ディクスン・カー (John Dickson Carr)

1906.11.30〜1977.02.27
ペンシルヴェニア州ユニオンタウン生まれ。
パリ留学後、
1930年「夜歩く」を上梓し一躍メジャーに。
アメリカ人ながらイギリス暮しが長く、作中の舞台もイギリスが多い。
晩年はアメリカに戻り生涯の幕を引く。
このため「人名辞典」などで英米作家ともいわれます。
1963年、MWA賞の巨匠賞を受賞。
生涯に70の長編を執筆。
不可能犯罪の巨匠で、密室ものの雄。
ハウダニットへのこだわりは随一。
コナン・ドイルの研究にも傾注し、評伝を書き上げる。

別名義:カーター・ディクスン (Carter Dickson)

ジョン・ディクスン・カー名義:著作リスト

超参考
    It Walks by Night
1930「夜歩く」★★★☆☆

刑事たちが見張るクラブの中で、 新婚初夜の公爵が無惨な首なし死体となって発見された。 しかも、現場からは犯人の姿が忽然と消えていた! 夜歩く人狼がパリの街中に出現したかの如きこの怪事件に挑戦するは、 パリ警視庁を一手に握る名探偵アンリ・バンコラン。 本格派の巨匠ディクスン・カーが自信満々、この一作をさげて登場した処女作。 アンリ・バンコランシリーズ第1作。 カーのデビュー作。 さっそく密室もので、怪奇趣味もふんだんに発揮しています。 ところが密室トリックはそうとうあっさりしているし、 まぎれこんだローランの真相などもストレートです。 フェアすぎるともいえるんですけどね、伏線にさりげなさがないというか。 カバーの登場人物紹介も協力的とはいえません(w とはいえ状況の表現力というか演出力は秀逸で 黄金時代ミステリ特有の雰囲気はすでに健在。 細かく描写するべき箇所は周到に、 スピード感が欲しい箇所では威勢よくテンポアップしたりと そつがない文章力はのちの活躍を予感させます。 ミステリにかかせないカーの第一作なのでミスラーなら必読でしょうかね。 しかしあの状態で首 切断したら 血が噴水になって返り血たっぷり浴びないものなのかな……。
    The Lost Gallows
1931「絞首台の謎」★★★☆☆

