死んだ。
夫は妻に死をもたらした二番目の子を憎むあまり、
その子を立会いの医師にくれてしまったが
その数日後、事故で受けた傷のため夫も他界してしまった……
そして25年の歳月が流れた1930年エラリイは、
双生児の長男をめぐる殺人事件に遭遇した。
そして、この殺人は、1957年を待たねば解決をみないほどの難事件だった!

30番目の長編。
「ギリシア棺の謎」ぶりの若きエラリイの事件。
上記のレビューを読めばわかりますが、だいぶ壮大です。

それというのもこれを「クイーン最後の事件」に
するつもりだったらしく、実際そんな感じが節々にします。
(次回作が発表されたのはこれの5年後)
引用として「読者への挑戦状」を付けたのも響きますなあ…

もう三十篇の著作がある――なんのために、
それを三十一にする必要があろうか?

(;_;)
おまけ。 マイベスト番外篇。 1977年に初来日したダネイの週刊誌のインタビューでの答え。 ちなみにダネイは1979年を含め2度来日をしています。
《ダネイ自選ベスト篇》
順位 年度 作品/作者 思いの丈
1934 「チャイナ橙の謎」
エラリイ・クイーン
意外といえば意外、納得といえば納得。
嗜好が垣間見れておもしろいね。
1942 「災厄の町」
エラリイ・クイーン
ライツヴィル誕生。
初期もいいけど真髄はこっちだよねぇ。
1936 「途中の家」
エラリイ・クイーン
初の単独作品。
転換期の象徴です。
1949 「九尾の猫」
エラリイ・クイーン
番外として選出。
もはやミステリの枠に収まりません。
※「ガラスの村」と「第八の日」が加わったバージョンもあり
▼BACK▼          ▽TOP▽