The Adventure of Ellery Queen 1934 

「エラリー・クイーンの冒険」井上勇訳 (創元推理文庫)
長編の名手クイーンは短編の名手でもある。
『冒険』には、「アフリカ旅商人の冒険」「首つりアクロバットの冒険」
「一ペニイ黒切手の冒険」「ひげのある女の冒険」
「三人のびっこの男の冒険」「見えない恋人の冒険」
「チークのたばこ入れの冒険」「双頭の犬の冒険」
「ガラスの丸天井付き時計の冒険」「七匹の黒猫の冒険」の十編を収録。
好青年エラリーの活躍譚は、E・A・ポオやコナン・ドイルの伝統をくむ、
本格短編の一大宝庫である。

 アフリカ旅商人の冒険

応用犯罪学のゼミを頼まれ母校ハーヴァードを訪れたエラリイ。
そこで実地試験として3人の生徒を引きつれ、
ホテルで起きた殺人の現場へ検証に。
被害者はいかさま師のアフリカ旅商人。
数々の手がかりから生徒たちは真相を見抜けるのか?

エラリイ教授のゼミ、すっごい魅力的ですねー。
……いや、ミス・アイクソープのほうが魅力的かも(w

 首つりアクロバットの冒険

興行団《アトラス一座》の偶像・軽業師マイラが首つり死体で発見された。
犯行現場には、さまざまな凶器になりうるもの――
拳銃、ナイフ、ガス・コンロ、ハンマー――があるにもかかわらず、
犯人はなぜ面倒な首つりを殺害方法に選んだのか?

 一ペニイ黒切手の冒険

3万ドルもの値打ちのある有名な切手、
《ヴィクトリア女王の一ペニイの黒切手》盗難事件。

ミステリはとくにないし、キレもいまいち。
犯人の絞りかたや動機も弱いかなぁと。
ドイルの「六つのナポレオン」をクイーン式に改良したもの、
と解説(われらが中島河太郎氏)で指摘されています。

 ひげのある女の冒険

厄介なショウ一族の遺産をめぐる各々の思わくが事件の発端だった。
遺産相続の権利があるショウ家専属の医師が、
彼が趣味にしている画室で殺されたのだ。しかも、彼は死の直前、
レンブラントの複製品《画家とその妻》の絵に描かれた女の顎に、
ひげを書き加えていたのだった……。

ダイイングメッセージですね。なにを意味するかレッツ推理!

 三人のびっこの男の冒険

銀行家が誘拐され、その情婦が殺害された。
その現場の絨毯には、それぞれ異なった三足の男の靴跡があり、
警察の足跡専門家によると、その三人ともがびっこらしいのだ。
そのような犯人一味がありえるのか?靴跡が指し示すものとは?

 見えない恋人の冒険

ニューヨーク州コーシカの町(人口745人)での事件。
人望のある青年ボウエンが殺人容疑の罪に問われている。
ガールフレンドをめぐるいざこざのさなか、ライバルの男が射殺されたのだ。
義憤を胸にエラリイは調査をはじめるが――

聖ワルプルギスの夜祭はよかったな。
タイトルもトリックもクールな作品。

 チークのたばこ入れの冒険

ある高級アパートで窃盗事件が多発していた。
それを非公式に捜査してもらうため、クイーン宅をおとずれた管理人。
だが、そこにクイーン警視から一本の電話があり、
それはそのアパートで殺人が起きたという報せだった。
さっそく現場に駆けつけたエラリイは、被害者の所持品であるはずの
チーク材のたばこ入れが紛失していると推理し――

ジューナも出てたよ。

 双頭の犬の冒険

デューセンバーグをとばすエラリイは、
異様な看板がかざされた旅館《双頭の犬》へ行きついた。
オーナーと宿泊客たちの歓迎を受け、
最近この旅館で発生した、宝石泥棒の宿泊と、
その部屋から聴こえる不気味な音の話を聞かされる。
そして深夜、そのいわくのあるキャビンに泊まった客が惨殺された!
盗難事件の真相と幽霊の正体とはいったい?

怪奇じみた雰囲気がひたひたでいい。
284ページで「Banzai」とこおどりするエラリイが見られます(w

 ガラスの丸天井付き時計の冒険

骨董店の主人オールが凄惨に殺害された。
その間際、最後の力をふりしぼり、
ガラスの丸天井付き時計を引き寄せ、紫水晶をにぎって。

ダイイングメッセージもの。
エラリイいわく「あまりにも簡単」な事件。
しかし……いやはや(^^;
301ページの日付けがヒントなのですが……。

 七匹の黒猫の冒険

ジューナの勅諚によりペットショップへ
アイリッシュ・テリアを探しにきたエラリイ。
そこの店員に不思議なお客の話を聞かされた。
その客の寝たきりの老婆は猫がきらいなのにもかかわらず、
毎週1匹ずつ緑色の目をした雄の黒猫を注文していた。
そのなぞの目的に興味を持ったエラリイは
店員を連れ、老婆のアパートに乗りこむが、
老婆も7匹の黒猫も失踪していた――

ネコミス。
なぁんかいろいろ腑に落ちない作品。
猫の毒味はいいけど、1匹でじゅうぶんじゃないか?通報するのに。
犯行動機も単純なのに残忍だし、そこまでせっぱ詰まってたのかなぁ。
愛猫家なら首をかしげる部分も。

ところでエラリイには、

「年寄りで、病身の婦人が、猫にのぼせる――
 おお、ちゃんと話は合っていますよ。
 ぼくにも以前、それとよく似た叔母がいました」(P.335)

らしい(w


※原書第11編めの作品「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」は、
 「世界短編傑作集4」に収録されています。ダルぅ。
The New Adventure of Ellery Queen 1940 

「エラリー・クイーンの新冒険」井上勇訳 (創元推理文庫)
長編の名手クイーンは短編の名手でもある。
『新冒険』には、堂々たる大邸宅が忽然と消失するという
大トリックの中編「神の灯」をはじめ、
「宝捜しの冒険」「がらんどう竜の冒険」「暗黒の家の冒険」
「血をふく肖像画の冒険」「人間が犬をかむ」「大穴」
「正気にかえる」「トロイヤの馬」の全九編を収める。
好青年エラリーの活躍譚は、E・A・ポオやコナン・ドイルの伝統をくむ、
本格短編の一大宝庫である。