夜霧のロンドンを、 喉を切られた黒人運転手の死体がハンドルを握る自動車が滑る! 十七世紀イギリスの首切役人〈ジャック・ケッチ〉と 幻の町〈ルイネーション街〉が現代のロンドンによみがえった。 魔術と怪談と残虐恐怖を、ガラス絵のような色彩で描いたカーの初期代表作。 『夜歩く』につづくバンコランの快刀乱麻を断つが如き名推理! アンリ・バンコランシリーズ第2作。 精巧に作られた絞首台の模型と、首をくくられた人形。 夜霧のロンドンを失踪する死者が運転するリムジン。 絞首刑吏ジャック・ケッチを名乗る殺人予告。 そして幻の町と絞首台が現代によみがえり―― うーん、統一感がないですね、全体的にちぐはぐで。 共犯にテディを選んだことによる、 メリットとデメリットなんかは巧いけれど、 無関係の人間まで複数殺す犯人像は受け入れがたい。 それ以上にラストで笑顔で鼻歌のバンコランがヤバい(;´Д`) 解説にあるバンコラン評は秀逸。 ジェフ・マールのほうがおいしいけど(^^ヾ ふと思ったけど、カーはビロードが好物なんだね(w
    Hag's Nook
1933「魔女の隠れ家」★★★★
チャターハム牢獄の長官をつとめるスタバース家の者は、 代々、首の骨を折って死ぬという伝説があった。 これを裏づけるかのように、 今しも相続をおえた嗣子マルティンが謎の死をとげた。 〈魔女の隠れ家〉と呼ばれる絞首台に無気味に漂う苦悩と疑惑と死の影。 カー一流の怪奇趣味が横溢する中に、 フェル博士の明晰な頭脳がひらめく……! フェル博士シリーズ第1作。 お得意の怪奇で幻想的な雰囲気にあふれた作品。 ゾワゾワする妖しい導入部なんてほとんどホラーですよ。 暴君の牢獄長官の伝説になぞられた展開も逸品。 一方で初登場のフェル博士のユニークな陽気さが際立ちます。 しかしこの時点で47歳だったとは… 矍鑠とした老人のイメージだっただけに驚く。 暗号講義を試みるも邪険に中断されてるのが萌え(w トリックは易しい(暗号除く)ですが、犯人当ては上級です。 それにしてもこの犯人ときたらまったく… いや、多くは語るまい。ここまで"意外な"犯人はまれですよ(w;
    The Mad Hatter Mystery
1933「帽子収集狂事件」★★★★
この話もまた、いつものフェル博士の事件のごたぶんにもれず、 そもそもの発端をある酒場に幕を開ける。 ロンドン塔の逆賊門の石段に、一人の男がしたいとなって発見された。 が、ゴルフ服着用の死人の頭の上には、 これまたおよそ服装とはちぐはぐなシルクハットがのっていた……!? ポオの未発表原稿へとつながっていく本編は、 その魅力的な謎の設定で、 江戸川乱歩がカーの代表作に選び出した初期の傑作である。 フェル博士シリーズ第2作。 あとるカーキチがカーの属性の1つに ユーモアを挙げてたことがあったんですよ。 いままではよくわからなかったけど、今回で納得。 本格ミステリでありながら一種ファースでも成り立つ快作です。 ――舞台は夜霧たちこめるロンドン。 "マッド・ハッター(帽子収集狂)"による帽子盗難事件が多発していた。 その被害に2度も遭った古書収集家のビットン卿は、 ポーの未発表稿本を自ら発見するも、自宅にて盗まれてしまっていた。 一方、ロンドン塔・逆賊門の階段で、ゴルフ服姿の男の死体が発見された。 およそ場違いのシルクハットをかぶって… そしてそのシルクハットはビットン卿が先日 盗まれたものだった―― 複数の事件が絡みあってなんとも複雑なんですが、 物語の展開とともにとぎほぐされていく様はただ見事。 終わってみればシンプルでさえあるのは(盗まれなくても)脱帽です。 弱点はロンドン塔のこみいった見取り図と電話かな。 前者はリアル、後者は時代ものだからしょうがないかもしれないけど… ともあれラストの幕引きの仕方など最高に痛快なので良作は確定でしょう。
    The Blind Barber
1934「盲目の理髪師」★★★★
大西洋をイギリスに向かう 豪華客船クィーン・ヴィクトリア号で発生した、 二つの盗難事件と殺人事件。 すれ違いと酔っぱらいのどんちゃん騒ぎのうちに、 消えたはずの宝石は現われ、死体は忽然と消え失せる。 笑いとサスペンスが同居する怪事件の真相やいかに? 巨匠カーの作品中、 もっともファルスの味が濃いとされる本書はまた、 フェル博士が安楽椅子探偵を務める本格編でもある。 フェル博士シリーズ第4作。 ニューヨーク、サウサンプトン、シェルブールを結ぶ 定期船上で巻きおこった大狂騒。 発端は乗客の外交官が持っていたフィルムの盗難だった。 そこには大物政治家たちの乱痴気騒ぎが映されており、 もし流出しようものなら国際的に醜聞がたってしまう。 そこで外交官一味は自分たちで捜索を開始。 盗まれたフィルムの残り半分をエサに 犯人をおびき寄せようとしていたところ、 頭を強打され意識喪失状態の女が倒れこむ。 その矢先、不審な物音を聞き、外へ飛びだした一同は 不幸な勘ちがいから宝石"エメラルドの象"を盗みだしてしまう。 さらに部屋へ戻ると女は消えており、 盲目の理髪師が刻まれた剃刀が残されていた……。 2つの盗難事件と殺人らしき事件、その裏に潜むものは? カー随一のドタバタコメディー。 ひとえに笑えるか否かで評価が決まる作品です。 私は中盤から終盤にかけて笑いこけてました(w これでもかこれでもかとつづく間のわるさときたら! 事件自体はけっして難解ではない、 しかし騒動のおかげで煙にまかれる加減が巧い。 怪奇やガチガチの本格の緊張解消に最適です。 しかし、船長がかわいそすぎやしないか(w
    The Three Coffins
1935「三つの棺」★★★★★

突然現れた黒装束の男の訪問予告に、 酒場で吸血鬼談義をしていたグリモー教授の顔色は蒼ざめた。 3日後、雪の中を謎の人物が教授を訪れた。 教授の部屋から聞えた銃声にフェル博士らがかけつけると、 教授は胸を撃ち抜かれ、客の姿は密室状態の部屋から消えていた! 史上名高い〈密室講義〉を含むカー不朽の名作。 フェル博士シリーズ第6作。 密室もの。 作中にフェル博士の「密室講義」も。 これで カー=密室 のイメージが強烈に付くんですよね。 じっさいはそれほど多くないのに。 (少なくもないけど。自他の割合や定義にもよる) 渾身の一作。
    The Arabian Nights Murder
1936「アラビアンナイトの殺人」★★★★★

