江戸川乱歩が選んだベスト10

参考:江戸川乱歩が選んだベスト10
順位 年度 邦題 著者
1922 赤毛のレドメイン家 イーデン・フィルポッツ
1907 黄色い部屋の謎 ガストン・ルルー
1929 僧正殺人事件 ヴァン・ダイン
1932 Yの悲劇 エラリー・クイーン
1913 トレント最後の事件 E・C・ベントリー
1926 アクロイド殺害事件 アガサ・クリスティ
1933 帽子収集狂事件 ディクスン・カー
1922 赤い館の秘密 A・A・ミルン
1920 F・W・クロフツ
10 1934 ナイン・テイラーズ ドロシー・L・セイヤーズ
10 1925 百万長者の死 G・D・H&M・コール
別格 1930 男の首 ジョルジュ・シムノン
別格 1910 813 モーリス・ルブラン
イーデン・フィルポッツ (Eden Phillpotts)

1862.12〜1960.12.29
出身地はイギリス。(インド生まれ)
推理小説へ深い関心を持ち始めたのは60歳。
そのため、250を越える著書を遺すも、
ミステリと呼べるものは20冊程度。
別名義:ハリントン・へクスト
    The Red Redmaynes
1922「赤毛のレドメイン家」★★★★★

一年以上の月日を費やして イタリアのコモ湖畔におこる三重四重の奇怪なる殺人事件が 犯人の脳髄に描かれた精密なる「犯罪設計図」にもとづいて、 一分一厘の狂いもなく着実冷静に執行されてゆく。 三段構えの逆転と、息もつかせぬ文章の味は、 万華鏡の如くけんらんとして、緻密であり、 サスペンスに富み、重厚無類のこくがある傑作中の傑作。 古典ミステリ。文学風。 悲壮美漂う、荒涼たるダートムアの夕暮れ。 容疑者を追いイングランドからイタリア、コモ湖畔へ。 レドメイン家をめぐる奇怪な連続殺人事件。 はっきりいって、地味で堅硬で重厚で、 ミステリそのものの出来(構想)は凡作レベル。 (当時としては、むろんそんなことはないですが) そもそも演技のようには見えなかった、とか描写して、 結局は演技でした、ってのはアンフェアな>< ですが、乱歩が絶賛してるように、 万華鏡のような絢爛たる色彩、恋愛と論理、重層的な謎、 風光明媚な荘重さは心酔するのもやむなし。 二枚探偵の妙も見事です。 犯人もね、あの手のはあの時代では斬新でしょう。 もっとも、乱歩がいたくお気に召した理由は、 犯人の形見だと思うんですけどね(w ああいうの大好きっぽいもんな。エグい! あと、これ、「トレント最後の事件」の鏡写しのよう。
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E・C・ベントリー (Edmund Clerihew Bentley)

1875〜1956
ロンドン、西郊シェパード・プッシュ生まれ。
オックスフォード大学卒。
1902年に弁護士の資格を得、その後、編集員や記者として活躍。
    Trent's Last Case
1913「トレント最後の事件」★★★★

アメリカ財界の大立者、巨人マンダースンが別邸で頭を撃たれて即死した。 その結果、ウォール街の投機市場は旋風のような経済恐慌にみまわれ、 大混乱をきたした。重要な容疑者は美貌の未亡人であった。 敏腕な新聞記者ですぐれた画家であるトレントは 怪死事件の解決に出馬する…… 前世紀の推理小説から大きく前進した、現代推理小説の先駆。 ジャンルはミステリ(ミステリ→ロマンス→ミステリ)。 盟友チェスタトンの要請に応え、書き下ろしたこの一作は、 前世紀の推理小説から大きく前進し、黄金時代幕開けの記念碑的名作に。 1913年もので古くさいのですけど――指紋とかバックミラーの 説明まで入ったりする――トリックは大胆でただ感心。 やや手がかりがアンフェアな部分もありますが、 因襲もなけりゃ踏襲もない時代なので広い心で受け入れましょう(w トレントが通りすがりにメイベルを見かけたシーンの 表現力には舌を巻きましたよ。ちらっと見ただけ、なんだものなぁ。 事件自体も地味だし、恋愛小説のおまけにミステリが入ってるのかな、 と途中は思ったものですが、見事に裏切られました♪ デビュー作で「最後の」事件って形容詞も乙ですね。 読めば納得、なかなかに洒落ています。 ところがのちに「トレント自身の事件」、 短編集「トレント乗り出す」なども発行しちゃったようで。 解説によると、こちらは凡作らしいんで気をつけましょう(w
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A・A・ミルン (A. A. Milne)