 神の灯

突然、知人の弁護士ソーンに波止場へ呼び出されたエラリイは、
イギリスから船でやってきた娘アリスと合流し、わけのわからぬまま
ロング・アイランド郊外のある邸宅へたどり着いた。
それは築75年のお化け屋敷じみた《黒い家》と呼ばれる邸宅と
《白い家》と呼ばれる比較的新しい住居の二棟。
最近この邸の主が死去したため、娘のアリスが遺産相続を理由に召喚され、
ソーンはその背後に不穏なにおいを感じとり
エラリイに助力を望んだのだった。
……そんなぴりぴりした雰囲気に一同は消耗し、すぐに就寝。
そして一夜明けた翌日、みながあ然とするできごとが。
遺産が隠された《黒い家》が跡形もなく消え去っていたのだ――

カーも乱歩も絶賛するクイーンの貴重な大トリック。
まあ、よくある双子の入れ替わりトリックを
人間から建物に転用しただけなんですけどね、
それでも見せかたがさすがで破壊力はばつぐん。
しかも建物だけじゃなく人間もしっかり入れ替えてるし。
犯人が割れたときのゾクゾク感も鮮烈だわ。

 宝捜しの冒険

急峻な断崖に囲まれ、岩棚に建てられた退役軍人の山荘に
招待されたエラリイは高価な真珠の首飾り盗難事件に遭遇した。
閉鎖的な土地だったため、徹底的に捜索するも手がかりはゼロ。
そこでなぜかエラリイは宝捜しゲームを提案するのだが……。

宝捜しに秘められた罠がたのしく小気味いい一話。

 がらんどう竜の冒険

熟睡中のエラリイはジューナにベッドからひきずり出され、
不承不承、唐突な訪問客の女と対面した。
彼女は病身の日本人輸入商カジワ・ジトの看護人で、
つい今しがた何者かによって襲撃されたという。
さらに数ドルの価値しかない石鹸石に竜の浮き彫りが
ほどこされたドア・ストップが盗まれたと知ったエラリイは
興をそそられデューセンバーグを現場へ走らせた。
そこではジト氏が行方不明になっており……。

いつもながら向こうの東洋を見る目はおもしろいわぁ。

 暗黒の家の冒険

ジューナにせきたてられジョイランド遊園地に
やってきたエラリイはアトラクション"暗黒の家"へ踏みこんだ。
光が完全に遮断されたそのなかで、男の射殺体が発見された。
さらにその男は12フィートもの距離から撃たれたという。
犯人はいかにして暗闇を味方に犯行をなし遂げたのか?

遊園地にうかれてるジューナがほほ笑ましい。
対してエラリイ、ジジ臭いぞっ!(ルンルンはしゃがれてもイヤだけどw)

 血をふく肖像画の冒険

避暑地ナチトウクへ招かれたエラリイ。
その地の名士グラメートンと知りあい、
その一族に伝わる肖像画の伝説をきかされた。
グラメートン家に嫁いだ妻たるものが
不貞を働くと肖像画が血をふくというのだ。
はたして現在、グラメートンの細君がある男に執拗に言い寄られており、
あくる日、言い伝えどおり肖像画が血をふき、
その男はこつ然とそのすがたを消したのだった……。

んー、伝説のほうは伝説でしかなかったのかな……。

 人間が犬をかむ

ニューヨーク・ジャイアンツ対ニューヨーク・ヤンキースの
ワールド・シリーズを観戦にきたエラリイご一行。
そこで元投手と女優たちの三角関係とサイン攻めを目の当たりに。
そして試合開始直前、ホットドッグをほうばっていた
元投手が失神してしまい、やがて毒殺と判明する。
試合のことしか頭にないエラリイは探偵業をやりとげられるのか?

ここからは「ハートの4」のポーラ・パリスが
ゲスト出演し活躍するスポミスが4本つづきます。

エラリイはジャイアンツの熱狂的なファン。
タイトルはホットドッグをかじるダジャレ。
ニューヨーク・サン紙のチャールズ・アンダソン・ダナの、
「犬が人をかんでもニュースではないが、
 人が犬をかめば、それこそニュースだ」の言がソース。

ちなみに、じっさいの1939年度のシリーズは
ヤンキース対シンシナティ・レッズ。
ヤンキースの4連勝で世界一に。
クイーンが執筆したのは6月なので予想ははずれたもよう(^^ヾ

 大穴

ハリウッドで競馬をたねにした物語を書くよう指示された
エラリイだが、競馬に関してまったくの無知でくさっていた。
同情したポーラが一肌脱ぎ、知りあいの調教場に案内することに。
そこで次のレースの有力な競走馬《デンジャー》と、
牧場内にただよう不和不穏の空気をしっかり見物。
……レース当日。
スタートの間際、《デンジャー》号が射撃されてしまい――

うーん、展開はとことん本命だな。予想通りすぎる。
シメの大穴は物語の特性にマッチしていてバッチし。
おっと、あぶない。(デンジャー)

EQMM(1959年3月号)に再録した際、
レース見物の映画スターの名前がほとんど変更された小ネタあり。

 正気にかえる

ヘビーウエイトの世界選手権の記事をとるため、
NYへかけつけたポーラは、Q親子をさそいスタジアムへ。
賭けの相場は3対1でチャンピオンに分があったが、
試合の結果は挑戦者の一方的な勝利に終わった。
その試合後、駐車場の車内で元チャンプが死体で発見され……。
彼はいつだれになぜ殺されたのか。

ハンサムで肉体美の挑戦者にのぼせたポーラ。
それにやきもちを焼くエラリイがナイス(w
エラリイはかわいい人を正気にかえすことができるのか?
(こっちのほうが興味ぶかいミステリである、まったく)

 トロイヤの馬

カロライナ対USCのフットボール試合を観戦するため、
USCの名物卒業生パップ・ウィングから
チケットを巻きあげようともくろむポーラ嬢(とエラリイ)。
彼と対面し、ご機嫌をとり、なだめ、すかし、
なんとかローズ・ボール(競技場)へと招待されたのだった。
そして試合当日の道中。
彼は結婚をひかえた娘に贈る11個のサファイヤを披露。
だがこれが、試合開始前に紛失してしまった。
エラリイはわずかな捜査範囲をあらうも見つからず。
サファイヤを盗んだ犯人はそれをどこに隠しえたのか?