ある夏の夜のこと、 ロンドンの博物館をパトロール中の警官は怪人物を発見したが、 その人物は忽然と消滅してしまった。 しかも博物館の中には殺人事件が発生していた。 ユーモアと怪奇を一体にしたカーの独特な持ち味が、 アラベスク模様のようにけんらんと展開する代表的巨編。 フェル博士がみごとな安楽椅子探偵ぶりを発揮する異色作である。 フェル博士シリーズ第7作。 アイルランドのカラザーズ警部、 イングランドのハーバート・アームストロング副総監、 スコットランドのデイヴィッド・ハドリー警視、 奇書「千夜一夜物語」の構成に付随し語られる、 ロンドンのアラビア博物館で起こった摩訶不思議な事件のてん末。 一夜をかけ耳をかたむけるフェル博士が導きだした真相とは? 今回は安楽椅子探偵とアリバイ崩しが目玉ですね。 (いつもの)突拍子のない事件の発端から、 論理のライトに照らされるにつれて明かされる事実の妙、 さらに展開する真相と解決の業、これぞ本格です。 ラストの―― 「わしという奇術師が、いちばん奥の箱にピストルを撃つ。  すると小鳩が一羽、舞い立って、  くわえていたオリーブの枝を、きみたちの良識の上へ落とす」 ――は、ノアでいいのかしらん? いまいち筋が通らないから、ちがうんだろうな><
    The Crooked Hinge
1938「曲った蝶番」★★★★★

ケント州の由緒ある家柄のファーンリ家に、 突然一人の男が現われて、相続争いがはじまった。 真偽の鑑別がつかないままに現在の当主が殺され、指紋帳も紛失してしまう。 さしもの名探偵フェル博士も悲鳴をあげるほどの不可能犯罪の秘密とは? 全編をおおう謎に加えて、本書は自動人形や悪魔礼拝など 魔術趣味の横溢する、本格愛好家への格好の贈り物である。 フェル博士シリーズ第9作。 我こそが本物のジョン・ファーンリ卿である、突如 現れた男は主張した。 現代の当主はタイタニック号の沈没の際、 パニックに乗じて入れ替わった偽物だという。 鑑別のため、幼い頃のジョンの家庭教師が召喚され、 決定的な証拠を持って真偽の決着がつこうとしていた、 その時、現当主が謎の死を遂げてしまった。 自殺も他殺も不可能としか思えない状況で… 事件の背後につきまとう、悪魔崇拝と自動人形"金髪の魔女"の影。 そして、白いドアと曲った蝶番を暗示するものとは―― 本書はつねに疑念がつきまとう作品です。 入れ替わりにはじまり、 事件も殺人か自殺かさえあやふやで、 どちらとして殺されたのか、動機も不明、 さらに1年前の事件、魔術に自動人形と、盛りだくさん。 これで投擲モーリが犯人だったらバカミス決定でしたよ(w 真相はいわゆる"足跡のない殺人"を雪なし足なし(!)で やってのけた異様な着想に感服です。ほう。 こういう、想像すると鮮烈な印象が残る残照的作品は偉大です。
    The Problem of the Green Capsule
1939「緑のカプセルの謎」★★★★
村の菓子屋で毒入りチョコレートが売られ、 子供達に犠牲者が出るという珍事が持ち上った。 ところが、犯罪研究を道楽とする荘園の主人が 毒殺事件のトリックを発見したと称してその公開実験中に、 当の本人が緑のカプセルを飲んで毒殺されてしまった。 カプセルを飲ませたのは誰か? フェル博士の毒殺講義をふくむカー中期を代表する傑作。 フェル博士シリーズ第10作。 小さな村の雑貨屋のチョコレート菓子に毒物が混入され、 子ども数人が死亡してしまう。 そんな不穏な空気のなか、村の名士チェズニイが、 人間の先入観、観察力の脆弱さを証明する実験を行なった。 さらにその実験中、毒入りチョコのトリックも暴くという。 だが、チェズニイは緑のカプセルを飲まされ絶命してしまった。 実験に参加した面子には、いずれも強固なアリバイが―― 心理学的推理小説、と銘打たれた一作。 毒殺事件をあつかったシンプルでいて本格ものです。 容疑者もごくわずかで、 犯行の一部始終が映画フィルムで撮影されているのも特徴的。 これは地味だけど堅実によくできてますね。 10の質問に目を光らせていたら フィルム自体の真偽はまったくの盲点で、種明かしで唸らされます。 冒頭のイタリアの廃墟ポンペイのシーンも印象的であざやかだわ。 終盤には「毒殺講義」もあり。正確には「毒殺者論議」か。 実在のそれをざっと触れてプロファイリングみたいな。 これもけっこう興味深いです。 ※英題「The Black Spectacles」
    The Case of the Constant Suicides
1941「連続殺人事件」★★★☆☆