1882.1.18〜1956.1.31
ロンドン生まれ。
ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ卒。
劇作家。童謡作家。
    The Red House Mystery
1921「赤い館の秘密」★★★★
英国の劇作家ミルンが書いた唯一の推理長編。 しかも、この一作でミルンの名が推理小説史上に残った名作。 暑い夏の昼さがり、赤い館を十五年ぶりに訪れた兄が殺され、 家の主人は姿を消してしまった。 二人のしろうと探偵のかもし出す軽妙な風味と、 専門家はだしの巧妙なトリックは、 通人の珍重するキャビアの味、と評されるゆえんである。 ご存知「くまのプーさん」の作者さんです。 この一作でもってミステリ黄金時代にちゃっかり名をつらねる訳です(w ということで、ミステリです。コージー。 あの時代なら目新しいであろうトリックも 現代では栄えないのはしょうがないですかねー。 "赤い館"なんて素敵な響きだけど、館ものじゃないし(w とはいえ ありがちなだけで評価されるはずもなく、 実際 水準は高いです。複雑でなく、テンポもいい。 緊迫感のない ぽかぽか明るい雰囲気と、 なにより探偵役とワトソン役が笑わせてくれます(^^) 楽しいよ。 できれば殺人なしがよかったのですけどねぇ。 古きよきがこれほどフィットするのは貴重ですぞ。 ところで、 >英国の劇作家ミルンが書いた唯一の推理長編。 なんてお触書があるけど、
    Four Day's Wonder 1933「四日間の不思議」 事故死した叔母の死体に妙な細工をしてしまったために、 殺人犯として追われるジェニー。 ところが捜査はとんでもない方向へ迷走し、 誰も彼も事件に巻き込まれ…。 ミルンが遺していた幻の長編ミステリ。
なんて作品もあるようで(w こちらは未読ですー。 ちなみに、A・A・ミルンは アラン・アレキサンダー・ミルンだそうです。 意外とごついのね(w
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G・D・H&M・コール (G. D. H. and M. Cole)

ジョージ・ダグラス・ハワード・コール 1889.9.25〜1959
マーガレット・コール 1893〜1980
夫婦合作の英国作家。ともに一流の経済学者でもある。
GDHCはロンドンのセントポール学校やオックスフォード大学に学び、
1925年、オックスフォード大学の教授となる。
1918年、マーガレット・イサベル・ポストゲートと結婚。
彼女はケンブリッジ大学教授J・P・ポストゲートの娘で、
その弟に「十二人の評決」を記したレイモンド・ポストゲートがいる。
1923年、病床に退屈したGDHCは「ブルクリン家の惨事」を執筆しデビュー。
ウィルスン警視を探偵に据えたシリーズが世に登場した。
    Death of a Millionaire
1925「百万長者の死」★★★☆☆

金鉱を発見した脱獄囚が、 財産譲渡の遺言状を書き終わらずに息をひきとった。 遺言状をめぐって謎は錯綜を極め、警視は不屈の努力を続ける。 英国屈指の経済学者夫妻の合作になる、異色に富む本格長篇。 ヘンリイ・ウィルスン警視シリーズ第2弾。 ロシアで金鉱を発見したアメリカ一の大富豪ヒュウ・ラドレットは、 イギリス一の大富豪で政治力もあるイーリング卿と ロンドンのホテルで会合を約束していた。 しかし、卿が到着するも、ラドレットはすがたを現さず。 ホテル係員たちが部屋にようすを見にいくと、 室内はめちゃくちゃに荒れており、大きな血痕まであった。 が、死体は発見されなかった。 その数時間前、ラドレットの秘書が重いトランクをかかえ、出発していた。 彼が死体を持ち去ったのか?その目的は? 採掘特許権をめぐる謀略、株式市場の操作、 資本・共産主義の対立などなど、 経済ミステリ、といえなくもない作品。 死体のない殺人というモチーフは気疲れするね。 ミステリとして読むと産業スパイ(?)な部分が余計で、 経済スリラーとして読むとミステリな部分がじゃまというか(^^; これねえ、脇役がビックすぎるんだな。 英米一の富豪の会合から物語がはじまるってのがもうね。 探偵役も好感の持てるいい人なんだけど、ゆえに無色だし。 10選からもれたのもいたしかたないか><
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ジョルジュ・シムノン (Georges Simenon)

1903〜1989
ベルギー、リエージュ生まれ。
1929年、かのメグレ警部初登場作「怪盗レトン」を執筆。
1966年、MWA賞巨匠賞を受賞。
    La Tete d'un homme / Le Chien Jaune
1930-31「男の首 黄色い犬」★★★☆☆

サンテ監獄の厳戒房舎第11号監房は、異常な緊張に包まれていた。 2名の婦人を殺害したため、その日の朝、死刑を宣告された凶悪な殺人犯が、 無名の手紙に誘導され、いま脱獄しつつある。 50メートル背後の闇の中ではメグレ警部の一行が、 犯人の背後にひそむ真犯人を捕えるために監視している。 歴史的名作『男の首』に、『黄色い犬』を併載。  男の首 富豪の婦人とその小間使がナイフでめった刺しにされ殺害された。 現場にははっきりした指紋と足跡が残されており、 やがてひとりの男が逮捕され、死刑判決を受けた。 が、メグレはこの事件になにやら裏があると確信し、 職を賭して男を脱獄させ、真犯人との接触を試みるが―― もちろん人気のあやつり系。 知恵比べより根比べになっているのが微妙なところ。 死刑囚を脱走させるアイディアはおもしろいです。  黄色い犬 町の名士のひとりが何者かに腹部を撃たれた。 運よく一命は取りとめたが、これが一連の事件のはじまりだった。 大量毒殺未遂、名士の失踪、殺人……。 そして事件が発生した現場付近で目撃される黄色い犬―― 相つぐ怪事件に町は恐怖に包まれ、恐慌状態に。 メグレだけは静かに事件を見すえるが―― 序盤以降、犬が空気すぎるけど、 フラミスらしい虚無感とパニック寸前の町、 一筋縄にいかない犯人の顛末、魅力的なヒロインと全体像はいい感じ。
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