クイーニキンズ、クイーニー、と甘ったれるポーラ。
しかしちょっと結婚をにおわせたとたん、
エラリイは青くなって、食べ物をのどに詰まらす始末(w
エラリイにとってはポーラさえトロイの木馬なのだろうか……?
Calender of Crime 1952 

「犯罪カレンダー 1〜6月」宇野利泰訳 (HM文庫)
「犯罪カレンダー 7〜12月」宇野利泰訳 (HM文庫)
新年、独立記念日、ハロウィーンやクリスマスまで、
毎月の行事にちなんだ十二の犯罪を描く推理アラベスク。
殺人、盗難、暗号解読、宝捜しなど趣向に富んだ謎の数々に
名探偵エラリイ・クイーンの頭脳が挑む。
短篇の名手であり、また同時に優れたアンソロジストでもあった巨匠が、
精魂を込めて編み上げたミステリ歳時記。

いずれもその月の行事に関係する構成。
導入部がすべて故事来歴によるのも特徴。
アメリカンな記念日や習慣が多いのはご愛嬌。
秘書のかあいいニッキイ・ポーターが全話に登場します(※)

※もともと、Qがラジオドラマ用に書いた脚本を
 自身が小説化したのが本書故


 1(JAN) 双面神(ヤヌス)クラブの秘密

イースタン大学、1913年の初代卒業生が組織した双面神クラブ。
全11名で、現在の生存者は4名。
そのうちのひとり、アップダイクがエラリイの元を訪れる。
クラブには秘密の巨額の基金があり、
最後に生き残ったものが、全額を受け取るという。
その積み立て金を手に入れるため、メンバーのだれかが
殺人を働いているかどうかの調査をエラリイは依頼された。
そして数日後、アップダイクが自動車事故により死亡してしまう――

Qはトンチ保険年金組合が好きね(^^;

 2(FEB) 大統領の5セント貨

ジョージ・ワシントンがある一件で世話になった農場に、
密かに愛用の長剣と銀貨を埋めていったと、
非常に古い日記に書き残されていたのを発見したマーサ。
経営資金に困窮していた農場の娘マーサは、
日記と長剣と銀貨をその道の収集家たちに買取りを、
エラリイに埋蔵された場所の探偵を依頼する。

時を越えたワシントンとエラリイの知恵比べ的趣向が光ります。
マーサにやきもち焼くニッキイもかわいい。

 3(MAR) マイケル・マグーンの凶月(まがつき)

元クイーン警視の部下、私立探偵マイケル・マグーンが
なじみでもあるエラリイの救いを求め、飛びこんできた。
彼のカバンの中身が盗難にあったという。
だが、中身は所得税の確定申告書などで、
とくべつ問題はないように思われたが、
そのうちのひとつの書類が依頼人の富豪の恐喝に利用できると
エラリイが指摘し、調査をはじめるが――

確定申告書を心配するマグーンの叫びが
相手にされないのが哀れっぽくていい(w

 4(APR) 皇帝のダイス

クイーン警視にさそわれ、エラリイは気は乗らないものの、
片田舎のハガード家へ訪問することに。
そのハガード家では10年前、迷宮入りの殺人事件があったという。
当時の当主がいわくつきのダイスを2つ握りしめ、
なぞの死を遂げていたのだ。
それからというもの、残されたハガード家と
家族たちは異様な雰囲気に包まれ――

ほら、4月の行事といえばまっ先にあれが思いつくじゃないですか?
日付けのあるミステリでこの日が近いと、かならずや警戒しますよね?
で、まさにそれだったと(w

 5(MAY) ゲティスバーグのラッパ

エラリイがまだうら若い日だったころの事件。
ひと仕事終えたワシントンからニューヨークへの帰途、
ゲティスバーグへ寄道し古戦場を観光していると、
雷雨に襲われ、車は故障してしまう。
運よく近くにあった小さな家に助けを求めると、
医師で村長の主はこころよく泊めてくれるという。
その晩、戦没将兵記念日(メモリアル・デイ)のイベントに関するある話を聞き、
犯罪のにおいに興味を持ったエラリイは参加することに。
果たして、記念日当日、南北戦争の生存者がラッパを口にし倒れ――

またもやトンチ式配当。
しかし犯人は問題ないとしても、確証の提示は必要かと。

 6(JUN) くすり指の秘密

"六月に結婚するときは、男には繁栄が、女には幸福が約束される"
古代ローマから伝わる女神ユーノ(Juno)に因することわざ。
日本でもおなじみ、テーマはジューンブライドです。
海外の神さまのご利益をじめじめした梅雨の日本で求めるな。ぺっ。

さて、ストーリー。
リチャード・トロイの長女ヘレンは、
大詩人ホメロスの叙事詩「イリアス」に描かれている"トロイ戦争"で
絶世の美女と称されるヘレンの名にふさわしい成長をとげた。
そして、彼女の前にふたりの求婚者があらわれる。
証券マンのイエーツと貴族ながら粗暴なラッズである。

イエーツはあえてラッズとヘレンをひきあわせる。
思惑どおり、ラッズはいやがるヘレンにつきまとい、
ついには公衆の面前で暴れ、ヘレンはイエーツの元へ、ついに婚約。
だが、それを知ったラッズは激昂し、結婚しようものなら殺してやると宣言。
ところが後日、手のひらを返したようにおだやかに謝罪するラッズ。
それでも安心できないリチャードはエラリイに相談し、
結婚式当日まで、警護を行うことになったが――

ミステリの部分はあれだけど、
事件の解決の仕方というか、オチはすばらしい(w

 7(JUL) 堕落した天使

数年ぶりに偶然、友だちのドロシーと再会したニッキイ。
エラリイの秘書としての仕事をすて、彼女の邸宅へ招かれる。
そこでドロシーの夫・マイルズを紹介されるも、
彼女は夫以外の男性に惹かれていると知る。
そして数刻後、彼の頭上から"天使"のオブジェが落下してきた。
間一髪、直撃はまのがれたものの、
事故ではなく故意によるものとし、エラリイに出馬を要請するが――

アメリカで7月(4日)はもちろん、独立記念日(Independence Day)。
といっても、軽くトリックに利用されている程度。
全体的にも序盤に明言を避けているくらいの伏線では弱いか。

哲学者マーカス・タリウス・キケロと"火"と"水"の命題はなかなか。

 8(AUG) 針の眼

海賊キッドと掠奪された財宝の物語。
舞台はロングアイランドの諸島。
月長石とけしの花の季節、8月。
うんちくは本書参照として、月の主題はとくになし。
真夏、小島、大海、海賊、伝説、秘宝、冒険……。
8月っぽいといえば8月っぽい――のか?(^^;

事件もグズグズで、被害者がかわいそう(´・ω・`)

「よいしょ、よいしょ」
とニッキイは、かわいいはだしを見せて、狂ったように走りまわった。

――不覚にも萌えころがる(;´Д`)

 9(SEP) 三つのR

バーロウ大学学長から悲痛をきわめた手紙がエラリイの手元にまいこんだ。
時計を合わせるなら彼に訊けといわれるほどの、
几帳面なチップ教授が、新学期になっても姿を現さないという。
犯罪に巻き込まれた可能性もあるので、
エラリイに捜索を依頼したいとのこと。

すぐさまエラリイはバーロウ博士のもとへ駆けつけ、捜査を開始。
そこで血痕や、ポオの「タマレーン」の初版本の喪失、
そしてチップ教授が筆をとったらしい「三つのRの謎」という
タイトルの推理小説風の草稿が発見される。
その筋書きは今度の事件に酷似していた!