妖気ただようスコットランドの古城に起きた謎の変死! 妖怪伝説か、保険金目当ての自殺か、それとも殺人か? 密室の謎に興味をそそられて乗りこんだフェル博士の目前で、 またもや発生する密室の死。 怪奇と笑いのどたばた騒ぎのうちにフェル博士の解いた謎は、 意外なトリックと意外な動機、さらに事件そのものも意外なものであった! フェル博士シリーズ第13作。 スコットランドのシャイラ城の円塔から 当主のアンガス・キャンベルが転落死した。 塔の最上階を寝室にしていた彼の部屋はしっかり施錠されており、 事故の可能性も薄く、自殺するような性格でもなかった。 また彼は事件前に多額の生命保険に加入しており、 自殺か他殺かは遺族にとってもゆゆしき事態であった。 そこで呼び寄せられたフェル博士の目前で同様の転落事件が発生、 さらに近所の小屋でも密室死亡事件が起こってしまう。 事件は自殺なのか殺人なのか、フェル博士の裁きとは? 事件より議論の仇敵であるアランとキャスリンがたのしい(w 酔っぱらってのドタバタといい、ユーモアが本書のメインかも。 ミステリのほうはドライアイスと釣りざおだものな(^^; 自殺・殺人のテーマはうまいのですが……。 戦時色がつよいのも思うところがあります。
    Till Death Do Us Part
1944「死が二人をわかつまで」★★★☆☆

雷鳴とともに、劇作家ディックは幸せの絶頂から 不幸のどん底へと叩き落とされた。 婚約したての美女レスリーと訪れたバザーの会場で、 婚約者の正体を教えようといった占い師が銃弾に倒れたのだ。 撃ったのはレスリー。 ディックは彼女が三人の男を殺した毒殺魔だと知らされる。 婚約者への愛と疑惑に揺れるなか、 密室での不可解な毒殺事件が新たに発生。 名探偵フェル博士が真相究明に乗り出すが…。カー中期の代表的傑作。 フェル博士シリーズ第15作。 劇作家ディックの婚約者レスリーがバザー会場の占い小屋で、 かつて夫や恋人であった三人の男を殺した毒殺魔だと告げられた。 その占い師の正体は内務省所属の病理学者。 過去、三人の男が毒殺されていたのはいずれも密室で、 警察は自殺と判断するしかなかったのだという。 そしてレスリーの次のターゲットはディックだといい、 罠を仕掛けようとするも、新たな事件が発生してしまう。 ――被害者は密室で毒により死亡していたのだ! ああ、密室が4つも出てくるもんだから ヒヤヒヤしたけど(期待なんてないw)、なるほどね。 単純な密室ものと見たら、まあ、かなりの凡作だけれど、 いくつかのトリックでひと工夫されているのは巨匠の意地でしょう。 後半のドタバタはフェル博士に疑問もあるけれど>< タイトルから薫るべきロマンスもじゃっかんよわいか。 解説は若竹七海女史。ぶっちゃけてて、そうとうおもしろいです(w よく聞く、駄作でも愛せる境地にはほど遠いですが(まだ出遭ってねぇし)、 登場人物の重要そうな会話にすぐじゃまが入って、 結果、事態が悪化する、ってのはよくわかる。あるある(w
    Panic in Box C
1966「仮面劇場の殺人」★★☆☆☆

かつて、舞台で俳優が急死するなど不幸の続いた仮面劇場。 そこでいま、新たに結成された劇団が初公演を控えていた。 演目は因縁の『ロミオとジュリエット』。 過去との符合に得体の知れぬ不安が漂う初公演前夜、悲劇は起きた。 何者かの放った石弓の矢が、観劇中だった往年の名女優の体を貫いたのだ。 フェル博士がアメリカで遭遇した難事件。 フェル博士シリーズ第22作。 改装前に女優が舞台で殺人、改装後の初興行で老俳優が発作で急死と、 いわくのある仮面劇場で、新たな劇団の舞台稽古のこけら落としのさなか、 ボックス席で観劇していた大女優が小道具の石弓で射殺されたらしい。 芝居がかった空気が蔓延する殺人事件にフェル博士が挑む。 ロミオを演じるフェル博士がおがめる貴重な作品(w 魅力がとぼしく、だらだら展開する殺人事件より、 フィリップとジュディ夫妻の確執のほうが興味深くてこまる。 結果的には重くて残念でしかないんですけどね、 もっとくだらない理由にこだわっていたってパターンでいいのに。 お尻をつついたわね! 人を油断させておいてお尻をつついたわね!(P.140)
    The Burning Court
1937「火刑法廷」★★★★★