これ、二重の作中作なのかな?とか思ったら、4月といっしょかよ(w
レイバー・デー(9月の第一日曜日,労働・勤労の日)になにやってんだか(w

 10(OCT) 殺された猫

エラリイの家にニッキイ宛のあやしい封筒が届けられる。
魔の黒猫会の秘密集会への招待状だった。
入場の条件は全身黒猫の衣装に仮面着用とのこと。
心底げんなりしたエラリイは断固、辞退するものの、
結局、ニッキイにつき合わされ……。

そして、パーティは進み、余興のひとつ"殺人ゲーム"をやることに。
部屋を暗闇にし、犯人役が被害者役を選び、
探偵役(むろん、エラリイ)が犯人を当てるというもの。
ところが、本当に参加者が殺され――

万聖節前夜祭(ハロウィン)とはいえ、コスプレまでやってのけるエラリイ(w
どうにもまぬけな展開(暗闇で物にぶつかり痛がったり)が続きますが、
トリックと事件解決までの論理はいい感じ。

しかし、解説によると"あの時期"なんですよねぇ、なんか複雑(w;

 11(NOV) ものをいう壜

感謝祭(11月の第四木曜日)。
ニッキイは貧しい人々にささやかなご馳走を配る慈善活動に。
それについての議論で文句たらたらのエラリイも、あわてて同行。
その途中、(エラリイが本来の指針と考える)ケアリイおばさんの家を
訪ねるもすでに引っ越ししてしまっていた。
行き先を尋ねるために寄った近所のフランス料理店で、
ついでに食事もすることに。
この店にどうにもいやな印象を受けたニッキイは出ようとするが、
エラリイは調子がおかしく聞く耳持たず。
そして食事も終わり、店を出ようとすると、
給仕からコカインを手渡される……。

あらためて、ケアリイの家へ向かおうとするものの、
車が故障(※)してしまい、タクシーをひろい到着。
そこでケアリイの夫と麻薬に関する犯罪が姿を見せ――

犯人側も探偵側もちぐはぐです。
エラリイもさえず、警視に怒られる始末。
その延長のクイーン父子の会話。

「見えない男か。チェスタートンだな」 「なんだ、おまえはやつの名前だけは知っていたのか!」 「ち、ちがいますよ、お父さん――」
いいなあ(w ※古いヨーロッパ製の自動車。あの愛車?  12(DEC) クリスマスと人形 神出鬼没の怪盗コーマスからの挑戦を受け、 クリスマス商戦に沸くデパートに名探偵エラリイと 父クイーン警視が敷いた水も洩らさぬ警備陣。 怪盗の狙いは、展示中のフランス皇太子のものと伝えられる 49カラットの青ダイヤがはめこまれた貴重かつ高価な人形。 だが厳重な警備のもとから人形は忽然と消え失せた! ――警視の料理とエラリイのプレゼントのほうが興味あるな(w 1月のように"公教問答(カテキズム)に似た形式"が使用されるのが、 ラジオの台本っぽくて興味深いですね。
Queen's Bureau of Investigation 1954 

「クイーン検察局」青田勝訳 (HM文庫)
クイーン検察局の秘密ファイル公開!
ワンマン検察局の名探偵エラリイ・クイーンが、
殺人課、麻薬課、不可能犯罪課などの課に
それぞれ当てはまる難事件を快刀乱麻を断つごとく解決する。
「金は語る」「代理人の問題」「九官鳥」「変り者の学部長」等、
軽妙洒脱な知的パズル十八篇を網羅する傑作短篇集。

短編集ではなくショートショート集ですね。
小説というよりは梗概というべきかも?謎の提示と解決編だけというか。
なお、タイトルのイニシャルで「QBI」になります(FBIのもじり)

 〔恐喝課〕金は語る

貧しくも誠実な下宿屋の母と
オペラ歌手を夢見てレッスンに励んでいる娘が脅迫されていた。
娘の父親には二重結婚の汚点があり、
金を出さねばその事実を公表するという。
やつれ困りはてた下宿のおかみはエラリイに相談する。

ミステリ全般で定期的に見られる英語と米語ネタ。

 〔偽装課〕代理人の問題

コロラド州ウィキャップは空前絶後のにぎわいを見せていた。
拳闘史上最大のビッグゲームの開催地になったのだ。
だが試合当日、挑戦者が何者かに誘拐されてしまった!
身代金の引渡し役にエラリイが選ばれるが――

ボクシング用語だけでなぐったらあぶないと思うんだけど(w;

 〔不可能犯罪課〕三人の寡婦

富豪フッドの再婚相手セーラは前妻のふたりの娘を牽制した。
セーラは毒を飲まされるもさいわい大事にはいたらなかったが、
犯人は義娘のどちらかが遺産目当てで自分を狙っていると判断。
医師と弁護士をたて、エラリイに診断もたのみ、
常に警戒していたが十日後、セーラは毒で死亡してしまう。

まんまと出し抜かれたエラリイはじつに46時間の推理を決行した(^^;

 〔珍書課〕変り者の学部長

シェイクスピア=フランシス・ベイコン説を打ち崩す
貴重本がついに発見されたという学部長。
その本の代金一万ドルを所持していたが、何者かにおそわれた!
恩師のかたきを討つべくエラリイが立ちあがる!

スプーナリズム(※)はいいんだけど、人名までやるものなのか(^^;

二語以上の単語の最初の音を互いに入れちがって発音する誤り
オックスフォード大学のW・A・スプーナー教授がよくこの種の誤りをした

 〔殺人課〕運転席

フォア・ブラザーズ鉱山会社の"運転席"に座っていた
ビッグ・デイブが死んでしまった。
妻デイジイはデイブの3人の弟が散財を重ねているのをしり、
経営同意書に基づき処分した株を最初の値で買い取ると宣告。
青ざめる兄弟たち――そうしてデイジイは殺された。
クイーン警視に呼びつけられたエラリイは
現場にのこされたレインコートを観察し、
たちまち事件を解決してしまう。その決め手とは?