出版社に勤務するエドワード・スティーヴンズは、 社のドル箱作家の書き下ろし原稿を見て愕然とした。 添付されている19世紀の毒殺犯の写真は、 紛う方なく妻マリーのものだった……! 婦人毒殺魔が流行のように輩出した17世紀と現代が妖しく交錯し、 カー独特の世界を創出した第一級の怪奇ミステリ! これはもう、非の打ち所ゼロ。最上級。 ラストシーンにカーの真髄を感じます。やばいから。 しかもタイトルよすぎ、ベスト1かも。
    The Emperor's Snuff-Box
1942「皇帝のかぎ煙草入れ」★★★☆☆

向かいの家で、婚約者の父親が殺されるのを寝室の窓から目撃した女性。 だが、彼女の部屋には前夫が忍びこんでいたので、 容疑者にされた彼女は身の証を立てることができなかった―― 物理的には完全な状況証拠がそろってしまっているのだ。 「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」と アガサ・クリスティを驚嘆せしめた、不朽の本格編! 真夜中。 イヴ・ニールはよりをもどそうと侵入してきた前夫ネッドとともに、 隣家の主モーリスが殺されているのを目撃する。 その息子トビイと婚約しているイヴは誤解が生じるのをおそれ、 あわててネッドを追いだすが、 その際のごたごたでイヴにこの殺人の容疑がかかってしまう。 アリバイを主張できるはずのネッドは 追いだされたときの事故で脳震盪をおこし意識不明の重体に。 窮地に立たされたイヴだが、 地元警察署長の友人の精神病医ダーモット・キンロス博士が 彼女の訴えから無罪を確信し、解決に乗りだすことに。 トリックのミステリでありながらハウダニットではない。 タイトルと表紙(原書は知らないけど)の大胆さがニクい。 絶妙にして微妙な作品でございます(^^; まあ、勝手にマジレスと暗示なので、 たゆまぬ筆力がものをいったなぁと。 口を滑らせた言葉は汝が主人、言わずに控えた言葉は汝が奴隷。 クセもアクも強い人物たちが事件をいかに複雑にするか。 序盤が再読したくなるクリスティ脱帽の技を満喫しましょう。
    Deadly Hall
1971死の館の謎★★☆☆☆

1927年のニュー・オーリンズ。 過去に奇々怪々な事件の起きたことで〈死の館〉という 異名をもつ〈デリース館〉に、またも発生した不可思議な事件!! 作者カーの若かりし日を彷彿とさせる 歴史小説作家ジェフ・コールドウェルの目を通して描かれる、 ジャズとT型フォード全盛の古き良き時代。歴史推理巨編。 1927年4月。 約17年前にひとりの来客が階段から不自然に転落し、 頸の骨を折って死亡したのが原因で、 "(デドリー)の館"と呼ばれる"デリース館"の主デイヴィッド・ホウバートに 招待された旧友のジェフリー。 この館にはデイヴの祖父がスペインの財宝(金塊)を 隠したとのも噂もあり、徹底的な捜索も行なわれたが、未発見。 そんな館でまたしても事件が。 デイヴの妹サリーナが自分の寝室の窓から転落し、 それが原因で心臓発作を起こし死亡したのだ。 事故か自殺か、それとも……。 殺人階段だの隠し部屋の財宝だの、 興味は引くのですが、前フリが長すぎ。 (密室変死)事件が発生するまで200ページですからね。 会うたびにペニーを剥いてしまうジェフはおもしろいけど(w カーの伝記の要素も、とあるけれど、これも半端すぎますって。 歴史ものにしても1927年設定なので、海外ミステリではざらですし。 ジェフの伯父ギルの探偵役、小トリックの寄せ集め、全体的に虚弱。 でもおじいちゃんになってもがんばってるカーは好き。
カーター・ディクスン (Carter Dickson)

ディクスン・カーの別名義。
主に豪放磊落なヘンリー・メリヴェール卿シリーズ(長編22、短編2)を発表。
カーター・ディクスン名義:著作リスト
    The Bowstring Murders
1933「弓弦城殺人事件」

イングランド東部の荒れ果てた海岸に臨む古城ボウストリング―― 夜な夜な幽霊が現われるというこの奇怪な古城に 二人の客が訪れた夜、甲冑室で起った密室殺人―― しかも容疑者は殺されたレイル卿の愛娘だった! ヘンリー・メリヴェール卿の前身といわれる犯罪学者、 ジョン・ゴーント博士登場の古典的作品。
    The Plague Court Murders
1934「プレーグ・コートの殺人」★★★★