タイトルがまんま答えってのも乙である。

 〔公園巡視課〕角砂糖

汎用悪党が殺された――ひとつの角砂糖を握りしめ。
容疑者は大政治家、財界のドン、政党幹部。
不用意に尋問しようものなら
首がいくつあってもたりないクイーン警視はエラリイに泣きつくが。

ダイイングメッセージもの。
しかし、父親のピンチですよ、
こんなときにかぎって原稿に夢中のエラリイって(^^;

 〔未解決事件課〕匿された金

ホテル・チャンセラーの913号室から運びだされた男は
警官にかこまれ、給料強盗の罪で懲役十年の判決を受けた。
10年後。
ホテル・チャンセラーの913号室から運びだされた男は
他殺体になっており、10年前とおなじ人物だった。

10年前に男の強奪した金は発見されておらず、
どうやらこのホテルの部屋に隠されていたらしい。
エラリイは死体のきれいな顔から犯人を導きだす!

 〔横領課〕九官鳥

天涯孤独な老婦人は100万ドルの遺産を38羽の九官鳥に遺した。
彼女は天寿をまっとうせず、卑劣な人物たち――
弁護士、医師、コンパニオン――に殺されたのだ。
だが、3人はたがいにアリバイを主張し、実行犯は不明。
九官鳥に助けられ、エラリイが切った真実とは?

 〔自殺課〕名誉の問題

シェイクスピア研究家でもあるヤードのバーク警部は、
ある7通の文書埋葬のため、ニューヨークをおとずれた。
しかし、その翌日。この勅命をしくじったのか、
バークは宿泊先のホテルで拳銃自殺してしまう。
遺書らしき文書も遺されていたが、エラリイは納得いかず……。

おお、また英語米語ネタ(w

 〔強盗課〕ライツヴィルの盗賊

ライツヴィルにスキーをしにきたエラリイだが、
タクシー運転手によると雪が少なく無理だという。
さらに彼の親戚が厄介な問題に巻きこまれており、
エラリイ・クイーンに出馬を要請する。
事件は現金15000ドル強奪と単純なものだったが、
被害者は上流階級の堅物で、容疑者はその義理の息子だった。

ライツヴィルものの魅力がしっかりからめられた一作。
この、最後に下腹部がきゅ〜となる感じ。すてきにこわれてる。

 〔詐欺課〕あなたのお金を倍に

"金を倍にするグルース"の異名どおり、
彼に投資するといつも倍額になって返ってきた。
やがて評判となり大勢の顧客が行列をなした。
この事態に詐欺の疑問をいだいたエラリイは警視を連れ、
グルースの事務所で彼をおどしてみることに。
しかし、しばし待たれよと私室に入っていった彼は
煙のように消えてしまった!

人間消失トリックのからくりとは?

 〔埋宝課〕守銭奴の黄金

守銭奴のマラーチおやじは召される間際、
親切にしてくれた医師と女性に全財産をたくした。
マラーチは質屋を営んでおり、ポーに倣い、
財産はこの建物のどこかに隠したというが……。

エラリイは宝捜しもよくやるよね。
パズルはキャビアのように好物らしいが、気安くよばれすぎや><

 〔魔術課〕七月の雪つぶて

冷酷な宝石強盗ジムに捨てられそうになった情婦が逃げだした。
男の秘密を知りすぎていた女リズは
このままでは殺されるとわかっていたからだ。
ジムをあげるためぜひとも身柄を確保したい当局と
保身と復讐に走るジムのリズ争奪戦!

タイトルは護送に使用された列車"雪つぶて号"から。
これが車両ごと行方不明になるトリックは目をみはりますが
真相はこんな感じ→(´・д・`)

 〔偽相続人課〕タイムズ・スクエアの魔女

"魔女"とよばれた女は病床に臥したとき、光を見た。
回心した老婆はその生涯でこつこつ貯めに貯めた財のすべてを、
生き別れた親族に贈りたいといいはった。
調査の結果、浮上したのはひとりの甥。
だが、我こそが甥であると名乗る人物がふたりあらわれ……。

読者への挑戦付き。
フェアなのかなぁ?(w
ちなみにエラリイ、座骨神経痛で10日間寝たきり状態。

 〔不正企業課〕賭博クラブ

17人の引退した一流実業家たちの協会〈賭博クラブ〉。
そこに匿名の、おいしい株の予想がなされた手紙が舞いこみ、
大もうけすること数回、だんだん不安になってきたメンバーが
エラリイにどうすべきか意見をあおぐが――

か、簡単にしっぽ出すわねΣ(´Д`)

 〔死に際の伝言課〕GI物語

壮絶な決心を胸に、こりずにスキーへやってきたエラリイ。
だが、ああ、山小屋に到着したとたん、署長からの電話が。
家具屋の老人が殺され、"GI"というダイイングメッセージを遺した。
犯人の確信が持てないデイキンはエラリイに探偵を依頼する。

ライツヴィルのわりにはあっさりしてら。

 〔麻薬課〕黒い台帳

その黒い台帳には合衆国全土における麻薬の密売人リストが記してあった。
ふたりの捜査員が命を代償に入手したこの手帳は今ニューヨークに保管され、
ワシントンへ届けるべく、エラリイは旅だった。
しかし、麻薬組織がみすみすそれをゆるすわけがなく、
エラリイはすぐに捕らえられてしまう。
さっそく徹底的に所持品、身体検査を受けるが、台帳は不在。
解放されたエラリイは無事、ワシントンへ台帳を届けたのだった!

いうなればエラリイが犯人ですね。
どこに台帳を隠していたのか?
まあ、ミステリになってるかどうかはあやしいけど。

 〔誘拐課〕消えた子供

両親が試験的別居をしている少年ビリーが誘拐された!
そして送りつけられた脅迫状。
2時間後に現金5万ドルをロサンゼルス市の歩道に届けろという。
しかし、ここはマンハッタン、
到底無理な相談にエラリイがくだした裁断とは?

なんとなく読めるけど、いい話。これにて閉局。
Queen's Full 1965 

「クイーンのフルハウス」青田勝訳 (HM文庫)
殺されたのは国防省のある極秘計画に協力していた博士で、
手にはメモ用紙が握られていた。
しるされた手書きの文字はEと読めたが、
紙片を回転させると今度はMに、さらには3、Wにも見えてきた!
博士が書こうとした文字とは?
ツイストのきいた「Eの殺人」をはじめ、
魅力いっぱいの五篇を収める傑作短篇集

中短編集。5話収録。
3篇のノヴェレット+2篇のショートショート
タイトルの通り、そこそこ綺麗にまとまってますね(w

 ドン・ファンの死

ライツヴィルの新劇団で起きた殺人事件。
幕間に襲われた主役の被害者は死の間際、
「ザ・ヘロイン(女主人公)」と言い残し、こと切れた……。

まあ、フーダニットは単純です。推理して当ててみましょう。
動機は――伏線があれなら日本人には無意味(w
ライツヴィルらしからぬけど、クイーンらしいエンドもいい(^^)

 Eの殺人

ショートショート。
"E"と見えるダイイングメッセージもの。
これはね、なんでもありじゃん(^^;

 ライツヴィルの遺産

ライツヴィルが舞台。遺産相続もの。
当主の遺産を後妻ベラが受け取り、
その遺産を三人の放蕩息子たちから、
親切にしてくれたコンパニオンに遺すと
遺書を書きかえようとした矢先、ベラは殺されてしまう。
そして、今度はコンパニオンが狙われはじめ――

なんでしょう、"逆殺人"とでもいいましょうか。
そこはおもしろい。
ラストは(ベラの意思的に)あれでいいのかなあ。

 パラダイスのダイアモンド

ショートショート。
エラリイが扱った最も短い事件。

有名なダイヤのコレクターが賭博場でイヤリングを盗まれる。
折よくその賭博場に、クイーン警視率いる警察の手入れがあり、
容疑者はすぐに挙げられるものの、
肝心のイヤリングは見つからず。果たしてどこに――

コレクターのラ・ミンクスのキャラがとてもいい(w

 キャロル事件

弟のトラブル解決のため大金を横領した弁護士キャロル。
しかし協同者のハントに発見され、すぐに返金しないと告発するという。
翌日。ハントは射殺体で見つかり、
アリバイのないキャロルは殺人容疑をかけられる。
キャロルの疑いを晴らすため、奔走するエラリイ。
だが手がかりはなにもえられず、裁判は進んで行き――

死刑執行からの緊張感の持続が秀絶です。
ミステリのお約束としては反故しているかもしれないけれど、
これも(中期以降の)クイーン特有の味なんですよねぇ。エラリイ……(ノД`)
ウエストの友情も泣ける(;_;)
単純ながらタイトルもこれ以外にないですね。


※なお、本書巻末に中短編リスト付き
Queen's Experiments in Detection 1968 

「クイーン犯罪実験室」青田勝訳 (HM文庫)
ポーとリンカンの署名付稀覯本が売りに出されたが、
売主は公平を期すため、それをある場所に隠し、
発見した者に獲得させることにした。
ところが売主は急死してしまい、隠し場所を示す記号だけが残された……
暗号に挑戦する歴史ミステリ他、知的パズル16篇。
クイーンはすべての謎を解決するが、さて、あなたは?

犯罪実験室、というだけあってテーマが充実です。

・ダイイング・メッセージ中編
・推論における現実的問題
・新クイーン検察局
・パズル・クラブ
・歴史ミステリ

なお、タイトルのイニシャルで「QED」になります。

 菊花殺人事件

1964年の大晦日。
ゴッドフレーの70回目の誕生日と新年を祝う席上。
法律事務所に委託していた彼の財産が横領され、
彼はなけなしの遺産しか遺せないと告白。
だが、菊花いじりが趣味の彼は、彼にしか開けない、
特製の隠し金庫に明治天皇の父君である孝明天皇から下賜された、
菊をかたどった首飾り(百万ドル相当)を所持していた。

数日後、発作を起こし脳血栓で倒れたゴッドフレー。
そんな重体の彼を何者かがジャックナイフで襲った!
死に瀕したゴッドフレーは"MUM"とメモし、事切れる。
新年早々、ふらりとライツヴィルを訪問していたエラリイは
警察署長に非難をぶつけられながら調査に乗りだす。

ダイイング・メッセージもの。
さらにエラリイは金庫をあばくも、首飾りが紛失してたり、
英語米語ネタの逆トリックやWW、勝手にマジレストリックもある力作。


 実地教育

4月22日金曜日の午前。
エラリイはヘンリー・ハドソン高校へ向かっていた。
そこの女教師に非行傾向が目立ちはじめた生徒たちに
現実の犯罪者の悲惨さを話してくれとたのまれたのだ。
教室についたエラリイは、そこで7ドル窃盗事件に直面した!

タイムリミット(一時間目が終わるまで)と、
あせるエラリイの心理が見事。説教もかなり好き。

 駐車難

3人の魅力的な男性に熱烈に求婚された女優モデスタ。
悩みぬいたあげく、ひとりの男性の愛に応えたその矢先、
彼女は自宅で撃たれてしまった!
犯人は愛に破れた男のひとりなのか、駐車難の町をエラリイが動く。

だだっ広いあちらでもさすがに駐車難なのね。
この"推論における現実的問題"4本は社会派だわ。

 住宅難

詐欺師ブロックはアパートを又貸しし暴利をむさぼり、
アパート住人の現金盗難事件の犯人を見つけるも
山分けを強要するなどしていた。そして射殺された。
あやしげな住人が多く暮らすこのアパートから
エラリイは殺人犯を見極められるのか?

どうにも狂騒とした作品(^^; 冒頭構成がかっこいい。

 奇跡は起る

多くの人を苦しめていた違法な高利貸しタリイが殺された。
容疑者はタリイと最後に面会していた、
難病の娘をかかえるヘンリーだった。
父にさそわれるも興味を持たなかったエラリイだが、
ヘンリーの妻に泣き付かれ現場へおもむく。