プレーグ・コート――黒死病流行の時代に端を発する 奇怪な呪詛に満ちたこの邸は、 今や降霊術が行なわれる幽霊屋敷として知られていた。 そしてその降霊術の夜、石室に籠もった降霊術師は血の海に横たわり、 無残な姿で発見された。 完全な密室だった石室の周囲は、 当夜の雨のため泥の海と化し、足跡さえも残っていなかった。 しかも死体の傍らには凶器と思われる短剣が…… 初登場のH・M卿と奸智にたけた犯人の息づまる対決! H・M卿シリーズ第1弾。 まさにカーの本領発揮ですね。 前半は幽霊屋敷(プレーグ・コート=黒死荘)での降霊術の最中、密室で殺人。 後半は破天荒なH・M卿が初登場し、ユーモアをまじえ解決へ。 しかし、H・Mが登場しただけで オドロオドロしい空気がいっぺんに吹っ飛んじゃうのがおかしい(w 極端なものぐさで、おしゃべり好きの、 だらしのない格好で、いつも眠そうな眼をしてにたにた笑っている男。 両手を太鼓腹の上で組み、足を机の上に投げ出し、 趣味といえば、三文小説を愛読し、 世間が自分をまともに扱ってくれないことが大不平で、 弁護士と医師の資格を持っているが、ひどい言葉を平気で口にする。 この男が准男爵ヘンリー・メリヴェール卿で、戦闘的社会主義者として通し、 うぬぼれも強く、わい談の名人でもあった。 そして、ルイス・プレージの短剣。 このミステリはこれに尽きます。 黒死病流行の時代からの因縁の特殊な短剣。 それを現代へリンクさせることでのオカルト効果が、 それにトリックもからまり共同作用が上昇。うまいなぁ。 (それだけに種明かしでは拍子抜けしかねませんがw;)
    The White Priory Murders
1934「白い僧院の殺人」★★★★★

ロンドン近郊の由緒ある建物〈白い僧院〉―― その別館〈王妃の鏡〉でハリウッドの人気女優が殺された。 建物の周囲三十メートルに及ぶ地面は折から降った雪で白く覆われ、 足跡は死体の発見者のものだけ。 犯人はいかにしてこの建物から脱け出したのか? 江戸川乱歩が激賞した、《密室の王者》の名に恥じない 不可能犯罪の真髄を示す待望の本格巨編! H・M卿シリーズ第2弾。 真っ向勝負の、純正な雪の密室もの。 こりゃ雪ミス大好き人間にはたまらんわ(;´Д`) 読んでるだけで莞爾としてしまう(w しかもですよ、ちょうどこれを手にしてる最中に、 めずらしく雪が積もってたし。なんか泣ける。 ――っと、軌道修正。 本書はお家芸のオカルティズムは裁断され、 キャストもハリウッド女優や映画監督など、 現代的なのが特徴。 ロジックもクイーンばりに堅靭で、 トリックもシンプルでありながら切れ味があり、 完成度は(ハウダニットとして)相当なものですよ。 この手のテーマのものでは最高峰でしょう。 しかしこれ、表紙があまりにも蠱惑的すぎ…
    The Red Widow Murders
1935「赤後家の殺人」★★★★★

その部屋で眠れば必ず毒死するという、血を吸う後家ギロチンの間で、 またもや新しい犠牲者が出た。 フランス革命当時の首斬人一家の財宝をねらうくわだてに、 ヘンリ・メリヴェル卿独特の推理が縦横にはたらく。 カーター・ディクスンの本領が十二分に発揮される本格編である。 数あるカーの作品中でもベスト・テン級の名作といわれる代表作。 H・M卿シリーズ第3弾。 "ひとりで"入ったものは必ず毒死する。 過去に4人もの人間を葬った、赤後家(ギロチン)の間とも呼ばれる 曰くつきの部屋の封印が60年ぶりに開かれた。 徹底的に捜査をし、罠の類もないと判明。 そうして実験の総仕上げと、集まった客人たちがトランプを1枚ずつ引き、 最も強いカードを引いた者が、その部屋へひとりで2時間入ることに。 ――果たしてその人物は伝説どおり、毒によって死んでいた。 HMの目前で起こった密室殺人。狂気と呪いの真相とは? まず率直に「またかよ」と思う(w 毎度おなじみ伝承される怪奇と密室。 今回は先祖――フランス恐怖政治当時の首斬人(ギロチン)一家!――の代まで さかのぼる辺りが歴史ミステリの片鱗を感じられ、 論理とオカルトの撞着に嘆美します。ほれぼれ。 でも、なんか、落ち着いてくると、 歯茎のきずや催眠術や過去の4人とかは弱いかなあ。これも時代かな。 ベンダー殺しがガイを殺すためなのは悪魔的でやばいね。
    The Unicorn Murders
1935「一角獣の殺人」★★★☆☆