証拠がないことが無罪の証拠、すてき。

父親の給料日恒例のキャンデー・バーのお土産をあさり――
「またこんなにちっちゃいの!」末っ子のサルが、 まわらない舌で不平らしくいった。 「大きいんだといいなあ!」五歳のピートが鼻声で叫んだ。 十歳になって、暮らし向きというものを知っているエディは、 自分の取り分をとっただけで、さっさと行ってしまった。
――の部分が妙に好きだ。放恣なのになぜだか癒える(´ω`)  〈賭博課〉さびしい花嫁 出会ってすぐに結婚した夫婦の夫が失踪した。 彼は金回りがよく、飽きるほど浪費していたのだが、 妻はその大金の出どころをようやくいぶかしんだ。 彼は、だれで、なぜ、どこに消えたのか? ダイイングメッセージ系、死んでないけど(^^; しかしあのごつそうな犯人はなぜお人形を手に取ったんだろう? 暴力傷害と砂糖菓子が好物らしいので、かわいい一面の伏線?(w;  〈スパイ課〉国会図書館の秘密 クイーン警視の昔の相棒で、エラリイ自身もよくキャンディを もらっていたファインバーグ警視に招かれたエラリイ。 国会図書館での麻薬取引の暗号解読をたのまれた。 本好きエラリイの発想の回転がたのしい。 読者もいっしょに推理?できるわけねぇ……!  〈スパイ課〉替え玉 タバコ店に潜入調査をしていた諜報員が殺された。 死の直前、"MIX C"とレッテルが貼られたタバコの罐を抱きかかえ。 またもダイイングメッセージ。 よくあれだけのメッセージを一瞬で考え残せるもんだ。  〈誘拐課〉こわれたT 汚職事件の証人の女性が誘拐、脅迫された。 すっかりおびえた彼女は証言台に立つことを拒否。 エラリイはなんとか誘拐犯のアジトにつながる情報を 引き出そうとするが、手がかりは移動時間と"EAT"のネオンだけ。 ニューヨークからこの点を見つけだせるのか? べつにわざわざ誘拐する必要はないと思うんだ。  〈殺人課〉半分の手懸り 薬局の主人は3人の義理の子どもたちのことで悩んでいた。 3人から金を無心されたが、そのどれもが甘えたもので、 亡き妻の大切な財産を使うにはしのびなかったのだ。 あくる日、彼は自分の命が狙われだしたとし、 クイーン父子との相談しにきたが、その途中に毒殺されてしまった! 目の前でみすみす死なれてしまったエラリイは その瞬間に犯人を看破していた。その根拠とは? 被害者も心配なら警戒しようぜ、色だぜ(^^;  〈匿名手紙課〉結婚式の前夜 ライツヴィルの名家同士の結婚式前夜。 花嫁が匿名の手紙で結婚を解消しろと脅迫され、 さらに飲み物に大量の睡眠薬を混入されて昏倒してしまう。 花婿の未練を断ちきれない昔のガールフレンドたちがあやしいが、 匿名の手紙を元にエラリイがくだした判断は? わお、またきた英語米語ネタ!( ゚д゚ )  〈相続課〉最後に死ぬ者 執事を題材にした小説を書くべく苦心惨憺するエラリイ。 そこに女神が現われた。彼女の祖父は執事クラブの会員で、 わずかふたりだけ生き残ったこのクラブには かのトンチ氏年金法が採用されていた! それを理由にいがみあうふたりの執事。 仲裁を任されたエラリイだが、 現場に着くとふたりともすでに天に召されていた。 はたして先に往生したのはどちらの老人なのか? トンチ式は絶対最後気まずくなるさね(^^;  〈犯罪組織課〉ペイオフ クイーン警視が語った4人はアメリカ各界のドンだった。 合法的な金儲けが楽すぎ、スリルを求め犯罪に手を染めたという。 その中から親玉をつきとめるようたのまれた息子。 横領の罪をかぶり殺された会計士の ダイイングメッセージの意味するものとは? うーん、うーん(^^ヾ  小男のスパイ エラリイのもとに舞いこんだ手紙は、 〈パズル・クラブ〉からの挑戦状だった。 推理力をためす資格テストを行ない、 会員にふさわしいかどうか判断するという。 興味を持ったエラリイはさっそく招待に応じる。 そこで出された問題は、小男のスパイが 身に隠しつけていた機密情報のありかを問うもの。 エラリイはみごと解き明かし入会することができるのか?  大統領は遺憾ながら エラリイが加わった〈パズル・クラブ〉。 なんと今度は大統領を勧誘することに満場一致。 だが、当初は承諾してたものの、 多忙につき残念ながら欠席してしまう。 そこでエラリイがせっかくの会合を むだにせぬため即興のパズルを披露する。 ――4人の男に求愛されていたが、みなをそでにした女優。 そのうちのひとりが逆上し、彼女は殺されてしまう。 その間際、犯人は彼女と共通点のない男だと言い残し―― その共通点とは? 名鑑を参照にすればわかる人はわかるはず。  エイブラハム・リンカンの鍵 没落した自称公爵が多額の負債を背負ったまま死亡した。 彼にはふたつの財産―― リンカンとポーの署名本と愛娘――があり、 それを売却すれば娘ビアンカの再スタートを助けることができる。 しかし、その隠し場所の手がかりは "30dの中"というなぞの言葉だけ。 ビアンカはエラリイに助けをこうむるが……。 エラリイの親友としてハワード・ヘイクラフトの名が出たり、 リンカンやポーの作家クイーンとしての崇拝っぷりも見所。
The Tragedy of Errors and other stories 1999 SS

「間違いの悲劇」飯城勇三訳 (創元推理文庫)
往年の大女優が怪死を遂げたとき、
折悪しくハリウッドに居合わせたエラリーは現場へ急行する。
しかし、ダイイング・メッセージや消えた遺言状、徐々に明らかになる背景、
そして続発する事件に翻弄され、幾度も袋小路を踏み惑うことに。
シェークスピアをこよなく愛した女優の居城を
十重二十重に繞る謎の真相とは―。
創作の過程をも窺わせる、巨匠エラリー・クイーン最後の聖典。

A Fine and Private Place で、
未読の作品がもうないと盛り上がっててなんですが、
これが最後です(w

まあ、でも、作品は中短編(ショートショートが主)だけで、
The Tragedy of Errors はいうまでもなく未完成品ですからね。

ゆえに、本書はクイーンを制覇するくらい
愛していなければヘタに手を出すべき代物ではないし、
また、制覇をした人間ならばより一層 深い感動を覚えることでしょう。

では個別に。
なお、カッコの数字は目次のページ数です。


ミッシング・リンク中篇

 動機 (10)

クイーンの親子は登場せず。
アメリカ地方のノースフィールドで巻き起こる連続殺人事件。

発端は晴耕雨読を絵に描いたような
農夫の息子の少年トム・クーリーの失踪からだった。
およそ問題などない少年が行方不明になって、季節も移り、
ついに変わり果てた他殺体となって発見される。
そして、同様の手口で新たな犠牲者が――
平和な田舎町を襲う連続殺人鬼の影。
いずれも動機は不明。犯人は目的のない無差別犯なのか?

ん、タイトルからしてホワイダニットなのでしょうけど、
論理的に解決するはむずかしいか……。
いや、最初の会話から(車の破損具合)伏線は張ってありますけども。
ミステリよりラブサスペンスとして読むと吉。

クイーン検察局

 結婚記念日 (68)

ライツヴィルを訪ねたエラリイはニュービー署長に誘われ、
慈善家ミスターBの結婚記念日パーティに出席することに。
彼は宝石商で、この地では低評価につながる新参者ではあるものの、
その貢献度と人柄からだれからも愛されていた。
だが、パーティが進み、彼が秘蔵のリキュールを口にした直後、異変が。
瀕死の彼に毒を盛った人間に心当たりがあるかと問うエラリイ。
彼は自分のベストのポケットからダイヤモンドを取り出し、息絶え――

これをダイイング・メッセージとし、推理をはじめるエラリイ。
いったい、だれがなぜ彼に毒を飲ませたのか?

非常にライツヴィルらしい作品。
「神に誓う。ぼくはもう二度とライツヴィルに足を踏み入れない」

 オーストラリアから来たおじさん (92)

午後10時半を回り、エラリイがお気に入りの本――辞書!――を手に
ベットにもぐり込もうとしているとき、電話が鳴った。
相手はオーストラリアから来たというハーバート・P・ホール。
彼は30年前にイギリスを逃げ出した移民で、オーストラリアで富を築き、
その全財産の遺言状の準備のためニューヨークへやって来た。
その準備というのは彼の親族――若い姪ひとりと甥ふたり――の
なかからひとりを選ぶというもの。
結局、彼は財産を姪に譲るとし、遺言状の作成はしたものの、
彼女が早急に遺産を手中にするため、あるいは甥が逆恨みをし、
命が狙われるのではと不安になりエラリイに至急の調査依頼したのだ。

午後11時に彼が電話をしてきたホテルに駆けつけたエラリイ。
そこで見つけたのは背中にナイフを刺されたホールだった。
死にゆく直前、彼は「ホール」と言い残すが……。

これもダイイング・メッセージですな。
なんと、2行の「読者への挑戦」付き(w
事件は簡単なので論理的に犯人を当ててみましょう。

 トナカイの手がかり (101)

クリスマス前の子供動物園。
恐喝まがいの手口もいとわないゴシップ・コラムニストが
トナカイの囲いの側で殺されていた。
現場に居合わせた動物園関係者3名が容疑者。
手がかりは(トナカイたちの名前が書かれた)木のプレートに
瀕死のコラムニストが残した血のあとだが――

またもダイイング・メッセージ。
またも2行の「読者への挑戦」付き。
うーん、強引(w

これはE・D・ホックの代作。
ダネイが監修しているので原書では聖典扱いとか。
エラリイを起用したのはめずらしいですね。
ファン心理は微妙です、リーは死去してるんだから……。

原書といえば、エッセイや秘話逸話が満載だったよな。
なんだってまとめてカットされたんだろう。
そのうち出るのかな……。

パズル・クラブ

 三人の学生 (112)

エラリイを含めた6人のメンバーからなる〈パズル・クラブ〉。
開催日時は水曜日の午後7時半、会合場所はパーク・アヴェニュー。
その活動は、順番に会員が作ったなぞを
べつの会員が解答者となり解くこと。
(ここでは3話ありますが、解答者はすべてエラリイ)

今回のミステリは――
ゼーヴィア学長の部屋から指輪が盗まれる。
機会があったのは三人の学生のうちの一人。
手がかりは、現場に落ちていたナンセンスな詩文だけ。 

さらに2行の「読者への挑戦」付き。
真相解明は日本人にはきびしいけど語呂合わせは世界共通なのね(w

 仲間はずれ (122)

〈パズル・クラブ〉今回のミステリは、
麻薬捜査官殺害の犯人捜し。容疑者は三人。
だがエラリイは言い放った。
「あり得る答えが一つではなく、三つもある」
解答者が逆に出題者になってしまった。
その3つの答えとは?

ついでに1行の「読者への挑戦」付き。
エラリイは大好きな言葉遊びで絶好調。
メンバーの精神科医に
「クイーン君、自分にサディストの気があることに気づいていますか?」
といわれる始末。
後期のエラリイはむしろマゾヒストなんですけどね(w

 正直な詐欺師 (139)

〈パズル・クラブ〉今回のミステリは、
エルドラドを追い続けた探鉱者の老人ピート。
彼はなけなしの全財産でウォール・ストリート・ジャーナル紙に
ウラニウム探鉱投資についての広告を載せた。
5年経ってもウラニウムが発見できなかった場合は全額を払い戻すという。
そしてピート老は財産を使い切るまで探査を続けるも、
ついにウラニウムは発見できず。
しかし、出資者に対する約束は守ったのだった。

もういいよ、4行の「読者への挑戦」付き。
なぜ、彼はしっかり払い戻しができたのか?
ちょ、これとおなじこと考えたことある(w

エラリー・クイーン最後の事件

 間違いの悲劇 (148)

『オセロー』をミステリ風に脚色すべく、
ハリウッドでシェークスピア漬けの毎日を送っていたエラリーは、
ロス警察のペルツ警部補を訪ねた折、モーナ・リッチモンドの訃報に接する。
死の現場は『ハムレット』の舞台と同じ名で呼ばれるエルシノア城。
サイレント時代に一世を風靡し巨富を築いた女優モーナの、
隠棲の地であった。
この怪死事件に幕を開けた城を繞る悲劇に翻弄され、
シェークスピアの呪縛に苦悩する名探偵。
終幕に待ち受ける、本格ミステリの精神に満ちた真相とは?

さて、正真正銘これが最後の聖典。
リー死去によるダネイの未発表長編のシノプシス(梗概)。

はっきりいって、かなりおもしろい。

ダイイング・メッセージやマニピュレーションなど、
クイーンが探究しつづけたミステリの集大成のよう。
これが完成していたら――と、心の底からと想わせます。

梗概だけなので、人物造形の添書、台本のような物語の骨子、
リーへのメモといった、Q流共作完成までのプロセスを感覚できます。
こんなの、ファン垂涎必定ですよ。
184ページの問答も好きだなぁ。

 女王の夢から覚めて 有栖川有栖 (234)

巻末エッセイ。
上のプロットの完成を依頼されたアリス氏のてん末。
残念なような、安心したような(w
(某禿がうなずいたのを勘弁してくれと思ったのは秘密だ)
エッセイ自体はとても魅力的。

解説 飯城勇三 (241)

訳者あとがき。
相変わらずツボをおさえた解説をなさりますな(一揖)
クイーン研究家はだてじゃないですね。
もしかしてこの人の功績ってものすごいと見た。

はあ。あらためてあのシノプシスには満足。
クイーンの先蹤の偉大さははかり知れないな。
ここまでの道のりは長いですが、どうかみなさんもよいクイーンを――
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