パリで休暇を楽しむケン・ブレイクは、美女イヴリンとの再会により、 “一角獣”をめぐる極秘任務に巻き込まれた。 そして嵐の中たどり着いた『島の城』では、 目撃者のいる前で怪死事件が発生。 死体の額には鋭い角のような物で突かれた痕が残っていた。 フランスの古城を舞台に、希代の怪盗、パリ警視庁の覆面探偵、 ヘンリー・メリヴェール卿が三つどもえの知恵比べを展開する! H・M卿シリーズ第4弾。  獅子と一角獣が  王冠をかけて戦った  獅子が町のどこでも  一角獣をやっつけた  白パンをやった奴  黒パンをやった奴  プラムケーキをやった奴  みんなで太鼓叩いて二匹を町から追い出した 嵐の夜、何者かの意志が働いたかのように、 "島の城"と呼ばれる館に集合した一同。 この中に一角獣にまつわる秘宝を狙う怪盗フラマンド、 それを追うパリ警視庁の名探偵のガスケも含まれているらしい。 やがてガスケと名乗る人物が目撃者のいる前で、 額を角で突かれたかのような傷を受け死亡してしまう。 見えない犯人、なぞの兇器、なにやら元気のないH・Mは……。 マザーグースと一角獣の伝説を引いたミステリ。 名乗っている人物像の真偽で混乱する、 それぞれの身分証明の不確定さがおもしろい。 やはり語り手が疑われる流れが最高だったな! 兇器に関しては警察ならわかれよといいたい(w
    THE JUDAS WINDOW
1938「ユダの窓」★★★★★

許婚の父を訪れたアンズウェルは、 勧められるままに酒を呑んだが急に意識を失ってしまった。 やがて目を醒した時、許婚の父は胸に矢をさされ死んでおり、 部屋は完全な密室と化していた―― 無罪を主張するアンズウェルを信じたH・M卿は、 〈ユダの窓〉の存在を主張してこの不可能犯罪に敢然と立ち向かう! H・M卿シリーズ第7弾。 法廷ミステリ。密室もの。 「白い僧院」よろしく、純度の高いハウダニット。 アンズウェルは、結婚の許可を得るため恋人の父親を訪ねる。 初対面でもあり、緊張して落ち着かず、挙動は不審に。 部屋に着き、勧められたウィスキーを口にした彼は、 のどに異様な感触を覚え、意識を失ってしまった―― そして、濁った意識の中、眼を醒ました彼が見た光景は、 ドアも窓も封鎖された完全な密室と化した部屋で、 胸に矢を射ち込まれて事切れている未来の義父の姿だった……。 当然、アンズウェルは罠だと訴えるも相手にされず、 殺人容疑に問われ、裁判所で裁かれることに。 絶対絶命の彼に、無罪を信じ、 "ユダの窓"の存在を主張するHMが法廷弁護に立ち上がった! と、全編を通しての法廷シーンがはじまります。 暴君な属性もあるHMが真摯にふるまう姿が萌える# 法廷ならではのユーモアもおかしく、かた苦しさは皆無。 密室の、さらに法廷ミステリの形式・構造そのものが 理にかなっており、ただ舌を巻くばかり。 (読了後、プロローグを読み返すと顕著) いやなレジナルドに一発食らわせるのも通常は難儀だし、 洒洒落落としたエピローグも後味がよくて好き。
    The Reader Is Warned
1939読者よ欺かるるなかれ★★★☆☆

女性作家マイナが催した読心術師ペニイクを囲んでの夕食会。 招待客の心を次々と当てたペニイクはさらにマイナの夫の死を予言した。 予言の時刻、夫は怪死を遂げた。 名探偵ヘンリー・メリヴェール卿に、 ペニイクは念力で殺したと主張するが…… 不可能と怪奇趣味を極めた著者のトリックに、読者よ欺かるるなかれ! H・M卿シリーズ第9弾。 女流作家マイナの屋敷に、彼女のすさまじい悲鳴が響きわたった。 仰天した来客たちが何事かと顔を出すと、 マイナの夫サムがよたよたとよろめき、倒れ、絶命した。 徹底的な検死が行なわれるも、はっきりした死因は判明せず。 じつはこの事件の数刻前、来客のひとりで読心術師のペニイクが サムは晩餐の時刻まで生きられないと予言していたのだ。 さらに事件後、彼は犯人は自分で念力で殺害したと自白する。 超能力による殺人はじっさいに行なわれたのか? そんなわけで読心術師が中心のミステリなんですが こいつの読心術の腕前がなかなかのもので、 序盤から登場人物たちの心をずばりと具体的に読んじゃうんですな。 そこへもっての念力殺人ですからね。 すぐさま次の殺人予告がなされ、それも実現し……といった流れ。 こわさはないけど、これをどう解決するのかという興味はつきません。 挑戦的なタイトルも気合がはいります(w 真相は手品のサガなのか、 死体が動いちゃうくだりなんかの種明かしにはがっくりくるね。 ありゃ専門的すぎやしませんの(´・ω・`) 動機(ペニイクの騙りふくめ)も雑なんだよね。
    He Wouldn't Kill Patience
1944「爬虫類館の殺人」★★★☆☆

第2次大戦下のロンドン、 熱帯産の爬虫類、大蛇、毒蛇、蜘蛛などを集めた爬虫類館に、 不可思議な密室殺人が発生する。 厚いゴム引きの紙で目張りした大部屋の中に死体があり、 そのかたわらにはボルネオ産の大蛇が運命をともにしていた。 そして殺人手段にはキング・コブラが一役買っている。 幾重にも蛇のからんだ密室と、 H・M(ヘンリ・メルヴィル卿)とのくみあわせ。 H・M卿シリーズ第15弾。 空襲サイレンが鳴りひびく大戦下。 動物園の園長ベントンが密室の部屋でガスにより死んでいた。 状況的に自殺としか思えぬが、同室にヘビも死んでいて、 もし自殺なら動物好きのベントンが巻き添えにするわけがない、 と娘ルイズは殺人であると主張。HMもこれを支持するが、 犯人はいかにして密室の部屋から姿を消せたのか? 正統ハウダニット。トリックがめずらしく読めました。 どっかで見たことがないような気もしないでもないですけど(w とにかくヘビづくしで、 HMが毒ヘビに追いかけまわされたり、 じつはあの巨漢がヘビが苦手だったりとニヤリとする場面も。 その上での犯人との対決はかっこよかったわ(;´Д`) 原題は「彼が蛇を殺すはずがない」 邦題の「爬虫類館の殺人」は偽りですね(^^; まあ、象徴はしていますけども。 なお、patience(ペイシェンス)は園長がヘビにつけた名前です。
    The Curse of the Bronze Lamp
1945「青銅ランプの呪」★★★☆☆

女流探険家がエジプトの遺跡から発掘した青銅ランプ。 持ち主が消失するという言い伝えどおりに、 イギリスへ帰国したばかりの考古学者の娘が忽然と姿を消した。さらに!? 本書は、ディクスン・カーがエラリー・クイーンと一晩語り明かしたあげく、 推理小説の発端は人間消失の謎にまさるものなしとの結論から 書かれた作品で、中期で最も光彩を放つ大作である。 H・M卿シリーズ第16弾。 物語はエジプト・カイロからはじまる。 祭司王ヘリホルの墓から発掘された青銅ランプ。 それをイギリスへ持ち帰ろうとした女探険家に、 地元の"占い師"が不吉な予言をした―― 自宅にたどり着くまでに木っ端微塵に消え去るというのだ。 一笑に付した彼女だったが、屋敷に帰宅した瞬間、 その姿を消してしまったのだった。そして第二の消失事件が……。 と、まあ、人間消失をあつかった作品です。 カーがクイーンと一晩語り明かしたあげく、ってのがきっかけと。 「クイーン談話室」なんかでもいくつか出てきたあれですね。 テーマやトリックはスムーズいいんだけど、 消失だけで400ページ以上引っ張るのはどうも……(^^; 残念ながら人間消失の謎よりも、 Qと一晩語り明かした話の詳細のほうが興味あるのであった(w ※英題「Lord of the Sorcerers」
    Night at the Mocking Widow
1950「魔女が笑う夜」★★☆☆☆

ストーク・ドルイド村の住人は脅えていた。 〈後家〉と署名した性的な中傷の手紙が次々と村人に送られていたのだ。 しかもこの怪人は予告どおり、 鍵のかかった若い女の寝室にどこからか姿を現し、 村人の恐怖をいやがうえにも高めた。 数日後、謎の殺人事件が……H・M卿登場の本格推理。 H・M卿シリーズ第20弾。 サマセット州ののどかな田舎の村ストーク・ドルイド。 この村はずれに座す、巨大石像"あざ笑う後家"が名物。 天然の産物であるこの岩石は北東から眺めると、 残忍に嘲笑している中年女に見えるというもの。 平和なこの村で、村人たちを中傷する手紙が横行していた。 印された書名は"後家"。ついには自殺者まで出てしまう。 この状況を危惧した村の本屋は 稀覯本を餌にH・Mに調査依頼を打診するが……。 んー、まず中傷の手紙だけってのが、退屈。 手紙のホワイダニットではね。 中盤ではしっかり密室事件も発生しますが、いまひとつ>< ラストも見慣れてきたよなぁ、あのやり口。かっこいいけど。 ただ、ドタバタファース色は強く、 滑走するスーツケースや泥合戦は笑えます(w カーに慣れてる人ならきっとだいじょうぶ! なお、読んだのは改訳(『わらう後家』改題)版。
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